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中国DeepSeek、低コスト宣伝の裏側 実際の投資額は1兆円超?

2025/02/03
更新: 2025/02/05

最新の報告によると、中国のAIスタートアップ DeepSeekのハードウェアコストは 5億ドル(約781億円)を大きく上回るとみられている。また、研究開発費用や総所有コストも非常に高額だという。

半導体研究・コンサルティング企業SemiAnalysisが1月31日に発表した報告書によれば、DeepSeekはGPU関連のハードウェア投資だけで5億ドルを超え、サーバー全体の設備投資額は約16億ドル(約2499 億円)で、そのうち9.44億ドル(約1474億円)がチップクラスターの運用に充てられているという。

DeepSeekの主要投資者である「幻方量化(High-Flyer)」 は、2021年の米国の輸出規制が施行される前に、1万枚のNVIDIA(エヌビディア)A100GPUを買いだめしていたと伝えられている。

専門家「600万ドルでOpenAI並みのAI開発」は誤情報

シリコンバレーのテクノロジー投資企業 Altimeter Capital の創業者ブラッド・ガーストナー氏 はXで「DeepSeekが600万ドル未満でOpenAIやAnthropicのようなAIを開発した」という報道は誤情報だと指摘した。

同氏は、単純な比較を行ってもこの主張は成立しないと説明した。

まず、OpenAIはAI製品「o1」の開発費を公表していないが、ガーストナー氏の推計では約1500万ドルとされる。そのため、DeepSeekとのコスト比較は 1500万ドル対600万ドル となり、極端なコスト差とは言えない。

さらに、DeepSeekの発表はOpenAIより約1年遅れているため、通常であれば技術進歩に伴いコストが50%以上削減されているはずだという。

また、AI企業 Anthropicの最新報告によると、DeepSeekの性能はAnthropicに比べ7〜10か月遅れているとされる。一般的に技術コストの低下は毎年3〜4倍の効率改善をもたらすため、DeepSeekのコストは期待される範囲内であり、「画期的なコスト削減」とは言えないと指摘した。

ガーストナー氏はCNBCの取材で「DeepSeekのコストは特別に安いわけではなく、単に通常の範囲内に収まるだけだ」 と述べた。

低コストアピールが市場を動揺、米国株価が急落

DeepSeekの研究者は、2024年12月にオープンサイト alphaXiv に論文を発表し、1月10日にリリース予定の「DeepSeek-V3」モデルが、国内外の主要AIモデルを超えると主張。さらに、高性能なNVIDIA H800チップを使用せず、訓練コストはわずか557万ドル だったと述べた。

その後、1月20日に推論モデル DeepSeek-R1を発表し、性能がOpenAIの「o1」正式版に匹敵する と主張した。

当初、XでのDeepSeekやChatGPTに関する検索回数はわずかに上昇する程度だったが、1月24日から急増し、週末にかけて継続的な上昇が見られた。

ニューヨークのオンライン分析企業「Graphika」 が米国政府に提出した報告によると、中国共産党(中共)のネット工作部隊が米国のSNS上でDeepSeekの話題を意図的に拡散していたという。これには、中共の外交官や大使館、官製メディアも関与し、「DeepSeekが米国のAI業界の覇権を脅かす」 との主張を強調した。

1月27日には、DeepSeekがAppleの米国App Storeのダウンロードランキングで1位 となり、その後、低コスト訓練に関する報道が拡散。これにより、市場では「最先端のAIチップは本当に必要なのか?」という疑念が生まれ、ハイエンドAIモデルやデータセンターへの巨額投資に対する不安が高まった。

その結果、半導体メーカーのNVIDIAとBroadcomの株価が急落し、1日で約8000億ドル(約トヨタ2社分)の時価総額が失われた。

「訓練コスト」と「開発コスト」は別問題

DeepSeekの発表した報告書には、600万ドルのコストは「DeepSeek-V3」の正式なトレーニング費用のみを指し、それ以前の研究開発やその他のコストは含まれていないと明記されている。

通常、AIモデルの訓練コストは開発コスト全体の一部に過ぎず、直接比較するのは適切ではない。例えば、Anthropicの「Claude 3.5 Sonnet」の訓練費用は数千万ドルとされるが、そのためにAmazonやGoogleから数十億ドルの資金を調達した。

「訓練コストが低くても、モデル開発には膨大な実験、アルゴリズムの設計、データ収集、スタッフの給与など多くの費用がかかる」 と、SemiAnalysisの報告も指摘している。

また、米国の投資企業Archerman Capital は、MetaやOpenAIなどの企業が巨額の資金を投じるのは最先端技術の開拓のためであり、「後発企業は先行企業の研究成果を活用できるため、開発コストが低く見えるだけだ」と述べている。

「例えとして適切かは分からないが、新薬の開発には10年と数十億ドルが必要なのに対し、ジェネリック医薬品の開発は短期間かつ低コストで済む。AIの開発コストも同様に、統一した基準がないため、比較が難しい」と、同社の報告は指摘している。

林燕