2022年6月にスイスのジュネーブで開催された世界貿易機関(WTO)の会議で実現した歴史的な合意は、違法・無報告・無規制(IUU)漁業を抑制し、漁獲量減少の負担を軽減し、保全と管理措置の改善を通じて透明性と説明責任を確保することを目的としている。この協定では、環境保護主義者によって世界中の魚の個体群を枯渇させる最大の要因と見なされている、補助金を明示的に禁止している。
「今回実現した一連の合意は、世界中の人々の生活に変化をもたらすだろう。この成果は、WTOが実際に現在の緊急事態に対応できることを示している」とWTOのンゴジ・オコンジョ=イウェアラ(Ngozi Okonjo – Iweala)事務局長はニュースリリースで述べた。「これらは、WTO加盟国が地政学的な境界を越えて集まり、グローバル・コモンズの問題に対処し、この機関を強化し、活性化させることができることを世界に示すものだ。戦略的協力が戦略的競争の増加と共存できるという望みを与えてくれる」
非営利の環境科学・保全ニュースプラットフォーム「モンガベイ(Mongabay)」によると、各国は日常的に商業漁業を補助し、収益を増やし、コストを削減する補助金や税制優遇措置を提供している。こうした補助金は気候変動の一因となり、海洋の生物多様性を損なう可能性がある。モンガベイによると、各国政府が漁業補助金に毎年350億米ドルを支出し、そのうち220億米ドルが有害な補助金に使われていることをデータは示している。
海洋環境と種の保全に取り組む非営利団体「ブルーム(Bloom)」の創設者クレア・ヌーヴィアン(Claire Nouvian)氏はニュースリリースの中で、「漁業補助金の大部分が有害であり、乱獲、環境破壊、世界中の小規模漁業の加速的な消滅を促進することが、ようやく国際的に認識されるようになった」とした上で、「これは歴史的な前進だ。文章には欠陥があり、不完全ではあるものの、それでも大きな進歩を示している」と述べている。
合意の実現は容易ではなかった。夜を徹したマラソントークの後、会議の最終時間に交渉が前進した。
豪貿易観光省のニュースリリースによると、豪政府は「オーストラリア、フィジー、ニュージーランド、太平洋諸島フォーラム事務局(Pacific Islands Forum Secretariat)の交渉者が漁業補助金に関する合意をサポート」したとして、漁業補助金に関する取り決めを盛り込むことを主張した太平洋パートナーらの貢献を称賛した。
「協定が太平洋地域にとって最も効果を発揮し、最大の環境利益をもたらすことを確実にするために、交渉者はまた、太平洋上の遠洋船舶に対する補助金に取り組む、「野心的」な項目を強く要求した」とニュースリリースは伝えている。「会合では、オーストラリアとフィジーが4年以内に条約をアップグレードし、生産能力の過剰と乱獲につながる補助金に取り組むことを求めるために緊密に協力した。この革新的な新項目は、長距離船舶を擁する主要な漁業国による公海での乱獲を減らすもので、こうした乱獲は太平洋地域の魚類にとって最も有害な漁業となっている。」
同省はこの協定を「過去10年間にWTOで交渉された最も実質的なもの」と呼び、
「これはまた、環境問題に焦点を当てた最初のWTO協定であり、海洋の持続可能性に関する国連の持続可能開発目標の1つを達成する上でも有効だ」としている。
この合意は画期的出来事として広く讃えられたものの、合意の可決を優先するために重要な譲歩が省略されたと批判する声もある。例えば、合意をどのように実施するかについて依然として疑問が残っている。
「重要なこととして、この合意には「能力強化」または、搾取につながる最大要素となっている「有害な補助金」への言及は含まれていない」とガーディアン(Guardian)紙は報じている。「漁船の近代化やエンジンの交換、燃料等のランニングコストなどの資本コストに対する政府の公金補助を禁じていない」
WTO加盟国の指導者らは、より多くの取組みがなされなければならないことを認識していた。その上で、ティムール・スレイメノフ議長は閉会演説で次のように述べた。「今週、皆さんは不可能と思われていたことを実現することに貢献した。率直な、そして時には非常に困難な話し合いを行った。目標のすべてを達成していないかもしれないが、成果を上げたこと自体は我々全員が誇るべきだ」
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