労働する高齢者、寝そべる若者 中国の新退職制度は社会を変えられるか?

2024/07/24
更新: 2024/07/24

最近閉幕した中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議(三中全会)では、初めて「自発性」と「柔軟性」を法定退職年齢延長の基本原則として位置づけた。中国の退職年齢は1970年代から男性60歳、女性幹部55歳、女性労働者50歳と定められているが、時代の変化に伴いこの制度の改正が求められてきた。

他国と比較して、中国の法定退職年齢は世界で最も低い国の一つである。多くの先進国では、柔軟な退職制度を導入しており、一律に定年を迎えるのではなく、経済的なインセンティブを提供することで自発的な退職延長を促している。自発的に退職を延長することで年金の額が増える仕組みがある。これは退職問題が多くの国民の生活に直結するためだ。

シルバーエコノミー

今回の三中全会では、「シルバーエコノミー」の発展計画も発表され、高齢者に対する多様な雇用機会の創出が目指されている。

しかし、経済成長の鈍化と雇用市場の停滞が続く中、退職年齢の延長は大きな反発を招く可能性がある。中国では人口の高齢化が急速に進み、出生率も大幅に低下しており、労働力の確保と雇用の安定に大きな課題が残っている。

経済成長の鈍化と雇用市場の停滞が続く中、退職年齢の延長は大きな反発を招く可能性がある。中国では人口の高齢化が急速に進み、出生率も大幅に低下しており、労働力の確保と雇用の安定に大きな課題が残っている  (Photo by Guang Niu/Getty Images)

『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』によると、中国政府はこれまでにも退職年齢の延長を提案してきたが、これは必ずしも歓迎されているわけではない。分析者たちは、この措置が雇用市場にさらなる圧力をかけると警告している。

ラジオ・フリー・アジアのインタビューによれば、市民の間では「自発的な退職延長」が導入されたら、実際には多くの高齢者がポストを占有し続け、若年層の雇用機会が圧迫されるとの懸念が広がっている。

また、延長された退職制度は、中国の経済状況や年金の持続可能性にも影響を与える可能性がある。ラジオ・フリー・アジアによると、「経済状況が悪化する中で、退職年金の持続可能性が懸念される。現在5人の若者が1人の高齢者を支えているが、将来的にはさらに負担が増えるだろう」

経済状況が悪化する中で、退職年金の持続可能性が懸念される。現在5人の若者が1人の高齢者を支えているが、将来的にはさらに負担が増える  (Photo by China Photos/Getty Images)

現実的な可能性

中国社会科学院の2019年の報告書は、2035年までに主要都市の国家年金基金が枯渇する可能性を示唆している。年金は労働者が働いている間に納めるものであり、政府からの福祉ではない。そのため、退職年齢が延長されると、特に中高年にとっては大きな経済的負担となる。

また、ラジオ・フリー・アジアは、「退職年齢が延長され65歳に達するまで年金を受け取れない場合、中高年の失業者は生活が非常に厳しくなる」と述べている。また、「西洋諸国のように年齢差別を禁止し、年齢に関係なく雇用機会を提供する仕組みが必要だ」とも指摘しているが、現在の中国では年齢差別が横行しており、35歳以上の求職者にとっては厳しい現実が待っている。

徐天睿
エポックタイムズ記者。日米中関係 、アジア情勢、中国政治に詳しい。大学では国際教養を専攻。中国古典文化と旅行が好き。世界の真実の姿を伝えます!