中国は「史上空前の就職難」 若者の失業率20%突破、生きることに命懸けの毎日

2023/05/19
更新: 2023/05/26

中国では今、景気の低迷による「史上空前の就職難」が大きな社会問題になっている。

中国の国家統計局が16日に発表した4月の若年層(16〜24歳)の失業率は20.4%だった。統計局が同時に発表した他の経済統計も、軒並み予想を下回っている。

こうした状況のなか、党幹部などの特権階級ではない一般の庶民は、今日を懸命に生きるために必死でもがいている。まさに生きることの究極の試練が、人々の日常になっているといっても過言ではない。

一流大学を出ても「卒業したら失業」

周知のように「データの改ざん」が常である中国当局が公表するデータは、それ自体信憑性が低い。したがって、中国の公式データを見る場合は、良い内容は割引き、悪い内容は倍加して見るという「裏読み」をしなければならない。

そのため、実際の失業状況は、公表された数値よりさらに深刻である可能性が高い。

先月、ネット上に流出した上海海洋大学の内部会議で使用された最新の就職状況に関するデータによると、4月11日時点の上海の大学の学部生の平均就職率は24.1%。大学院生は40.66%だった。つまり、今夏の卒業を前にして、8割近くの大学生がまだ就職先が決まっていないことになる。

「社会の安定」を最優先に掲げる中国共産党指導部は近年、ハイテクや教育など幅広い産業への締め付けを強めてきた。そのため、多くの業界では大規模な人員削減を強いられた。

そのうえ、過去3年に及んだ「清零(ゼロコロナ)政策」の影響により、大学生の主な就職先であった中小企業は大量に倒産している。また、これまで大学の新卒者を大量採用してきたハイテクセクターの分野では、業界全体で雇用縮小の動きが広がっているため、新規採用への動きは鈍い。

今年の夏に大学を卒業する学生は約1158万人と、過去最多を更新する見通しである。しかし「史上最も厳しい」と言われる今の就職難に、卒業とともに直面する学生たちが、仕事を求めて市場に溢れるのは必至だ。

今ある仕事に「しがみつくしかない」

13日に放送された新唐人(NTD)テレビの番組「菁英論壇」に出演した中国問題専門家の石山氏は、「これまで中国経済を支えてきた3本の柱(輸出、消費、投資)は、いずれも問題が生じている。今の中国経済は、本当にひどい状態だ」と指摘した。

業界規制にコロナ禍、そして不動産市場の冷え込みなどで、中国経済は減速の一途をたどっている。

特に、せっかく高等教育を受けてきた大卒者などにとっては、この「数十年来で最悪の労働市場」は全くの想定外であった。中国のSNSは、就職できない学生らの不安や悲痛な声で溢れている。

現在の中国では、とにかく今の仕事にしがみつこうとする低層市民の苦労をうかがわせる動画が、SNS上に拡散されている。

一流大学を出ても安定した職業に就くことができす、生活のためフードデリバリー配達員)の仕事をしている若者は多い、とSNS上でも話題になっている。

そのフードデリバリーも、同じ色の制服を着た配達員が街角にあふれている光景からして、いかに同業内の競争が激しいかを想像することは決して難しくない。

泣いて懇願する配達員「低評価つけないで」

河北省のショッピングモールで14日に撮影されたとされるこの動画では、黄色いヘルメットをかぶった配達員の中年男性が、そばにいる顧客の女性に対して、大声で泣きながら何かを懇願している。動画につけられた説明には、こう書かれていた。

「(デリバリー注文した)顧客から低評価をつけられた配達員のお兄さんが、泣きながら、低評価を削除してくださいと求めている。しかし顧客の女性は、それに応じない」

この男性は、インターネットで注文を受けて、食事などを配達する「オンライン配達員」とみられる。身に着けている制服から、中国のネット出前サービス最大手の美団(メイトゥアン)に所属する配達員らしい。

美団では、配達の遅れなどでサービスに不満な顧客は、プラットフォームにフィードバックすることができる。ここで低評価をつけられると、配達員は減給などのペナルティを科されてしまう。また、配送員個人への評価に繋がり、今後の業務にも影響が出る。

そのため彼らは、たとえ途中で交通事故を起こし、傷口から血を流しながらでも「配達」しようとするのだ。

 

新たに出現した職種は「彼女役」

ネット上には、すでに多くの「露店の彼女(地面摊女友)」の画像が拡散されている。

その仕事は、地面に置かれた紙に書いてあるように「家事をしてあげる」「キスする」「一緒に散歩」「一緒に食事」「ぎゅっと抱擁」「お話し相手」「手をつなぐ」「映画を見にいく」「テレビゲーム」といった、さまざまなサービスを行う「彼女役」になることらしい。それぞれのサービスには、決まった値段がつけられている。

「露店の彼女」の画像について、その投稿者は「多くの人が職にありつけない。そんななか、若い女性は自分で就業チャンスを創出している」との説明を添えた。
 

 

「自分の命を売る」病院近くの路上に立つ人

上海の街角には、ついに「自分の命を売る(売命)」という人まで現れている模様だ。

SNSに投稿された画像に映るのは、上海の病院近くの路上で「命を売る」と書かれた大きな紙を持つ男性だ。男性が手に持つ紙には、ほかに「臓器を全て売る。(私)1人の命で5人の命が助かる」と書かれている。「5人」とは、おそらく困窮して飢えている家族のことだろう。

その男性のそばには、小さな男の子が立っていた。この子が、彼が命を投げうってでも守りたい「家族」の一人なのだろうか。

男性の後には「瑞金二路」と書かれた道路標識が立っていることから、関連投稿のコメントには「(当局が検閲する)次の敏感ワードは、瑞金二路だな」というのがあった。

今年3月には、生活苦にあえぐ高齢者を取材した自媒体(個人メディア)による動画が当局の検閲に遭い、投稿者のアカウントまで封鎖される事件が起きている。

中国では、貧困など社会の実態を伝える話題が「有害情報」として、当局の検閲で一掃されている。このことについて米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)4日付は、習政権が掲げる「脱貧困」や「共同富裕」がその背景にあると指摘し、習政権が自己の正当性を守るためにしていることだ、と分析している。

カネで請け負う「復讐屋」も出たか?

これは映画やドラマの話ではない。先月SNSに投稿された動画には、街中の壁に「プロの復讐屋」とあり、その下に連絡先の携帯番号が書かれたシーンがあった。

書かれた番号を調べると、河北省唐山のユーザーであることが判明。動画には、実際にその復讐屋の電話番号にかけて問い合わせをした録音も収められている。電話の相手は、この「仕事」についてこう紹介している。

「俺たちは唐山の人間だ。仲間が何人もいる、借金の取り立てでも、何でもする。金を出すなら、刑務所に入ることだって問題ない。仕事の後、こちらに何が起きてもあんたには関係ないよ。値段は、復讐する相手をどういう状態にしたいかによる。ただ脅したいだけなのか。軽傷か、重傷か。金は、仕事の後に払えばいい」

まことに恐ろしい「職業」であるが、どこまで本当かは確認できない。ただ、関連動画には「みんなでお金を出し合って、まずは唐山市の公安をやっつけるか?」といったコメントも寄せられている。官民矛盾の激化のほどが垣間見える。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。