米中対立の臨界点に立つアメリカの戦略的動向

2024/04/29
更新: 2024/04/29

 

 

ブリンケン米国務長官が中国を訪問し、世界が注目する中で、米中関係は新たな緊張の臨界点に達しようとしている。この訪問は、台湾問題とウクライナ危機を背景に、双方の戦略的立場がどのように進化するかが問われる、重要な時期に行われているからだ。この記事では、ブリンケン氏の訪問目的、台湾を巡る対立、及び米国が採るべき戦略について深掘りし、今後の国際関係にどのような影響を与えるかを探った。 

アメリカ国務長官、ブリンケン氏が中国を訪問し、26日には北京で中国共産党の党首と会談を実施した。ブリンケン氏が24日に上海に到着した際には、外交部の高官ではなく上海市の外事局副局長が迎えるという、比較的控えめな歓迎を受けた。このような出迎え方法は、中国側の冷淡な姿勢を物語っており、ブリンケン氏の訪中は、大きな成果を挙げることが困難であるとの見方を示していて、中米関係が大きな分岐点にあることを暗示している。 

ブリンケン氏の訪問の前に、バイデン大統領は950億ドル(約15兆円)規模のウクライナ支援法案に署名し、その一環として台湾やアジア太平洋地域に対する80億ドル(約1兆2千万円)の軍事支援が盛り込まれていたし、また、アメリカのメディアは、ロシアを支援する中国の主要な銀行を、国際決済システムから排除する計画があると報道していた。 

 

多くの切り札を持つアメリカ、ブリンケンの中国訪問 

テレビプロデューサー李軍氏は、新唐人テレビの番組「菁英論壇」において、ブリンケン米国務長官の中国訪問の主要な焦点は、中国共産党によるロシアへの支持が問題となっていると述べている。この問題は、ロシアとウクライナ間の紛争に大きく影響を与え、ヨーロッパ全域に及び、アメリカにとっても重要な影響力を持っているからだ。 

アメリカ議会は、上述のウクライナへ支援法案を通過させ、上院はその必要性を強く主張している。この問題はロシアとウクライナの紛争に直結しており、民主主義と独裁体制の対立の中心に位置しているため、党派間の対立を一時的に脇に置き、問題解決を最優先するべきであるという共通認識がある。 

しかし、現在の中国共産党とアメリカの関係は、単に冷え込んでいるという段階を超え、凍りついた状態にあるという。ブリンケン氏の中国訪問が近づく中で、中国共産党の外交部報道官である汪文斌氏は、記者会見で、アメリカが、中国のロシアの軍事産業支援を非難することに対し、それは全く根拠のない、極めて荒唐無稽な虚偽の主張であると、強く否定している。これは中国共産党の公式な立場を示すものだ。 

この公式な立場として、バイデン大統領、ブリンケン国務長官、アメリカ軍、中央情報局(CIA)の長官が言及した中国共産党によるロシアの軍事産業への支援についての発言は、すべて事実無根であるとされている。このような状況下で、どのようにして対話を進めていけば良いのであろうか。李軍氏は、ブリンケン氏はこの度の中国訪問を控えるべきだったと考えている。現状を見るに、米中間の対話は成果をもたらすどころか、かえって逆効果を生み出し、両国関係の悪化を招く可能性があると思われる。 

ボストン大学のハーキン教授は「菁英論壇」において、アメリカはいわゆる大戦略を持ち、物事を段階的に進めると述べている。しかし、中国の指導者や専門家の間では、アメリカがそのような手法を用いる理由が、理解されていないようである。 

実際に、バイデン大統領は典型的な政治家であり、どんな大きな問題にも対応できるように状況を整えようとするのが、彼のスタイルである。今回のブリンケン氏の中国訪問も、米中の緊張が高まる中で、状況を管理しようとする試みの一環である。 

今回、ブリンケン氏の中国訪問は、アメリカの広範囲にわたる戦略のごく一部に過ぎない。アメリカが現在進めている戦略は、実際には中国共産党への対抗策としての「ドラゴン討伐」であり、かつては中国に対して友好的な「パンダ派」と、対抗姿勢を取る「ドラゴン討伐派」が存在していた。「ドラゴン討伐派」が言う「ドラゴン」とは、一般的に理解されている通り、現在の中国共産党のことを指している。現在、アメリカには中国共産党に対抗しようとする人々が多くいるが、彼らはその意図を公には明かさない。その結果、中国共産党は、アメリカが友好的で、共通の利益を追求する意向があると主張しているが、それは実際のところ、根拠のないものである。 

