離婚申請を却下された女性 暴力夫にメッタ刺しで殺害される=上海

2023/11/11
更新: 2023/11/12

年々低下する出生率を食い止めようとするあまり、離婚することが容易ではない「実情」が中国にある。たとえ長年にわたって家庭内暴力を受けようとも、役所が離婚申請をなかなか受理しないのだ。

そのようななか、ある父親の声が中国メディアに取り上げられ、注目されている。なお中国では、役所に届を出せば受理される「離婚届」ではなく、あくまでも離婚申請であるため、それが役所の判断で却下されることもある。

父親は悲痛な胸の内を、こう訴えた。「私の娘は(嫁いだ先で)長年にわたり家庭内暴力を受けてきた。しかし、離婚申請は却下され、ついに暴力夫に殺害された」。

悲惨な事件は今年5月、上海で起きた。殺害された女性(25歳)の父親は、中国メディアに対して、次のように明かしている。

「娘の夫である徐(じょ)は、繰り返し娘に暴力を振るい、その息子(3歳)も虐待した。また、私たち親夫婦に対しても嫌がらせをしてきた。徐はかつて、二度と暴力を振るわないことを保証する誓約書まで書いていたが、それでも娘への暴力はやまなかった。ついに娘は、郷里である重慶の裁判所に離婚訴訟を起こした。しかし裁判所は、夫婦感情が破綻したことを証明する十分な証拠が提出されていない、として娘の訴えを却下した」

「その判決から3カ月も経たない5月15日、娘がいる家にやってきた徐は、娘とドアを挟んで口論になった。やがて、徐はドアを壊して家に押し入り、ナイフで娘の首や腹部を何度も刺して殺害した」

この事件は、中国のネットでも取り上げられ「離婚することの難しさ」への関心を再び呼び起こした。

中国メディアの過去の報道によると、中国では出生率の低下が注目されて以来、離婚することの難しさが増している。そのため、各地で長年にわたり家庭内暴力を受けながら、なお離婚できないケースが相次いで報道されてきた。なかには、何度も裁判所に提訴したが、離婚を認めてもらえないケースもある。

さらに、中国では2021年1月から、離婚する前に改めて考えるための「離婚冷静期30日間」を設けている。

これは「離婚申請を提出してから30日の間に、夫婦のどちらかが離婚を希望しなくなった場合、離婚申請を撤回することが可能になる」というものだ。

つまり、この30日の間に、例えば「暴力夫」の気が変わって離婚に同意しなくなった場合、一度提出した離婚申請が却下されるのだ。

こうなると、暴力の被害者である妻があくまで離婚を願っていても離婚できなくなる。その必然的結果として、その後、妻の身に降りかかる危険度が格段に増すことになる。

当初から、この制度の実施によって離婚することがさらに難しくなり「より多くの悲劇を引き起こすかもしれない」とする懸念が広がっていた。

実際、この制度の実施してから1年内の離婚登記人数は43%も減少したという。離婚を心底願う妻が、役所に離婚を認められず、ついには暴力夫に殺されるという、最悪かつ典型的なケースが、この上海での事例と言えるだろう。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。