【プレミアム報道】TikTokの闇に飲み込まれる米国の若者たち(上)

2024/05/17
更新: 2024/05/17

認知戦は人間を標的とする。社会全体が戦場となる」
=中国軍機関紙

2020年11月。家路を急ぐショッツ夫婦の顔に、表情はなかった。

ついさっき、18歳の娘アナリーさんがコロラド州の農場で自ら命を絶ったとの知らせが舞い込んできたのだ。

同日朝、夫婦は娘とビデオ通話し、夜の11時にはテキサスから家に戻ることを伝えたばかりだった。予兆などなかった。夫婦は車を走らせたが、娘に会えるのは4時間後だ。

「これまでに経験したことのない、地獄のようなドライブだった」。ロリー・ショットさんはエポックタイムズの取材で語った。「まるで悪夢のようだった」

「何時間も車を走らせながら、どう現実と向き合うべきか考えていた。息子にこう言ったのを覚えている。『全て嘘よ。彼女は納屋にいる。彼女は動物たちと一緒にいる。彼女がそのようなことをするはずがない』とね」

ロリー・ショットさんは何カ月もの間、娘がなぜ自ら命を絶つことを選んだのか、そして、母親として何ができたのかを考えた。

アナリー・ショッツさんの生前の写真2020年9月13日撮影。(Courtesy of Lori Schott)

1年半後、ロリー・ショットさんは自分を奮い立たせて、娘の日記を開いた。「TikTok 」と題されたページには、「厳密に言えば、私が自殺すれば問題はなくなる 」と書かれていた。ショットさんは、そのページの内容にはTikTokアプリからの引用が含まれていると考えた。

数カ月後、ロリー・ショットさんは業者に依頼し、娘のスマートフォンを解析した。

ロリー・ショットさんはすぐに答えを見つけた。「彼女のTikTokページを開いた。予想は当たっていた」。娘のアナリー・ショットさんが亡くなってから2年経った。しかし、彼女のTikTokのフィードページは、依然としてうつ病関連のコンテンツや自殺をほのめかす内容で満たされていた。

TikTokは、自傷行為や自殺につながる可能性のあるコンテンツについて、特別なポリシーを設けている。

2022年、アナリーさんの友人の一人がショット家を訪ねてきた。友人はショットさんに、自分とアナリーさんがTikTokで自殺のライブ配信を見たことを打ち明けた。二人はその後、アプリを削除することにしたが、およそ1週間後に再びダウンロードした。

「TikTokは、彼女の脳を支配していた」とロリー・ショットさんは言った。「私に言わせれば、TikTokは彼女がどのような女性であるかを割り出し、弱点を見つけ、蝕んだのだ」

「彼女が亡くなった今でも、TikTokのフィードページには、不安や憂鬱、『あなたに未来はない』といったようなコンテンツでいっぱいだ」

「そのようなことが許されていいのだろうか」

娘のアナリーさんは、フェイスブックやインスタグラム、スナップチャットといった他のソーシャルメディアも使っていた。内容を考えれば「TikTokは間違いなく最悪だった」とロリー・ショットさんは言った。

TikTokに関する懸念は以前から持ち上がっていた。若者のメンタルヘルスへの影響だけではなく、国会議員や安全保障の専門家は、中国共産党がアプリのデータにアクセスできること、影響力工作や偽情報の拡散に悪用されるリスクがあるとして警鐘を鳴らしてきた。

4月23日、米上院は圧倒的多数の賛成で法案を可決し、中国にあるTikTokの親会社ByteDanceに対し、1年以内に米国事業を売却するよう迫った。

有害なコンテンツ

北京を拠点とするテック企業ByteDance(ByteDance)は2016年、ショートビデオプラットフォーム「抖音(Douyin)」を開発し、その1年後に国際版の「TikTok」を開発した。

その利用者数は飛躍的に伸びている。現在、米国の人口の半分以上に相当する1億5,000万人以上がTikTokを利用している。その約半数は30歳未満の若者だ。ロサンゼルスとシンガポールに本社を置くTikTokは、ByteDanceの完全子会社である。

北京のレストランにあるTikTokのロゴ。2020年9月20日撮影。 (Greg Baker/AFP via Getty Images)

ジャーナリストであり技術者でもあるジェフリー・カイン氏は、アメリカのZ世代の精神的健康が損なわれており、その多くがTikTok中毒に起因していると述べた。

有害コンテンツから子供を守る機能の有効性を確かめるため、ジェフリー・カイン氏は様々なテストを行なった。その結果、TikTokを使う子供は有害コンテンツに最も簡単にアクセスできることがわかった。

