米朝接近の兆し 「トランプは拉致問題に無関心」は誤り 米の死活的国益に関わる=専門家

2026/09/07
更新: 2026/09/07

北朝鮮による拉致被害者の救出を目指す「救う会」は4日、都内で集会を開いた。西岡力会長と政治評論家の江崎道朗氏が、米朝間の水面下の接触や首脳会談の可能性、北朝鮮と中国・ロシアとの関係、トランプ米政権の対北朝鮮戦略などについて語った。

米朝交渉の進展を拉致問題の解決につなげるため、日本に求められる外交・情報面の備えについても言及した。

北朝鮮による拉致被害者の救出を目指す「救う会」は4日、都内で集会を開いた。西岡力会長と政治評論家の江崎道朗氏が、米朝間の水面下の接触や首脳会談の可能性、北朝鮮と中国・ロシアとの関係、トランプ米政権の対北朝鮮戦略などについて語った(河原昌義/大紀元)

米朝 水面下で接触か

西岡氏は、今年6月にシンガポール、7月にタイで米朝間の接触があったとの情報を複数の筋から得たと説明した。詳細や情報源は明らかにしなかったが、米国務省など外交当局とは別のルートで接触が進んだ可能性を指摘した。

そのうえで、「国務省が知らなかったのであれば、情報機関が動いたのではないか」と述べ、第1次トランプ政権時に当時CIA長官だったマイク・ポンペオ氏が北朝鮮側と秘密裏に接触した経緯を引き合いに出し、今回も情報機関を通じた接触が行われている可能性を示した。

こうした接触の結果とみられる動きも表面化している。トランプ氏は8月16日、17日に始まる演習について、国防総省に大幅な縮小を指示したとSNSで公表した。最終的には演習期間が10日間から5日間に短縮された。

トランプ氏はその翌17日、金正恩が自身の働きかけに「応じている」と述べ、19日には「年内に会う予定」と明言した。

西岡氏は、演習縮小の理由としてトランプ氏が挙げた経費負担や北朝鮮へのシグナルといった説明だけでは、直前の決定を十分に説明できないと指摘。「事前に水面下でやり取りがあり、その結果としてこの命令が出た」と分析した。

2019年6月30日、韓国と北朝鮮の軍事境界線がある板門店で、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(右)と歩くドナルド・トランプ米大統領。トランプ氏はこの日、現職の米大統領として初めて軍事境界線を越え、北朝鮮側に入った。

中朝の思惑交錯 米朝接近を警戒する中国

西岡氏は、米朝交渉が動く可能性を考える上で、北朝鮮と中国の複雑な関係にも注目している。

中国は北朝鮮にとって経済、エネルギー面で重要な支援国だが、北朝鮮が中国の政治・軍事的影響力を無条件に受け入れているわけではない。

西岡氏によれば、習近平が6月に平壌を訪問した際、中国側は台湾有事などを念頭に、北朝鮮の港湾を中国軍艦が利用することや、日本海での中朝合同軍事演習を提案したという。

しかし北朝鮮側には、中国軍の存在が北朝鮮国内の親中派を刺激し、予期せぬ権力闘争や政権の不安定化を招くことを、金正恩が警戒しているという。西岡氏は、有事の際の協力には一定の理解を示しながらも、平時の港湾利用や合同演習は進んでいないとの情報を紹介した。

昨年9月、中国・北京が開催された軍事パレードで6年ぶりに対面で再開した習近平と金正恩(Getty Images)

