もはや崩壊は目前 中国共産党が見せる「最後の悪あがき」

2023/02/13
更新: 2023/04/11

中国の新指導部は、全員が習近平国家主席の側近で固められるという異様な陣容で、まもなく正式に始動する。しかし、すでに「習王朝」は数多くの重大な危機にさらされている。

「官への不信」は修復不可能

近年の出来事だけ見ても「鎖の女性の事件」「唐山の集団暴行事件」「胡鑫宇(こきんう)事件」など、社会の不条理を映した事件を経験した中国国民は、もはや自国の政府を全く信じていない。

補足するが、「鎖の女性」の事件とは、中国江蘇省の農村で昨年2月、少女の頃に拉致され人身売買されてきたと見られる中年女性が発見された事件である。ボランティアの人権団体に発見された当時、女性は首に鎖が巻かれた状態で、氷点下の離れに監禁されていた。女性は、8人の子供を「生まされた」だけでなく、夫の了解または黙認のうえで、地元政府の複数の役人に凌辱されたと見られている。

「唐山の集団暴行」事件は、昨年6月、華北省唐山市の焼肉店で食事中の女性客に対し、無頼漢が集団暴行を加え、歯が折れるほどの重傷を負わせたもの。地元警察の甘すぎる処置をきっかけに、中国に蔓延する官民癒着の問題に議論が集中した。

さらに「胡鑫宇事件」とは、江西省鉛山県で昨年10月に失踪した15歳の高校生、胡鑫宇さんが今年1月28日、変死体となって発見されたもの。地元警察は、本人の意思による「首吊り自殺」と断定し、わざわざ記者会見まで行った。しかし、状況証拠などに矛盾点が多いことから、地元警察ぐるみの、臓器収奪目的をふくむ「他殺」の疑いがもたれている。

いずれにせよ、こうした事件を通じて完全に信用を失った中共政権は、すでに「タキトゥスの罠(Tacitus Trap)」にかかったと言える。これは、政府が民衆の信用を失った時には、政府が何と言おうが、何をしようが、全て悪く思われることを指す。

チャイナ・ドリームも「風前の灯」

また、これまで中国経済をけん引してきた「投資」「消費」「輸出」の3本柱がいずれも崩れ去った今、深刻な経済危機も浮き彫りになっている。

特に、3年に及ぶ「ゼロコロナ政策」により、中小企業は軒並み潰れ、無数の失業者を出した。かつて中国国民の心に希望の灯をともした習氏の「チャイナ・ドリーム」は、もはや風前の灯である。

そのうえ、米国主導の西側社会は中国と熾烈な競争・対立を繰り広げていることから、中国は「トゥキュディデスの罠」にもかかっていると言えるだろう。

これは、従来の覇権国家と台頭する新興国家が、戦争が不可避な状態に至るまで衝突する事態をいう。中国がこの危機を乗り越えられるかどうか、今年が正念場となるはずだ。

さらに、「中国スパイ気球」事件、武漢で起きた大規模な抗議デモなど、国内外ともに予測不能な重大事件が相次いでおり、中国当局は非常に苦しい境地に立たされている。

このうち、湖北省武漢市では2月8日、市政府庁舎前で医薬品補助費の削減を伴う制度改革に反対して、1万人以上の退職者が集結した。

集まった人々は革命歌を歌い、2月1日から実施された新しい医療保険制度に抗議の意を示した。「毎月260元(約5000円)もらえていた医薬品補助が83元(約1600円)に減らされた」として、市民らは政府に説明を求めるとともに「元の基準へと戻すよう」訴えた。この問題が解決されなければ、同月15日にはさらなる大規模抗議も計画されているという。

ゼロコロナ政策が招いた財政難

政府がこのような制度改革に踏み切る理由は、当然ながら深刻な「財政難」だ。過去3年に及ぶゼロコロナ政策の下で行われた「無料のPCR検査」は医療保険基金が負担してきたため、ついに底が尽きたのだろう。

