使えれば何でもOK? 他人の目なんて気にしない、中国の「春運」風景

2024/02/06
更新: 2024/02/07

旧暦(農暦)の正月休みを意味する「春節」は、中国共産党が1949年につくった言葉である。つまり、もともと中国に「春節」という名称の節句があったわけではない。

もちろん中華圏の人びとは伝統的な旧暦の正月を重視し、家族や親族が集まって盛大に祝う。この日(時期)は年越しであるため、昔から「過年(グオニェン)」と呼んで来た。中共がつくった政治用語である「春節」には、伝統的な年越しの意味は全くない。

ところが今では大陸中国だけでなく、シンガポールやマレーシアなど華人が多い東アジアの中華圏で広く使われているばかりか、日本の各メディアもそれに倣うかたちで「春節」を使っている。

台湾(中華民国)では新暦(グレゴリオ暦)のほかに、1912年1月1日を民国元年1月1日とする「民国暦」がある。ただ台湾でも、中共がつくった用語である「春節」を全く使わないわけではないらしく、日常の会話のなかで「農暦春節」「過年春節」などを適宜つかっている。

「緑のゴミ箱」に荷物を入れて引く学生

今年の旧正月(春節)の元旦は2月10日、連休期間は2月9日(金)〜2月17日(土)の8日間である。中国では先月末から、この長期休暇に合わせて、帰省や旅行のための特別輸送態勢の「春運」がすでに始まっている。

中国各地の鉄道駅や空港、長距離バスの発着場には、故郷への土産物がつまった「巨大な荷物」をもった旅客が集まっている。

なにしろ、すさまじい量の荷物だ。その運搬には、大きい布袋に竹の天秤棒が主流だった昔に比べて、今では大型のスーツケースを使う人が目立つようになってきた。ただし、なかには目を疑うような「モノ」がスーツケースの代用品として使用されることもある。

なかでも驚くのは、どこの誰が始めたのか分からないが、街角に置いてあるような車輪つきの「ごみ箱」を、そのままスーツケース(キャリーバッグ)として使う学生が少なくないことだ。

「安くて(ネットから約3千円で買える)大きいうえ、持ち運びに便利な車輪つき。しかも防水」「学校で使用する寝具セットをくるくる丸めたら、そのまま入れられるので便利」などが、帰省する学生に人気の理由だという。

ただし、懸念される点も1つある。見た目の「カッコ悪さ」は気にしないとしても、しっかりとフタを閉じて、荷物から目を離さずにいないと、誰かが中にゴミを入れてしまうからだ。

その対策は簡単で、蓋を厳重にテープで封じれば良い。ただし、テープ貼りにすると、自分が何かを出し入れする時に、かなり不便になる。そのため、なかには「ゴミを入れるな(禁止放垃圾)」と、このゴミ箱に張り紙をする人もいる。

画像(左)は、緑の「ゴミ箱」をスーツケース代わりに使用する人。画像(右)はその「ゴミ箱」に貼られた「ごみ入れ禁止(禁止放垃圾)」の紙。(SNSより)

使えるものは「何でも使う」の中国

民族大移動のこの時期には、スーツケース代わりの「ゴミ箱」のほか、どこにでもある段ボール箱、飼料を入れていた麻袋、塗料か何かの空きバケツなども、軽くて丈夫なためよく使われる。とにかく、使えるものは「何でも使う」のが中国人なのだ。

それらは、わざわざスーツケースを買う余裕のない人、あるいはそもそも年に一度の使用品にお金をかけたくないと考える人にとっては、なかなか合理的な良い選択肢になっている。

せわしく歩く人々が様々なモノを活用して荷物を運んでいる春運の風景は、眺めているだけでも興味深い。

日本では「こんなものを持って、とても街を歩けないよ」というような気恥ずかしいモノであっても、神経の図太い中国人であれば何の問題もないようだ。

(さまざまなモノを活用して、大量の荷物を運んでいる「春運」期間の風景)

「赤いビニール袋をかぶる」バイクのおじさん

余談だが、筆者(李凌)が10数年ほど前に、中国を旅行した時のこと。

ある町の野菜市場で突然、小雨が降ってきた。そこへ通りかかったのは、バイクに乗った中年の男性。おじさんは、そばにあった赤色の薄いビニール袋(元は野菜を入れていたもの)を、そのまま自分のスキンヘッドの頭にかぶせたのである。

かぶった袋は風に飛ばされないよう、しっかりとアゴ下に縛った。この作業を終えて、満足そうに口笛吹きながら颯爽と走り去るおじさんの後ろ姿に、私はちょっと感動した。

「他人の目なんて気にせず(いい意味で)我が道を行くって、なんかカッコいい!」と心底思ったものだ。

というのは、生まれは中国だが、ほとんど日本で育った私には到底できない「神ワザ」であるからだ。そもそも、そんな発想すらできなかっただろう。

そういう意味では、降り始めた雨のなかで「さっと赤いビニール袋をかぶった、バイクのおじさん」は、私にとっては新鮮な感動であった。

ただし、褒めてばかりもいられない。中国でも、もちろんヘルメットの着用義務があるのだが、それを守っていない中国人が非常に多いからだ。

それでも最近は、交通警察の罰金稼ぎが激しいのでノーヘルのバイク乗りは少なくなったらしい。もちろんヘルメットは、罰金逃れのためでなく、何よりも自身の安全を守るものだ。やはり「ビニール袋の帽子」ではなく、ヘルメットを着用したほうが良いだろう。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。