小泉進次郎防衛相は8月18日、訪問先のオーストラリア・キャンベラでマールズ副首相兼国防相と会談し、自衛隊が整備を進める長射程ミサイルの発射試験をめぐり協力することで一致した。極超音速誘導弾を含め、国内で十分な射程を確保した試験が難しい場合、オーストラリアの広大な試験場を活用できる枠組みを整える。日本が保有を進める反撃能力を、実効性を伴う運用能力へつなげるための重要な取り組みとなる。
国内で難しい長射程ミサイルの発射試験
日本の反撃能力は、2026年に大きな節目を迎えた。3月31日、陸上自衛隊は射程を大幅に延ばした「12式地対艦誘導弾」の能力向上型(地上発射型)を熊本・健軍駐屯地に、島嶼防衛用高速滑空弾(HVGP)を静岡・富士駐屯地に、それぞれ初めて配備した。従来は百数十キロ程度だった射程は千キロ級へと延伸され、相手の攻撃拠点を遠距離から攻撃できる態勢の整備が進んだ。
ただ、装備を配備したことと、実効的に運用できることとは同義ではない。長射程ミサイルは、想定する射程や飛行条件に近い環境で試験を重ね、飛翔性能、誘導性能、目標への到達精度を総合的に検証する必要がある。ところが、こうした発射試験は日本にとって大きな制約を伴う。国土は狭く、人口密度も高い。周辺海域では近隣国の排他的経済水域(EEZ)との関係にも配慮が必要であり、長射程・高速のミサイルを十分な距離で発射試験できる空間は限られている。

豪州の広大な試験場を活用する狙い
オーストラリアは、この課題に対応する現実的な選択肢の一つである。内陸部には人口希薄な広大な乾燥地帯が広がり、ミサイルや宇宙機の試験に必要な安全区域を確保しやすい。日本の小惑星探査機「はやぶさ」と「はやぶさ2」のカプセルが帰還した場所でもあり、広大な回収区域を管理・運用する能力を備えていることがうかがえる。
この協力を法的、実務的に支えるのが、2022年に発効した日豪円滑化協定(RAA)である。両国の部隊が相手国で共同訓練や活動を行う際の出入国手続き、法的地位、装備品の持ち込みなどを定め、部隊間の協力を円滑にするための枠組みとなっている。
防衛省が18日に公表した共同声明によると、両政府は、次世代の長距離精密打撃能力と自律型能力を支えるため、オーストラリアの試験場を活用する協力の枠組みを構築する方針を確認した。日本の極超音速誘導弾事業への支援協力も盛り込まれた。
10年規模の試験枠組みへ 深まる日豪防衛協力
今回の試験協力は、突発的に浮上したものではない。近年、日豪両国は「特別な戦略的パートナー」として、防衛協力を段階的に拡大してきた。

護衛艦の共同開発・輸出をめぐる協力、レーザー技術に関する共同研究、大規模演習への部隊派遣、そして試験場の活用である。こうした取り組みを通じ、両国は装備面と運用面の双方で連携を深めつつある。今回のミサイル発射試験に関する協力も、その延長線上に位置づけられる。
中国の軍事活動を背景に高まるインド太平洋の抑止力
両閣僚の発言からは、日豪両国の接近が地域の安全保障環境と密接に結び付いていることが読み取れる。小泉氏は会談後、日豪協力をさらに強化して抑止力を高めていく考えを示した。マールズ氏も、オーストラリアと日本ほど戦略的な方向性が一致している国はないとの認識を示した。
背景には、東シナ海と南シナ海で軍事活動を活発化させ、台湾周辺で圧力を強める中国の存在がある。日本が反撃能力の整備を進める理由も、発射試験をオーストラリアと協力して実施しようとする判断も、インド太平洋地域の抑止力と力の均衡をいかに維持するかという課題に関わる。
海に囲まれ、国内で長射程ミサイルの試験を行う環境に制約がある日本にとって、安全保障上の利益を共有するオーストラリアの広大な国土は、地理的な制約を補う重要な条件となる。
海外試験に伴う情報管理・日程調整の課題
一方で、日本が長射程ミサイルの試験を他国に頼ることには課題もある。
試験は、オーストラリア側の安全管理や日程、環境規制などを踏まえて行う必要がある。外交関係や現地の事情によっては、試験の時期や進め方が影響を受ける可能性がある。
また、誘導装置や弾体に関する技術情報を海外で扱うため、情報管理も重要となる。
今回の合意は、日本が反撃能力の実効性を高めるための取り組みである。同時に、長射程ミサイルの試験を国内で行うことの難しさを示すものでもある。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。