元アメリカ副国家安全保障顧問であるマシュー・ポッティンジャー氏は、中国(共産主義の中国)に関して非常にわかりやすい例え話を用いた。彼は「最初は中国が穏やかであると考え、イルカを育てていたが、そのイルカがいつの間にかサメに変わってしまった」と表現している。

 アメリカ人がこのサメと対峙する際の考え方は明確である。動きは一見すると遅くて鈍感に映ることもあるが、実際には目標に向かってはっきりとした意志を持ち、断固たる行動を取る。たとえば、アジアから持ち込まれたコイがアメリカで問題になった時、銃や電気柵などの様々な対策が効果を上げなかった結果、最終的には湖の水を抜いて魚を全滅させるという極端な手段でコイを駆除したのである。

 ハーキン教授は、ブリンケン氏が、多くの切り札を持っていると指摘している。ブリンケン氏が中国を訪問する前には、「中国共産党の政治局常務委員7人、政治局委員、そしていくつかの省の党委員書記がアメリカに持つ資産を公開する準備が整っている」と述べていた。これはアメリカが中国共産党と向き合う際の非常に強力な切り札であり、アメリカは多くの選択肢を持っているのである。

 

アメリカの中国政策は段階的に変わりつつあり、決定的な変化の時が近づいている

 ハーキン教授が「菁英論壇」で語ったところによると、かつてアメリカが、中国に対して近代的な支援を行った背景には、他の西側の大国とは一線を画する、中国との友好的で協力的な関係を重んじる長い伝統があったという。ヘンリー・キッシンジャー元国務卿が中国共産党との外交を開始して以降、アメリカはこの方針を貫いている。しかし、中国共産党が力を増すにつれ、特に習近平が総書記になってからは、攻撃的な態度が目立った。彼らは、怒りを示せば相手が怖れると考えがちだが、実際は逆効果であり、繰り返し怒ることで、相手からの尊敬を失うことになるのだ。 

ハーキン教授は、ブリンケン国務長官が、中国を脅かす意図はないとしつつも、中国の銀行を国際決済システムSWIFTから排除することは、重大な措置であり、中国経済に甚大な打撃を与える可能性があると指摘している。この措置は、特に一般市民にとって深刻な影響を及ぼす恐れがあり、政府の損失よりも、生活に直結する市民の困難がより大きな問題であると述べている。

 さらに、ハーキン教授は、ブリンケン氏のカバンに重要な書類が含まれているとは考えていないと述べ、彼が今回中国共産党に伝えた主旨は、アメリカが検討している様々な対応策が存在するということであった。たとえば、新型コロナウイルスのパンデミックにより多数の命が失われた件に関して、習近平を職務怠慢やウイルスを意図的に世界へ拡散させたとして、訴える可能性もあるのである。アメリカや西側の訴訟文化は厳格であり、正当な理由がある場合は、毅然として闘うことが基本的な姿勢である。合理的な根拠があれば、訴訟での勝利を目指すべきであるとされている。 

トランプ前大統領は次のように言っている。「新型コロナウイルスによる一人の死亡につき、中国共産党は1000万ドル(約16億円)の賠償を支払うべきである」と。将来、このような状況が発生した際には、どのように対応すべきであろうか? 中国共産党が賠償を拒否することはほぼ確実であるが、賠償が行われない場合、その結果はどうなるのであろうか? それは戦争を引き起こす可能性があるのではないか。実際には、アメリカが大規模な戦略を練る必要があるだろう。今回、中国共産党の最高指導部、中央政治局のメンバー、各省の書記の財産を公開することは、その戦略の一環として行われるという。

 大紀元新聞の石山主筆は、かつて中国とアメリカが国際的な問題を話し合う場において、中国共産党の官僚たちは怒りを見せることが、有効な戦略だと信じていたと述べた。しかし、現代の国際関係においては、そのような行動は滑稽に映ると指摘している。 

中国共産党とアメリカが1979年に外交関係を樹立して以来、いくつかの段階を経てきた。最初は蜜月期、続いて緊密な協力期、そして共同繁栄期があったが、2017年を境に関係は大きく変わった。 

石山氏自身、ワシントンでその変化を肌で感じている。特に、街なかやバーでシンクタンクのメンバーに会った時、彼らの態度の変化が顕著である。この変化は2016年に始まり、その流れが明らかに続いていると感じている。アメリカ人はこう言う。「もし我々を継続的に困らせるのであれば、我々も対応策を取る」と。

