中国は、10年前に子会社化した英国の半導体企業から、空母に艦載した軍機を高速発進させるハイテク技術の一部を入手していた。この半導体技術は現在、欧州の輸出規制対象だが、買収された当時は、規制対象となっていなかった。
中国が英国の小企業から手にした、軍用できるハイテク技術
米国と中国は10年以上にわたり、リニアモーターを使って艦載機を空母から高速発進させる次世代技術・電磁式カタパルト(EMALS)の開発競争を続けてきた。高い技術を要するカタパルトの完成には、「絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)」と呼ばれる半導体素子が不可欠とされる。
この半導体素子により、電流をミリ秒(1000分の1秒)単位に変換してモーターに送り、空母のデッキから軍機を高速発進させることができる。
サウスチャイナ・モーニングポスト11月18日付によると、中国が所有するIGBTは、半導体開発企業である国有企業・株洲中車時代電気が、傘下である英国の半導体企業ダイネックス・セミコンダクターと共同開発したものだという。
2008年のリーマンショック(世界的金融危機)時に、株洲電気はダイネックスの株を75%買い、子会社化した。
大紀元の取材に応えた匿名の英国政府情報筋によると、当時のゴードン・ブラウン政権は、この技術力ある英国企業が買収されることを「安全保障上の脅威としなかった」と明かした。
現在IGBTは、欧州連合の輸出管理規則428号2009に基づき、英国における戦略的輸出規制の対象となっている。輸出する場合は、英国当局の許可が必要となる。
大紀元の取材に応じた、インド系米国人でノースカロライナ州立大学のジャヤント・バリガ教授によると、IGBT開発情報の大部分は日本と欧州に渡っているという。同教授は1982年にIGBTに関する論文を発表し、開発を先駆けた。米政府は当時、さらなる技術研究のために他国との競合を推薦しており、IGBTを輸出規制していなかった。
「今日、国防総省や米国産業が想定する競合相手の情報技術にIGBTが使われているとは、何とも皮肉なことではないか」とバリガ教授は述べた。
中国海軍の空母、米海軍に「一部は追いついた可能性も」=分析サイト
米海軍空母の技術に及ばないとされていた中国海軍だが、一部技術では「すでに中国は追いついた可能性がある」と中国軍事情報を分析するフランス語サイト「東の振り子」は指摘する。
同サイトは、10月に中国軍紙が次世代技術・電磁式カタパルト(EMALS)実験に「成功した」と報じたことと、試験場の衛星写真の分析内容を証拠の一部として伝えた。香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポストも11月、同実験の成功を伝えた。
中国で唯一の艦上戦闘機J-15(殲-15)は33トンで世界最重量級とされる。米国はすでに軽量化したF-18(ホーネット)を艦上戦闘機としている。
サウスチャイナ・モーニングポストは、匿名の中国軍の情報筋の話として「すぐに中国が軽量な戦闘機を生産することは不可能だが、新技術によりJ-15を簡単で効率的に発進できる」「電磁式カタパルトは2018年中に導入する」と意気込みを語ったという。
電磁式カタパルトは、蒸気式に比べて小型軽量で維持も容易、さまざまな機種を射出できる。米海軍は今年6月に就役した新型の原子力空母「ジェラルド・R・フォード」に、初めてEMALSが採用された。
※動画:2017年4月、米カリフォルニア沖で訓練する米海軍。空母ルーズベルトから蒸気式カタパルトで発進するF-18スーパーホーネット(MiliSource)
※動画:2017年7月、訓練する米海軍。新型原子力空母フォードから電磁式カタパルトで発進する戦闘機F/A-18Fスーパーホーネット(AiirSource Military)
米軍の脅威となる中国軍の開発=リチャード・フィッシャー氏
中国の軍事戦略を研究する米有力シンクタンク「国際評価戦略センター」のリチャード・フィッシャー主任研究員は「中国軍による電磁式カタパルト(IMALS)とレーザー兵器の開発など、広範囲にわたる投資は、いまは優位に立つ米軍との距離を大幅に縮めるだろう」と警戒感を示した。
フィッシャー氏によると、公開されている中国海軍の2隻の空母『001型(遼寧)』『001A型』は構造が古すぎるため、ハイテク技術であるIMALSを設置することはないが、今後開発が予定される新型原子力空母に備えられれば、米海軍最新空母『フォード』級に匹敵する力を持つだろうと推測している。
中国初の国産空母 40年前のロシア空母を完全コピーか=専門家
国際評価戦略センターの分析によると、中国は建国100周年となる2049年までに、原子力空母を少なくとも2隻、最高10隻までかまえる計画がある。そのうちのひとつ『002型』は、すでに上海郊外の造船所で建造中だ。伝えられるところによると11月の報告書の時点で、90%完成に達しているという。
旧ソ連の空母が元になっている中国海軍の空母2隻は、艦載機のエンジン推力で離陸するスキージャンプ式が採用されている。中国国内メディア新浪網は4月、最新の002型は、スキージャンプ式ではなくカタパルト式と伝えた。しかし、動力は原子力ではなく化石燃料などによる通常動力だという。
米国防総省の2017年議会年次報告「中国に係る軍事と安全保障の発展」では、中国共産党政権は野心的な空母建造プロジェクトについて、アジア太平洋地域の有事や紛争時に、米軍による介入阻止をひとつの目的としていることを全く隠していない、と指摘する。
同報告によるアジア太平洋地域の危機とは主に、中台統一を図る中国共産党による台湾への攻撃や侵略「台湾の緊急事態」が想定されている。または東および南シナ海の米国同盟国に対する軍事衝突のシナリオも記されている。
(文・ポール=ファン/翻訳編集・佐渡道世)
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