ウクライナ危機、中国の仲裁役待望論が浮上 専門家は否定的

2022/03/09
更新: 2022/03/09

ロシアのウクライナ侵攻が長引くなか、中国がロシアへの影響力を行使し仲裁すべきだとの声が上がっている。一部の識者の間ではこれに否定的な見方を示した。

「ロシアに大きな影響力…」

「中国だけがロシアを止められる」

米イェール大学ジャクソン国際情勢研究所のシニアフェローであるスティーブン・ローチ(Stephen Roach)氏は7日、国際NPO「プロジェクト・シンジケート(Project Syndicate)」への投稿で、こう主張した。

中国の習近平国家主席も8日、仏独両国の首脳とオンライン会談し、ウクライナ情勢について「中国は国際社会とともに積極的な役割を果たし、当事各国の望みに応じていく」と述べ、仲裁に前向きな姿勢を示した。

ローチ氏は、習近平国家主席について「ロシアとウクライナの和平交渉を仲介するために、世界の指導者のなかで最も大きな影響力を持っている」と期待している。

同氏は、今秋に開催される党大会で3期目を目指す習近平氏は現在、歴史的な選択を迫られていると指摘した。ロシアに協力すれば国際社会からの圧力に直面することになるが、「世界を救うために平和を仲介すれば、偉大な政治家として中国での地位を確立する」という。

ローチ氏は米国連邦準備制度理事会(FRB)などを経て、モルガン・スタンレーアジア地域(香港駐在)会長を務めていた。米中経済は相互に依存する関係であり、対立が両国にとって望ましくないと主張している。

ウクライナのクレバ外相も1日の電話会談で、中国の王毅国務委員兼外相に「停戦実現のため中国の仲裁を期待する」と表明した。

「仲裁で解決する問題ではない」

台湾シンクタンク、国防安全研究院の侍建宇副研究員は米ラジオ・フリー・アジア(RFA)に対し、中国の仲裁は「あり得ない」と指摘した。

「中露両国は戦略的パートナーシップを結んでいる。戦局の見通しが不明瞭である今、中国当局は事態の推移を見守っている。現時点では、中国にロシア側の決定に反対する理由はないだろう」という。

台湾国立政治大学の劉徳海教授も同様の見方を示している。ロシアが求めているウクライナの北大西洋条約機構(NATO)への不加盟と、ウクライナ東部の両地域の独立承認」は仲裁で解決できる問題ではないためだとした。

中露両国が2月初めに経済貿易、エネルギー、投資などの分野でパートナーシップを強化することで合意した。その後、ロシアはウクライナに侵攻した。

劉教授は、中露間の一連の動きが「中国はロシアにとって重要な国であることを反映した」とした。

王毅外相は7日、北京で開会中の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)に合わせて記者会見し、中露は「互いに最重要で緊密な隣国、戦略パートナーだ。両国国民の友好は盤石だ」と改めて両国の蜜月関係をアピールした。ウクライナ危機をめぐり「必要な時に、必要な仲裁をしたい」と述べ、具体的な時期への明言を避けた。

侍氏は、今年開催の党大会の前に、習近平氏は続投を実現するために「党内で勢力を広げる必要がある。習氏にとって、今は国際情勢に介入する良いタイミングではない。失敗すれば、党内で習氏への不満が高まり、さらなる権力闘争が勃発する可能性がある」と分析。

対中政策の後戻りの懸念も

中国への仲裁役待望論は「米中が協力しソ連を抑制する」という50年前の対中政策に戻る恐れがあると、専門家は危惧している。

1972年2月、当時のニクソン米大統領が訪中し、ソ連対抗という共通の利害が米中を接近させた。その後の長い間、米国は中国に関係強化を追求する「関与政策」をとってきた。トランプ政権時代、中国を最大の競争相手と位置づけ、対中強硬策に転じた。

(翻訳編集・張哲)