米国のバイデン大統領が日本を名指しで「外国人嫌いで移民を望んでいない」と批判したことで、日本の移民政策に対する国内外の注目が高まっている。こうしたなか、ゴールデンウィーク中に外国人労働者の受け入れ拡大に向けた法改正の審議が進む。識者は「実質移民解禁ではないか」と危惧する。
現在、衆参両院で審議されている出入国管理法などの改正案は、1993年に始まった技能実習制度を廃止し、新たに外国人材の確保を目的とした「育成就労制度」を創設することを柱としている。従来の技能実習制度は発展途上国への技術移転という「国際貢献」を建前としていたが、新制度では「人材の確保と育成」を両輪に掲げ、人手不足を補う目的を明確化した。
育成就労制度では、専門的な技能を持つ外国人を3年間で一定の技能水準まで育成し、在留資格「特定技能」への移行を促すことで、介護や建設、農業など人手不足の分野で長期的な就労につなげることを狙いとしている。また、一定の条件を満たせば、これまで原則禁止されていた同一業種内での転職も可能となる。
改正案について、小泉龍司法相は「わが国が魅力ある働き先として選ばれるように制度を改めるとともに、人権侵害の防止を図る」と説明。岸田文雄首相も「監理支援機関が外国人の支援に当たる」などと理解を求めた。
いっぽう、制度に対しては様々な立場から疑問や懸念の声も上がっている。
数量政策学者の高橋洋一氏はX(旧ツイッター)で、「補選の最中にトンデモ法案が進行中。実質移民解禁ともいえるもの。止まらんかな」と危惧を示した。
慶應義塾大学教授の竹中平蔵氏らを含む有識者も、意見書を政府に提出している。制度・規制改革有志は2月、現行の技能実習制度が「安価な労働力の受け入れ」の道を開いてきたと指摘。外国人政策には基本戦略を策定すべきだと提言し、経済成長に資する質の高い人材の獲得に軸足を置くよう求めた。また、外国人の雇用環境を守るための「外国人労働法」の制定も訴えた。
新制度の創設に当たっては、安価な労働力目的の企業には利用させない仕組みや、日本語と技能の試験のハードル引き上げによる人材の選抜強化、短期と長期の受け入れの峻別などを求めている。
埼玉県では外国人問題顕在化
政府・与党内では、深刻な人手不足への対応として外国人材の活用は不可欠との認識が強い。小泉法務大臣は国会で「我が国が魅力ある働き先として選ばれるよう制度を改める」と強調。今国会での法改正を目指す考えを示した。
埼玉県川口市では、クルド人などをめぐる問題が近年、顕在化している。昨年7月には市病院に100人あまりが集団で押しかけ、病院が緊急車両の受け入れを停止せざるを得ない状況が発生。川口市や市議団が、強制送還などの厳罰対処や就労制度改善などを国に申し入れる異例の展開となっている。
経済ジャーナリストの石井孝明氏によると、「統計では川口の一部地域は他の一部地域より、日本人の人口の減りが明らかに多い」と大紀元の取材のなかで指摘。生活習慣や価値観の違いにより、住民のなかには恐怖を感じる人も少なくないと明らかにした。
クルド人問題について、実業家で「青汁王子」の異名をもつ三崎優太氏(35)も6日、Xで言及。「日本で暮らすなら日本の法律やルールを守るのが当たり前」「不法滞在とか犯罪だし、法律を守れない人は速やかに強制送還されるべき。差別じゃなくて、日本にいる以上は秩序を守れ」と訴えた。
オンライン署名に7500筆
外国人問題が解決されないまま、政府が受け入れ拡大に前向きな姿勢を示していることに対して、一石を投じるオンライン署名が行われている。半年間で7500筆もの署名を集め、コメントも2300件を上回る。
署名活動を主導する政治団体(諸派)「起きる会。」創設者で代表の山下俊輔氏は、「政治活動を行う中で、あらゆる地域の住民からの困りごとして声が届く。宗教葬儀の形式や、解体場(ヤード)設置をめぐるルール無視など。出入国管理法改正案はこうした事態をさらに複雑化させかねない」と信念を語った。
山下氏は、外国人受け入れは解決困難な課題をもたらすと論じている。「移民政策の失敗はすでに欧州で証明されている。古来から文化、伝統が破壊されていくロンドンやパリの情景が物語っている。日本も二の舞になってしまうし、壊れてしまったら元に戻すこともできないのだ」
署名の発起人である牧野雅代氏は、「日本を移民に支えてもらおう」との発想は間違っていると主張。欧米諸国の移民政策の失敗を例に挙げ、日本は自国民の力で発展すべきだと述べた。
署名は6月4日まで行われる予定で、集まった署名は内閣府や内閣府、衆参両院、厚生労働省に提出される。イスラム教徒の土葬をめぐる大分県日出町の問題など、移民受け入れによる弊害の実例も合わせて訴えていくという。
日本の外国人労働者は約173万人に上り、政策のあり方が経済や社会に与える影響は大きい。単なる「人手不足対策」に偏ることなく、国民的な議論を経て、長期的視点に立った戦略的な制度設計が求められる。
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