こうした状況は武漢に限らず、全国どこでも同じであるため、今後数年は「医療保険」や「年金」の問題が中共政権にとって頭痛の種となるのは間違いない。

また、武漢では「不動産市場の急激な悪化」という重大な危機も起きている。今では価格を30%下げても不動産の買い手が見つからない。武漢の当局は、不動産業界を、支援を必要とする「困難業界」とまで呼ぶほどだ。

マンション販売の急減や開発会社によるデフォルト(債務不履行)の多発で特徴づけられる不動産危機は、武漢に限らず、全国に広がっている。

また、この不動産危機は今や地方政府レベルの財政危機にもつながっている。

これまで地方政府は土地売買などの不動産収入で、地方の財政支出の4割から5割を賄ってきた。しかし近年は、経済の支柱であった不動産市場の急激な悪化で、地方の財政は深刻な赤字状態である。こうなると、8千万人の公務員を今後どうやって養っていくのか。

中共崩壊前の「悪あがき」

困窮する地方政府はこの危機に対処するために、ついに身内である公務員の待遇にまで手を出し始めた。給与の支給遅らせや減給、また「公務員に銀行でローンを組ませ、その資金を政府の都市投資企業に貸付ける」「公務員に不動産購入を求める」など、さまざまな手が考え出されている。

なかには、禁止されていながら半ば黙認してきた「副業をする公務員」に対し、新たに罰金を科する地方政府も出てきている。

中国東部地区のある主要都市では、市の政府が規律委員会を差し向けて、過去にまで遡り「副業をする公務員」に多額の罰金を科していることが分かった。

町レベルの役人でさえ、60万~100万元(約1100万円~1900万円)も罰金を取っている。運悪く捕まった公務員はどの政府関連機関にも5~6人、多いところでは十数人もいる。公務員への罰金だけで一気に25億元(約482億円)もの「財政収入」を創出した市もあるほどだ。

中国政府の「ニラを刈る鎌(人民から根こそぎ搾取すること)」の刃先は、これまでは公務員以外に向けられてきた。従来、公務員は金持ちと結託して民衆や企業から搾取する一方、警察力を動員して民間の不満を鎮圧してきたのである。

しかし、民間からの「ニラ」だけではこと足りなくなったのか、当局は喉の渇きを癒すために身内(公務員)にすら手を出し始め、今や「共喰い」の段階に入った。

こうなると、公務員はいっそのこと反抗をやめて「躺平(横たわる)」か、さもなければ、よりクレイジーなモードに入るしか道はなくなるだろう。

その結果、中共内部で更なる混乱が生じるのは必至だ。まさに、中国共産党崩壊前の最後の「悪あがき」と言える。

さらに深まる米中対立

いっぽう、国際社会では中国の「気球」が依然として注目の的になっている。

米軍機によって撃墜された中国の気球について、米国の情報機関は、中国が主張するような「民間の気象研究用」ではなく、中国軍がコントロールする「スパイ気球」であると結論づけた。

今回の気球は、中共の大規模な世界監視計画の一端に過ぎない。過去数年間に、中国の「気球艦隊」は世界の5大陸にその航跡を残している。気球は日本をはじめ、インド、ベトナム、台湾、フィリピンなどで軍事関係の情報を収集した。なかには、地球を一周した気球もある。

米国のバイデン政権は「中国のスパイ気球」の対応をめぐり、野党・共和党から「弱腰だ」と批判されている。

7日に行われたバイデン大統領による一般教書演説で、バイデン氏は中国について「主権を脅かせば、われわれは国を守るために行動する」と強気の姿勢を強調した。

しかし、バイデン政権が中国に弱腰なのは確かにその通りで、チャンスあらば中共と結託したがる傾向は事実である。しかし「中国に対抗せよ」が民主・共和両党の共通認識となった今、誰が米国の大統領になろうと、この大方針が変わることはないだろう。

(翻訳編集・李凌)

秦鵬
時事評論家。自身の動画番組「秦鵬政経観察」で国際情勢、米中の政治・経済分野を解説。中国清華大学MBA取得。長年、企業コンサルタントを務めた。米政府系放送局のボイス・オブ・アメリカ(VOA)、新唐人テレビ(NTD)などにも評論家として出演。 新興プラットフォーム「乾淨世界(Ganjing World)」個人ページに多数動画掲載。