 

台湾問題は米中対立の中心的課題

 《大紀元時報》の編集長である郭君氏が《菁英論壇》で語った内容によれば、台湾問題は米中関係の中核的な課題であり、両国には越えてはならない明確な線が存在している。中国共産党にとっての「一線」は、アメリカが台湾問題に介入することを禁じている点にある。一方アメリカにとっての「一線」は、中国共産党が台湾に対して武力を行使することの禁止である。これは、鄧小平が採用した親米路線と中米間の妥協が形成した結果である。 

この妥協のもと、アメリカは台湾の独立を公式には支持せず、中国共産党も台湾への武力行使を控えることになっている。米中が国交を結ぶ際、アメリカは中国共産党に対し台湾への非武力介入を強く要求したが、中国側は公式な約束を避け、非公式の合意に留めた。中国共産党による平和的な統一の場合、アメリカとの合意を破ることはないと見られている。 

しかしながら、現在の中国共産党は待ちきれない様子であり、特に習近平を含む現在の指導部はさらなる待機を余儀なくされている。習近平は党内で台湾問題をこれ以上先送りにすることはできないと強調し、そうしない場合、先輩たちの面目を潰すことになると述べた。習近平を含む現在の指導部は、自らの歴史的な地位を確立するために、何らかの重大な行動が必要だと考えており、そのために台湾の統一が重要な一歩となっているのだ。これは「一人の将軍が功績を挙げるためには、数え切れないほどの犠牲が必要だ」という意味合いを含んでいる。 

郭氏は、アメリカが南シナ海と台湾の両方に対して深い懸念を抱いているが、特に台湾情勢に最も懸念を強めており、これは単なる約束の問題を超え、今後数十年にわたって、世界のリーダーの座を、誰が担うかという大きな問題に関連していると指摘している。

 

未来の展望は依然として不透明

 人々は得意な方法で問題を解決する傾向がある。政治の世界もこれに例外ではなく、アメリカと旧ソ連の冷戦が経過して30年以上が経過し、多くのソ連問題、つまりロシア問題の専門家が育ってきた。これには学術的な専門家だけでなく、政治的な戦略家も含まれている。

 例えば、バイデン氏はこの分野の専門家として認識されている。彼らはヨーロッパの歴史や行政に詳しく、ロシアとの交渉にも熟練しているが、現在の状況は変わりつつある。 

過去には、アメリカの中国問題に関する専門家は専門的な教育を受けた人々が中心で、中国や中国共産党に対して肯定的な見解を持っていた。しかし、現在は状況が一変した。新しい世代の中国問題専門家、特に中国共産党に関する専門家は、共産党の支配下での生活を実際に経験した人々が多く、トランプ政権時代のポンペオ氏や余茂春氏のような人物が含まれている。これらの専門家は、アメリカ国内で次第に影響力を増しており、以前の専門家とは異なる視点から中国共産党や中国を評価している。特に注目すべきは、彼らの多くが台湾に対して友好的な姿勢を取っている点である。

 郭氏によれば、もしアメリカが、中国共産党の銀行をSWIFTシステムから排除するようなことがあれば、中国共産党は必ず何らかの報復を行うであろう。それには、アメリカの企業に対する制裁、アメリカの資産の凍結、あるいはロシアへの公然とした支援などが含まれる可能性がある。アメリカと直接対峙する場合、中国共産党が取り得る手段は実際には限られており、その多くは、間接的で回りくどい方法になるだろう。

 実際、過去には、中国共産党が北朝鮮の核兵器やミサイルの開発を支援したことがある。アメリカは特に、核の拡散や大量破壊兵器の広がりに懸念を抱いていた。中国共産党が特定の国や組織に技術や武器を提供する可能性があるとされており、例えばイランのドローン技術がその一例である。

 郭君氏の指摘によれば、現在世界には、二つの主要な勢力が形成されており、一つはアメリカ、もう一つは中国共産党である。これらの勢力は将来的に全面的な対立に向かうと予測されているが、その対立の具体的な形はまだ明らかではない。かつてのソ連とアメリカの冷戦時代には、多くの暗黙の了解が存在していた。しかし、中国共産党とアメリカが将来どのように対立し、どのような暗黙の了解を築くのかについては、依然として不明であり、不確実性が残されているのだ。