【プレミアム報道】TikTokの闇に飲み込まれる米国の若者たち(下)

2024/05/18
更新: 2024/05/17

前編はこちら:【プレミアム報道】TikTokの闇に飲み込まれる米国の若者たち(上)

アルゴリズムが「国家機密」

ドナルド・トランプ大統領が2020年、国家安全保障上のリスクを理由にByteDance社にアプリの売却を命じて以来、中国はTikTokの売却に反対してきた。テキサスに本社を置くオラクルによる買収計画も頓挫した。トランプ大統領はまた、TikTokアプリを禁止する大統領令を出したが、TikTokは憲法修正第1条を理由に法廷闘争に持ち込み、大統領令を阻止した。

2021年にバイデン大統領が就任した後、彼は禁止措置を商務省の調査に切り替え、まだ報告書を作成していない。一方、共和党議員は公聴会を開き、アプリがもたらす国家安全保障上の懸念に対処するよう働きかけ続けている。

2023年3月、中国商務省の報道官は、技術輸出の問題を理由に、TikTokの売却に強く反対した。ウォール・ストリートジャーナルによると、中国当局はByteDanceに対して、強制売却よりも米国での利用停止を選ぶだろうと示唆した。ロイター通信は、中国共産党が2020年にも同様の姿勢を示したと報じている。

シンクタンク「Government Accountability Institute」のピーター・シュワイザー会長によれば、中国共産党はTikTokのアルゴリズムを「国家機密」のように扱っているという。

彼はエポックタイムズの取材に対し「私に言わせれば、彼らの真の関心事はまさにそこにある。それは商業活動のためのプラットフォームを提供することではなく、影響力工作に使うプラットフォームを作ることなのだ」と語った。

ワシントンのユニオン駅に掲載されたTikTokの広告2023年3月31日撮影 (Madalina Vasiliu/The Epoch Times)

アプリによる「認知戦

シュワイザー氏は、TikTokは中国共産党が「西側諸国の頭脳を鈍らせる 」ための「認知戦」の一環だと考えている。

「私たちの子供たちはByteDanceから綿菓子をもらい、中国の子供たちはほうれん草をもらっている」と述べ、アプリの二面性を指摘した。

認知戦は心理戦の一種であり、中国共産党が西側諸国に浸透し、弱体化させるためのキャンペーンの根底にある「三戦」のドクトリンの一つである。

中国の国防大学の軍事理論家は「認知空間」について「感情や意志、信念、価値観が存在する無形の次元」と定義した。

中国共産党軍の機関紙に掲載された2017年の記事には、「認知戦は人間を標的とする。社会全体が戦場となる」と書かれている。

その著者は「情報や大衆的な精神的・文化的製品を武器として」使うことで、「敵対する者の頭脳に直接干渉し、コントロールする」といった精神的な危害を加え、さらには降伏や自殺など、自身の利益に反する行動を取らせるよう提唱している。

さらに、中国の学者が国費を投じて行った研究プロジェクトでは、ネット上の感情的なコンテンツはプロパガンダを増幅させるのに非常に効果的であることが明らかになった。

研究によると、感情的なコンテンツは「視聴者に 『独立した思考』をしているとの幻想を抱かせ、非合理的な感情を 『義憤 』や 『共感 』に帰結させ、価値の混乱を激化させることができる」という。

シュヴァイツァー氏は、若者の感情的なプラットフォームであるTikTokは、中国共産党のプロパガンダに最適な媒体だと述べた。

「プロパガンダについてよく以下のことが言われている。『いったん彼らがその一線を越えて、その感覚を自分のものだと思えば、しめたものだ。あとは彼らが望む方向に舵を切ることができるから」と彼は言った。

「そして、彼らはすでにそうしているのだ」

TikTokの影響力工作

規制法案に対するTikTok側の影響力工作の規模を見れば、その動員能力は一目瞭然だろう。

3月初旬、TikTokは規制法案に反対するロビー活動をユーザーに呼びかけた。TikTokアプリを開くと、多くのユーザーに「行動を起こそう:TikTokの閉鎖に反対する声を上げよう」という内容のポップアップメッセージが表示された。ユーザーは郵便番号を入力するよう促され、ユーザーが郵便番号を入力すると、地元選出の議員の事務所の電話番号が表示される仕組みだ。

TikTok法案を推進する主力議員のもとには数千件の電話が届いた。チップ・ロイ下院議員(共和・テキサス)によると、法案が可決されれば自殺すると脅す子供たちからの電話もあったという。

トム・ティリス上院議員。2023年6月1日撮影 (Anna Moneymaker/Getty Images)

3月中旬に下院が352対65の圧倒的多数でこの法案を可決した後、上院議員にも同様の電話がかかってくるようになった。

トム・ティリス上院議員(共和・ノースカロライナ)は憂慮すべきメッセージを受け取り、それをソーシャルメディアに投稿した。

「いいか、よく聞け。もしお前がTikTokを禁止したら、私はあなたを見つけて撃つわ。」メッセージを残した女性の他にも、ゲラゲラ笑う声が録音されていた。「それでお金儲けをする人もいるのよ。私はそうやって金持ちになりたいの。TikTokは私にとって唯一の娯楽。とにかく、お前を撃って、切り刻んでやる。あばよ」

