日本の原潜保有を検討へ 小泉防衛相「選択肢排除せず」 安保3文書改定で議論

2026/09/11
更新: 2026/09/11

小泉進次郎防衛相は9月11日、安全保障関連3文書の年内改定に向け、原子力潜水艦の保有について「あらゆる選択肢を排除せずに検討する」と表明した。一方で、結論ありきの議論ではないとも強調した。

原子力潜水艦には、長時間の潜航や高速航行ができる利点がある一方、静粛性の確保、専門技術の蓄積、原子力利用をめぐる法制度や世論といった課題もある。原潜保有をめぐる議論は、日本の抑止戦略の在り方を問うものとなりそうだ。

小泉防衛相「原潜を排除せず」発言の意味

9月11日の閣議後会見で、小泉防衛相は原子力潜水艦の保有について「あらゆる選択肢を排除せずに検討する」と述べ、「決め打ちはしていない」と強調した。

この発言は、原潜保有を決定したものでも、導入の可能性を否定したものでもない。ただ、これまで公に論じられる機会が限られてきた原子力潜水艦の保有が、安全保障政策の具体的な選択肢として議論の対象になりつつあることを示している。

会見で原潜保有をめぐる質問が出た背景には、直前の報道がある。9日には、米海軍の当局者が、日本は原子力発電所を保有し、発電技術も有しているとして、日本による原子力潜水艦の保有を前向きに評価する趣旨の見解を示したと複数のメディアが伝えた。

小泉防衛相は個別報道へのコメントを避けながらも、年内を視野に進められている安全保障関連3文書の改定作業において、「原子力潜水艦についても選択肢として排除せず検討を進める」と明言した。

もっとも、原潜保有をめぐる議論は唐突に始まったものではない。連立を組む日本維新の会は、従来から原潜導入に積極的な姿勢を示してきた。自民党と日本維新の会の連立政権合意書には、長射程ミサイルを発射できる垂直発射装置(VLS)を備え、「次世代の動力」を用いた潜水艦の保有を推進する方針が盛り込まれている。

「次世代の動力」という表現は、原子力を念頭に置いたものと受け止めている。原子力を明示せずに将来の潜水艦能力の強化を記した点に、原潜をめぐる議論の慎重さが表れている。

呉湾に海上自衛隊潜水艦がずらり(海上自衛隊呉史料館)

原子力潜水艦の利点 長時間潜航と高速航行

では、なぜ原子力潜水艦なのか。小泉防衛相が挙げた利点は、長時間の潜航と長期にわたる作戦行動が可能になること、通常動力潜水艦より高速で航行できることにある。

原子力潜水艦は、燃料や蓄電池の制約を受ける通常動力潜水艦と比べ、水中でより長期間にわたり行動できる。遠方の海域で継続的に任務に就く能力を高められる点が、大きな特徴である。

ただ、議論の焦点は動力方式そのものにとどまらない。連立政権合意書で示されたのは、VLSを搭載した潜水艦の保有である。VLSを備えた潜水艦は、海中から長射程ミサイルを発射できる。2022年に日本が保有方針を示した反撃能力を、より遠方の海域から運用する構想にもつながる。

原子力による推進は、そのような任務を支える長期間の潜航能力と、遠方での継続的な展開能力をもたらす。議論の核心は推進方式の選択だけではない。海上自衛隊の潜水艦部隊が、近海防衛を主眼とした任務から、より広い海域で抑止力を発揮する役割へ移行するのかという問題でもある。

静粛性を重視してきた海自潜水艦との違い

原子力潜水艦の導入を考える上では、見過ごせない課題もある。潜水艦にとって重要なのは、高速で航行する能力だけではない。敵に探知されずに行動するための静粛性も不可欠である。

海上自衛隊のそうりゅう型やたいげい型などの通常動力潜水艦は、非大気依存推進システムやリチウムイオン電池を採用している。これらの潜水艦は、高い静粛性を備えるとしてきた。

一方、原子力潜水艦は原子炉の冷却系などを常時稼働させる必要があり、通常動力潜水艦と比べて水中での静粛性が劣ると指摘している。小泉防衛相も会見で、原子力潜水艦の課題として静粛性に言及した。

原子力潜水艦は高速性と長期行動能力を得られる一方、日本が通常動力潜水艦で培ってきた静粛性という比較優位を損なう危険性もある。専守防衛を基本とする日本の防衛政策にとって、このような能力上のトレードオフを受け入れる合理性があるのかが問われる。

原潜比較表

原子力基本法と非核三原則 導入への法的・政治的課題

仮に技術面や予算面の課題を克服できたとしても、原潜導入には法的、政治的な障壁がある。

原子力基本法は、原子力の利用を「平和の目的」に限ると定めている。1965年の政府統一見解では、船舶の原子力推進が一般化していない段階では、自衛艦への原子力利用を認めないとしてきた。

現在、船舶の原子力推進が「一般化」したと判断できるのか。その基準は明確ではない。小泉防衛相は昨秋の国会答弁で、明確な基準はなく、現時点で具体的に答えることは困難だとの認識を示している。

原潜を導入する場合、原子力基本法との整合性を整理するため、法改正や新たな立法措置が必要になる。

非核三原則との関係も議論の対象となる。原子炉による推進は核兵器の保有や使用とは異なるが、非核三原則との関係をめぐる政治的、社会的な議論は避けられない。広島・長崎への原爆投下を経験した国として、原子力を軍事目的の艦艇に利用することへの心理的な抵抗感も根強いとみられる。

野党の一部は、原子力の平和利用原則からの逸脱や大規模な防衛力強化につながるとして、原潜導入論に批判的な姿勢を示している。原子力を動力源として用いるかどうかは、日本が戦後に掲げてきた原則をどのように位置付けるかという問題に直結する。

「次世代の動力」は原潜導入への入口となるのか

オーストラリアがAUKUSの枠組みで進めている原子力潜水艦の導入計画は、巨額の費用と長期にわたる建造、訓練、人材育成を必要とする。原潜の保有には、特殊な技術基盤と厳格な原子力安全管理、長期的な人員確保が欠かせない。船体も通常動力潜水艦より大型化する可能性が高い。

小泉防衛相が繰り返した「決め打ちはしていない」との発言と、原潜導入を急ぐ日本維新の会の姿勢には、なお隔たりがある。

年内の安全保障関連3文書の改定で直ちに決まるのは、原子力潜水艦を建造する方針ではない可能性が高い。焦点となるのは、原子力という選択肢を将来の防衛力整備に向けた公式文書でどのように位置付けるかである。

「次世代の動力」という表現が原子力を明示していない間は、日本政府が原潜導入の是非を慎重に検討する段階にあることを示している。ただ、小泉防衛相の発言によって、原潜を含む選択肢が日本の安全保障政策における議論の対象となりつつあることは明らかである。