東南アジア・南アジア  ベトナムのバランス外交、世界の工場再び?

ベトナムの戦略的重要性が増す、米中露の外交戦の焦点に

2024/06/24
更新: 2024/06/24

ベトナム、ハノイ】近年、ベトナムは国際舞台での重要性を増している。ロシアのプーチン大統領が6月20日に電撃訪問を行い、直後にアメリカ国務次官補の(東アジア・太平洋担当)ダニエル・クリテンブリンク氏が21日にベトナムを訪れた。インド太平洋地域での対立において、ベトナムは米中露の三大勢力の争いの中で重要な役割を果たしている。米越関係は徐々に深まっている。

プーチンのベトナム訪問:露越関係の強化

プーチン大統領の訪問中、ベトナム国家主席グエン・フー・チョン氏と教育、科学技術、石油・天然ガス探査などの分野で一連の協力協定に署名した。さらに、ベトナムに核技術センターを建設する計画も発表した。プーチン氏は、両国がインド太平洋地域で武力を使用せず平和的に紛争を解決する、安全保障の枠組みを構築することに尽力していると強調した。

しかし、プーチン氏の訪問時間が午前2時という異例の時間であったことには疑問が残る。台湾国防安全研究院の蘇紫雲所長は、「これは非常に奇妙で、その理由は現在も分析中である」と述べた。

アメリカ政府はプーチン氏の訪問に対して強い反対を示した。在ハノイ米大使館は、プーチン氏がウクライナ侵攻による国際的孤立を打破しようとしていると批判した。プーチン氏がハノイを離れた直後、アメリカのクリテンブリンク氏がベトナムを訪問し、2日間の滞在を行った。

記者会見で、米クリテンブリンク国務次官補(東アジア・太平洋担当)は「ベトナムは自らの主権を守り、自らの利益を推進する方法を決定する権利を持っている」と述べた。

プーチン氏のベトナム取り込みの目的

ベトナムとロシアの友好関係はソ連時代に遡る。ソ連はベトナム「建国の父」ホー・チ・ミンなどの共産党幹部を育成し、ベトナム戦争中には大量の武器を提供してアメリカと対抗した。現在でも、ロシアはベトナムの主要な軍事装備提供者である。

桜美林大学の菅沼雲龍教授は、「ベトナムとロシアの関係は歴史的な理由で長く続いている。1972年のベトナム戦争時、多くの武器はソ連が提供した」と説明する。

ストックホルム国際平和研究所のデータによると、1995~2023年にベトナムがロシアから輸入した武器の金額は76億ドル(約1兆2138億円)に達し、ベトナムの海外調達総額の80%以上を占める。ベトナムは、国連でのロシアのウクライナ侵攻に対する非難決議に、多くの場合棄権票を投じている。

台湾の軍事専門家で淡江大学総合戦略科学技術センターの最高経営責任者(CEO)蘇紫雲氏は、「プーチン氏は、ベトナムが金融取引の新しい拠点となることを望んでいる」と述べる。特にアメリカがロシアに対する金融制裁を拡大した後、ベトナムは国際送金の拠点となる可能性がある。

6月13日、アメリカはロシアに対する金融制裁を拡大し、中国などの国がモスクワと取引することを阻止するための措置を発表し、その後モスクワ取引所はドルとユーロの取引を停止すると発表した。

蘇氏は、「現在、ロシアは多角的な送金を行っており、まず人民元を使用し、その後ベトナムを経由して米ドルに変換する可能性がある。これによりベトナムは国際送金の拠点となる」と述べた。菅沼雲龍教授も、「多くの中国企業もベトナムを経由している」と指摘した。

現在、ベトナムはロシアに弾薬を提供していないが、北朝鮮は武器提供を約束している。蘇氏は、「プーチン氏はベトナムから弾薬の提供を求めている可能性がある」と述べた。

しかし、蘇氏は「ベトナムはこの一線を越えることはないだろう。アメリカとの利益がロシアや中国共産党との利益よりも高いため、ハノイはプーチン氏に対して外交的な礼儀を保つだけである」と評価する。