議員たちは、この法案はTikTokを禁止するものではなく、外国の敵対勢力にコントロールされたアルゴリズムやデータ収集機能を持つアプリからアメリカ人を守るための措置だと述べている。TikTokは、中国に拠点を置く親会社との関係を断ち切れば、運営を続けることができるという。

いっぽう、TikTokは異なる宣伝をしている。TikTokの広報担当者は先月、エポックタイムズの電子メールに「この法案は、作成者がどんなに偽装しようとしても、TikTokを全面的に禁止するものに違いない」と記した。

「この法案は、1億7000万人のアメリカ人の憲法修正第1条の権利を踏みにじり、500万社の中小企業から、彼らが成長し雇用を創出するために頼りにしているプラットフォームを奪うことになる」

一方、TikTokはワシントンでも全面的な広報キャンペーンを展開した。

同社はユニオン駅とレーガン空港に大画面の広告を出し、「TikTokは2023年だけで米国経済に240億ドル貢献した」と述べた。さらに、細かい文字を用いて、出典はオックスフォード・エコノミクスであると引用した。しかし、この調査がTikTokの依頼によるものであることは書かれていない。

上級立法補佐官によると、TikTokは議会の公聴会に参加する際、同社のCEOがソーシャルメディア・プラットフォームのMetaやXの幹部の隣に座ることができるよう働きかけたという。そうすればアメリカの人々は、TikTokをただのカリフォルニアに本拠を置くソーシャルメディア企業のひとつと見なす可能性がある。

ただのソーシャルメディア・プラットフォームか

TikTokが中国にとって単なるエンターテインメントとeコマースのプラットフォームではないことが、もう一つの事件で明らかになった。

亡くなった娘の写真を持つロリー・ショッツさん(左)。ワシントンD.C.の活動現場での一枚。2023年1月31日撮影。(Jemal Countess/Getty Images)

『ポリティコ』紙は4月17日付の報道で、中国大使館の関係者がTikTok規制法案に反対するロビー活動を行うために、議会職員と面会したと報じた。

上院情報委員会の主要メンバーはエポックタイムズの取材に対し、中国大使館の動きを見れば、中国共産党がTikTokを米国における影響力工作のための「戦略的資産」とみなしていることがわかる、と語った。

Pew Research Centerによると、米国のTikTokユーザーのおよそ4割は定期的にTikTokからニュースを入手しており、その大半は18歳から29歳である。

前出のカイン氏は、民主主義国では通常であれば外国人が通信インフラの所有権を持つことは固く禁じられているにも関わらず、TikTokは米国の通信インフラに深く浸透していると指摘した。

「TikTokは本質的にCNNやFox Newsと同じ役割を果たしている。もし、中国政府がCNNをコントロールしたら、どのような混乱が起こるか想像してみてほしい」

同氏によれば、TikTok規制法案は単に既存の法律を更新し、通信インフラに対する規制をソーシャルメディアにも拡大するものだという。しかし、TikTokは米国発のソーシャル・メディア・プラットフォームであるかのように見せかけているため、外国人に対するヘイトやアジア人ヘイト、あるいは言論の自由を盾に法案に反対している。

しかし、敵対国の指導者たちが、米国で憲法修正第1条の権利を無制限に享受すべきでないとカイン氏は言う。

TikTokが売却されるか禁止されるのは時間の問題だとカイン氏は考えている。

規制法案が可決された今、ByteDance社に残された選択肢は、TikTokの所有権を1年以内に手放すか、禁止されるかのどちらか一つだ。

TikTokは4月21日、「下院が、重要な対外援助や人道支援を隠れ蓑にして、1億7000万人のアメリカ人の言論の自由を踏みにじる禁止法案を再び強行採決しようとしている。非常に残念だ」とコメントした。TikTokは従業員に対し、憲法修正第1条を根拠に訴訟を起こすと伝えている。

一方、ロリー・ショットさんは、より多くの若者とその親を助けるために、娘アナリーさんの物語を伝えようと決意している。

「このトピックにもう触れたくない、娘のことをもう話したくないと思うことがある。その時は彼女のTikTokアカウントを開き、それ(注:有害コンテンツのフィードが)が今日も続いているのを見るの。そうすればまた前に進める」

(完)

悩みを抱えた時の相談先は以下の通り。

・いのちSOS(特定非営利活動法人 自殺対策支援センターライフリンク)

0120-061-338(フリーダイヤル・無料)(月曜日~日曜日 00:00~24:00(毎日24時間)

・子供のSOSの相談窓口(文部科学省)

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・よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター)

0120-279-338(フリーダイヤル・無料)(24時間対応)

岩手県・宮城県・福島県から
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Terri Wu