さらに、TikTokの中国版である「抖音(Douyin)」では子供向けにブロックされている有害コンテンツが、TikTokの子供ユーザーには閲覧可能となっていたことが、ジェフリー・カイン氏のテストで明らかになった。「抖音(Douyin)」では、子供ユーザーが有害コンテンツを視聴しようとすると、中国公安部による「若年層には不適切な内容」である旨の警告文が表示される。

「中国当局は明らかに、それらのコンテンツが極めて有害であることを把握している」とカイン氏はエポックタイムズに語った。「彼らがByteDanceを実質的に支配していることを考えると、なぜ中国では有害コンテンツがブロックされるのに、米国では有害コンテンツが表示されるのを野放しにするのか」。

「有害コンテンツが子どもたちに恐ろしい影響を与えることを知っていながら、それを放置したのだ」

「手品師のような」アルゴリズム

ロリー・ショットさんは、TikTokはかわいい動物やダンス動画ばかりだと思っていた。そのため、娘のアナリーさんが実際に何を見ていたのか知らなかった。

「お菓子屋さんだと思って娘を送り込んだら、実は恐ろしい店だったような感覚だ」とロリー・ショットさんは語った。「あなたが足を踏み入れたとき、初めてその闇と絶望感を味わう。子供たちは足元を掬われ、どんどんハマっていく。アルゴリズムもそれを加速させるのだ」

有害なテクノロジーの暴露に取り組む非営利団体「Center for Humane Technology」の共同設立者で、技術倫理学者でもあるトリスタン・ハリス氏は、「増幅する(amplify)」と「宣伝する(propaganda)」の合成語を作り、「amplifaganda」と呼んでいる。

FBIのクリストファー・レイ長官。2024年3月11日撮影 (Chip Somodevilla/Getty Images)

「手品師のように、自分が注目してほしいものに人々の注意を集中させることで、人々の態度を選択的に増幅させ、影響を与える能力だ」とハリス氏は解説する。

今年初めの上院公聴会で、FBIのクリストファー・レイ長官は、ByteDanceがTikTokのアルゴリズムを所有していると指摘。ByteDanceがTikTokによって収集されたデータにアクセスできなければ、そのアルゴリズムは機能することができないと断言した。

いっぽう、TikTokは中国の親会社から独立していると繰り返し主張してきた。TikTokによれば、米国の顧客データはバージニア州に保管され、シンガポールでバックアップされている。同社は米国で収集したデータを中国共産党と共有したことはなく、今後も共有することはないとしている。

しかし、BuzzFeedの報道によると、外部に流出した2021年9月のTikTok社内会議の音声では、北京にいるエンジニアがすべてのデータにアクセスできる「マスター管理者」として言及されている。『フォーチュン』誌の最近の記事によると、TikTokの上級データサイエンティストは2022年、北京にいるByteDanceの幹部に直接報告をしていたという。

上院の公聴会では、委員会の副委員長であるマルコ・ルビオ上院議員(共和・フロリダ)はFBIのレイ長官に対し、次のような質問をした。すなわち、中国共産党(CCP)がByteDanceに対し、「アメリカ人同士を争わせ、陰謀論を流布し、互いの喉元に手を出すようなビデオを流す」ことを望めば、ByteDanceはそれに従わなければならないのか、と。

レイ氏は、それが事実であることを確認し、「その種の影響力工作や、先ほど言及されていた様々な種類の影響力工作は、探知するのが非常に困難だ。これもTikTokが国家安全保障上の重大な懸念である一因だ」と付け加えた。

バイトダンスの上海オフィスで働く従業員 (Pedro Pardo/AFP via Getty Images)

Center for Humane Technologyのもう一人の共同設立者であるアザ・ラスキン氏は、ハリス氏とのポッドキャストにおいて、TikTokはアメリカ文化に影響を与えることができる「文化インフラ」だと語った。

TikTokは中国共産党の管理下にあるアルゴリズムを採用していることに加え、中国共産党が中国企業を強く支配していることも、大きな懸念事項となっている。中国の反スパイ法の規定によると、ByteDanceは当局から要求があった場合、アメリカのユーザーデータを引き渡さなければならない。

「データこそがTikTokのアルゴリズムの駆動力だ。同時に、データは私たちの思考を操作するために使われるのだ」とラスキン氏は語った。

エポックタイムズはTikTokにコメントを求めている。

(つづく)

悩みを抱えた時の相談先は以下の通り。

・いのちSOS(特定非営利活動法人 自殺対策支援センターライフリンク)

0120-061-338(フリーダイヤル・無料)(月曜日~日曜日 00:00~24:00(毎日24時間)

・子供のSOSの相談窓口(文部科学省)

0120-0-78310(フリーダイヤル・無料)

・よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター)

0120-279-338(フリーダイヤル・無料)(24時間対応)

岩手県・宮城県・福島県から
0120-279-226(フリーダイヤル・無料)(24時間対応)

Terri Wu
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