米国務次官補、米・ベトナム関係の深化

クリテンブリンク氏はベトナムで、米越関係の発展を推進し、双方が達成したすべての協定が実行されることを、確保したいと述べた。彼は、米越関係がこれまでになく緊密であることを強調した。

アメリカ財務長官ジャネット・イエレン氏は、「アメリカはベトナムをサプライチェーンの多様化と中国依存の減少のためのパートナーと見なしている」と述べた。

蘇氏は、「アメリカは可能な限りベトナムを取り込もうとしているが、ベトナムに中露との関係を断つよう強要するのではなく、効果的な方法でアプローチしている」と分析する。

「ベトナムは南シナ海で中国と領有権争いを抱えており、ロシアとは戦略的パートナー関係にある。アメリカは市場と武器販売を通じてベトナムを引き寄せている」と蘇氏は付け加える。

「アメリカが提供する市場と武器販売はベトナムにとって魅力的であり、ベトナムがアメリカとの協力がより重要だと判断すれば、中露とのパートナー関係は自然に薄れるであろう。国際関係や外交は一種の芸術である」と述べた。

さらに、ロシアとウクライナの戦争はエスカレートしており、アメリカとEUは最近、ウクライナへの支援を強めている。 台湾の雲林科技大学金融経済学部の鄭程政教授は、「ロシアはより広い同盟関係を持たなければならない。 今、ロシアは政策全体をアジアに向け、さまざまな方面からの支援を求めている」と述べた。

ベトナムの「竹外交

過去一年間、米中露の指導者たちが頻繁にベトナムを訪れている。昨年9月にアメリカ大統領バイデン氏が訪問し、12月には中国共産党の最高指導者習近平が訪問した。その間に、日本をアメリカと並ぶ六つの包括的戦略パートナーの一つに昇格させた。今週の木曜日(6月20日)にはロシアのプーチン大統領が訪問した。

「ベトナムはこのゲームで非常に巧妙に立ち回っている」とフィナンシャル・タイムズは、シンガポールのユソフ・イシャーク東南アジア研究所のグエン・カック・ジュン氏の言葉を引用している。

ベトナム国家主席グエン・フー・チョン氏は「竹外交」の概念を提唱し、竹は「根が強く、幹が太く、枝が柔軟である」特徴を持つと述べた。ベトナムはアメリカ、オーストラリア、日本、韓国などの同盟国との関係をロシアと同等の「包括的戦略パートナー関係」に引き上げており、これはハノイが与える最高の外交関係のレベルである。

また、「1979年の中越戦争後、ベトナムと中国の関係は表面上は良好に見えるが、依然として大きな民族感情や南シナ海の利益における対立が存在する。一方で、地理的な関係から、ベトナムの輸出入において中国は非常に重要なパートナーである」と述べた。「したがって、中越間には対立がありながらも共通の利益もある」と付け加えた。

現在、中国はベトナムの最大の貿易相手国であり、ロシアはベトナムの最大の武器供給国である。しかし、西側の同盟国の重要性が増している。近年、西側の「リスク削減」戦略の下で、ベトナムはアップルなどの多国籍企業にとって、中国を離れてサプライチェーンの多様化を実現するための目的地として選ばれている。そしてベトナムは世界の重要な製造業の、中心地位を獲得したいと考えているという。

オーストラリアのシンクタンク、ローウィ国際政策研究所の東南アジアプログラムディレクターであるマレー・ヒバート氏は、「ハノイは北京との関係を巧みに処理しており、『反抗と従順の間』で適切なバランスを取ってきた」と述べた。ヒバート氏は、「ベトナムはアメリカやロシアとの関係を利用して、北京を牽制している。ベトナムはその全方位外交政策の立場から、多くのパートナーと緊密な関係を維持している」と述べた。

また、「アメリカは同盟を加速している。現在、中国とロシアの連合と比較すると、アメリカのベトナムに対する影響力は増大している」と述べた。

 

徐天睿
エポックタイムズ記者。日米中関係 、アジア情勢、中国政治に詳しい。大学では国際教養を専攻。中国古典文化と旅行が好き。世界の真実の姿を伝えます!
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