ポンぺオ元米国務長官の回顧録では、2018年3月に極秘に会談した金正恩とのやりとりを紹介。会談の際、金正恩は中国への根深い不信感をあらわにしたという。

中国の影響力が強くなりすぎる状況は望んでおらず、安全保障のバランスから在韓米軍の存在が有用だとする認識を示した。

金正恩は「中国共産党は半島をチベットや新疆ウイグルのように扱えるように米軍を追い出す必要がある」と述べたとされる。

ポンペオ氏は会談を踏まえ「朝鮮半島に米国のミサイルと地上戦力を拡大しても北朝鮮は全く意に介さないだろう」と分析した。

北朝鮮にとって中国は経済的に依存せざるを得ない隣国である一方、政治・軍事面では自国の独立性を脅かしかねない存在でもある。

西岡氏は、北朝鮮がロシアとの軍事・経済関係を深めることで、中国への依存を相対的に薄めようとしているとの見方を示した。

こうした関係の中で北朝鮮が米国に接近すれば、中国にとっては台湾有事を含む地域戦略上の大きな懸念となる。西岡氏は、米朝接近をめぐる中国の反応にも注意する必要があると指摘した。

トランプ政権が「拉致問題に無関心というのは誤り」

江崎氏は、この米朝接近を米国側から見ると、中国などを含むより大きな安全保障戦略の一環になるとの見方を示し、「トランプ政権は拉致問題、北朝鮮問題について関心がないというような論調は事実として違う」と語った。

江崎氏によると、来年度の国防権限法をめぐり、超党派の有力議員がまとめた文書には、中国・ロシア・イラン・北朝鮮を「侵略者連合(Axis of Aggression)」と名指しし、「第二次世界大戦後最大の安全保障上の脅威」と表現した上で、これに打ち勝つために国防予算の大幅増強が必要だと明記されているという。

米国防予算はオバマ政権期の約60兆円(日本円換算)から来年度は約180兆円規模へ拡大する見込みだ。

江崎氏は「米国は日本のために北朝鮮と交渉してあげようというレベルではなく、自国を守るために必死になっている」と指摘。北朝鮮にICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発を断念させることは米国の死活的国益であり、北朝鮮がウクライナ戦争でロシアを支援していることも深刻な問題だと述べた。

終末高高度防衛(THAAD)は、米軍で最も先進的な弾道ミサイル防衛システムである。(DVIDS)

江崎氏はさらに、トランプ政権がイランやベネズエラに対して取り組んでいるのと同様に、北朝鮮を「侵略者連合」から脱落させることが戦略目標だとの見立てを示した。

「北が脱落すれば、中国もロシアも困る。だからこそ武力行使でなく外交交渉を中心に北を抑え込もうとしているはずだ」と述べた。

そのため、北朝鮮との交渉では武力行使だけでなく、外交によって北朝鮮を中国、ロシア側から引き離すことにも意味がある。

江崎氏は、このような米国の戦略と日本の拉致問題を結び付けることが、安倍政権以来の日本の基本戦略だと指摘。「米国の国益と日本の拉致問題を接点として捉える必要がある」と訴えた。

「最後は情報戦」 日本政府に求められる総点検

こうした米朝、中朝をめぐる駆け引きが進むほど、日本側に求められるのは、北朝鮮が示す情報をそのまま受け入れないための準備になる。

江崎氏は、拉致問題をめぐって警察や情報機関が長年、電波情報などを含む情報を収集してきたと指摘。ただ、情報源や収集手法を守る必要から、公表できない情報も多かったとした。

その上で、国家情報局を中心に各機関の情報を集約し、首相や官房長官が総合的に分析できる体制を活用すべきだと訴えた。未認定者を含め、過去の情報を現在の視点から洗い直す必要があると述べた。

首脳会談で北朝鮮側が「拉致被害者はこれだけだ」と名簿を示した際、日本側が自ら把握する情報を基に「この人物が入っていない」と具体的に反論できる態勢が不可欠だという。

「最後はインテリジェンスの戦いだ。北朝鮮が日本をだませると思えばやられる。だませないと思わせれば、北朝鮮も対応を変えざるを得なくなる」

米朝交渉が再び動き出す可能性が指摘される中、西岡氏と江崎氏が訴えたのは、首脳会談そのものを待つのではなく、その瞬間に日本が何を突き付けられるかをあらかじめ準備しておくことの重要性だった。

エポックタイムズ記者。日本の外交・防衛をはじめ、国内外の時事問題を中心に執筆しています。