4人の候補者の熱い論戦が展開されている自民党総裁選は、29日の投開票日まで残るは8日となった。来たる10月4日に招集される臨時国会で誕生する日本の第100代首相を選ぶ選挙でもあるため、今回の自民党総裁選は日本の次期リーダーを決める「総理選」とも例えられている。日本が直面する外交や安全保障の課題に対して、各候補者はどのような見解を示しているのか。
河野太郎行政改革担当相
日米同盟の抑止力と情報収集能力を高めるためにも、ファイブ・アイズ(米英豪加NZの諜報網)への加入を希望すると言及。また日米同盟に加えて、「中国の軍事活動に対抗するための枠組み」についても提唱している。
台湾海峡などの課題に領土・領海を守るため国家安全保障戦略を改定、インテリジェンス機能を充実させることには前向きだ。
日中関係について「一方的な現状変更の試みには国際社会でしっかりと対応しなければならない」と述べたが具体策は提示しなかった。また「ひとつの側面だけでその国の関係は規定できず」と中国との対話路線を維持する考えだ。ビジネスを通じた日中関係も軽んじることはできないとの見方を示している。
日米同盟の抑止力強化は支持するものの、日本のミサイル防衛システム整備に積極性は見られない。安倍内閣時代より議論が進められてきた敵基地攻撃能力については、「昭和の時代の概念」であると述べた。
岸田文雄前政調会長
外交では、「権威主義的体制が拡大する中、台湾海峡の安定、香港の民主主義、ウイグルの人権問題などに毅然と対応」することを掲げ、「日米同盟を基に民主主義、法の支配、人権などの普遍的価値を守り抜き、国際秩序の安定に貢献する」とした。さらに、日米豪印の4カ国戦略枠組み「クアッド」および「2+2対話」の推進、自由で開かれたインド太平洋構想の推進を掲げた。
経済安全保障については、近日開催されたクアッドの閣僚級会議で半導体供給網の構築の必要性について触れられた。岸田氏はこれを支持する見解を示し、先端半導体安定供給の確保に向け、国際共同開発と国内立地を推進すると唱えている。
台湾などの課題について、米国などと連携して領土・領海を守るための国家安全保障戦略を策定する。またインテリジェンス機能を充実させる。対中外交については、人権問題対応部門を設置しつつ、「対話は維持」するとの路線だ。
岸田氏は広島県出身議員として、「核軍縮は核兵器根絶」を断固支持している。「大切なのはそのプロセスだ。現実的に核兵器保有国がおり、保有国との連携なくして根絶はできない。保有国と非保有国の橋渡し役として、核廃絶を目指す」と主張している。
高市早苗前総務相
激増するサイバー攻撃に、金融制裁含むサイバーセキュリティ対策を強化していく考えを示している。また、経済安全保障包括法を整備して、防衛関連の研究費を増額すると提言した。防衛と経済に密接に関わるエネルギー政策については、環境に優しい小型核融合炉の開発を推進する。
敵基地攻撃能力の保有について、高市氏は精密誘導ミサイルの配備や米軍のミサイル網の配備を推している。加えて、相手の通信網を無力化する電磁波攻撃などの有効性についても積極的に発言している。「国防政策全体を現状に対応できるものに変えなければいけない」と防衛政策の見直しの必要性を説いた。
自民党公開討論会では、高市氏は北朝鮮拉致問題について、「乗り込んででも話してくる」と、訪朝と金正恩委員長との面会を視野に問題解決を図ると意気込みを語っている。高市氏は、ブルーリボンバッチを身に着けていることでも知られている。
20日午後には蔡英文・民進党党首とオンライン会談を実施。同志国における需給の安定的確保に資する生産対応と消費構造を世界規模で再構築する観点が重要だとし、日台間協力は必至と語った。
さらに台湾のTPP、WHA、ICAO、ICPOといった国際協定や国連組織の参加も支援していくとの考えを示した。
野田聖子幹事長代行
外交は「積極的な対話重視」の姿勢を打ち出している。所信表明演説では、タリバンに制圧されたアフガニスタンの混乱を例えに、軍事力で平和をもたらすことができないと自論を述べた。また、日本は抑止力強化の前に、外交努力を重視するとし、防衛力強化に関しては多く言及しなかった。
対中姿勢について、「日本は近隣諸国との衝突を避ける努力を続け、平和主義を守り抜く」との考えを強調した。さらに、「相手に言い訳を作らないような距離感」で対中外交を続け、経済面の協力についても現状を変更する考えはないとしている。いっぽう、米中対立が激しくなる中、日本が「賢い行司役を買って出る必要がある」と中間的な立ち位置にいることが望ましいとの考えを示した。
安全保障問題については、日本の自衛を担う若き自衛官へのリスペクトと十分な処遇を確保することを掲げている。また、グレー・ゾーン事態などにすき間なく迅速に対応できる体制整備を急ぐとしている。
その他にも、経済安全保障や農業安全保障の観点から必要な制度を早急に整備するとホームページで公表している。
対中関係で際立つ候補者間の温度差
自民党総裁選は過半数を得た候補者が勝利する。一回目の投票で決まらない場合、上位2人の候補者による決選投票が行われる。2012年の自民党総裁選では、決選投票で安倍晋三候補が勝利し、長期政権を築いた。米国との連携を強化し、中国に比較的強硬な姿勢を示した。
外交青書や防衛白書によれば、日本は同盟国である米国と共に、発展と貿易、防衛の主要地域となるインド太平洋に今後も国力を注力する。中国が南シナ海や東シナ海で拡張主義を取るなか、地域戦略を発表している英、独、オランダ、EUのほか4カ国戦略枠組み「クアッド」のインド、オーストラリアなどと連携して、抑止力強化の必要に迫られている。米国不在の環太平洋パートナーシップ協定(CPTTP)議長国も務める。10月には発表される日本の新総裁は、地域の貿易、安全保障の舵取りを担うことが期待されている。
(佐渡道世)
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