高等教育機関における中国の影響が懸念される中、英国のブリジット・フィリップソン教育相は、大学は常に国家安全保障に「警戒を怠らないようにすべきだ」と述べた。
英国のアンドルー王子と親しい関係があった中国人実業家・楊騰波氏が、中国政府のスパイである疑いが持たれるとして、英国から追放された。これをきっかけ、中国共産党が英国に浸透する実態が懸念されている。
「大学は常に警戒を」
フィリップソン氏は24日、国家安全保障上の懸念に関して「大学は常に警戒を怠らず、政府や規制当局がその取り組みを支援している」と述べた。
また、留学生がもたらす貢献と、外交政策における広範な戦略的課題とを区別する必要があると指摘。
タイムズラジオのインタビューで、同氏は「もちろん、他の多くの国と同様に、我が国も中国と重要な貿易関係を築いている。世界中から多くの留学生が英国にやってくる。それは、英国の大学が世界的に評価され、素晴しい教育を提供しているからだ。そして、留学生は英国経済にとって重要な貢献を果たしている」と説明した。
さらに、留学生が英国経済にとって重要な貢献をしていることを認めつつ、政府は政策の中で常に国家利益を優先すると述べた。
中国の浸透への懸念
16日、庶民院での議論で、保守党影のクリス・フィリップ内務相が中国共産党が英国の機関に浸透している規模について懸念を示した。
「中国は政府など公的機関だけでなく、企業や大学にまで組織的に浸透している。これは深刻な問題だ」と警告した。
フィリップ氏の発言を受け、フィリップソン教育相は「英国の国家的・戦略的利益に関わる分野、たとえば外交政策や教育・大学への取り組みにおいて、常に英国の国家利益を最優先にする」と語った。
シンクタンク「シビタス」が昨年発表した報告書によれば、2017年から2022~2023年度にかけて、英国の大学が中国から受け取った資金は、学生の授業料を除いて約1億2200万~1億5600万ポンドに達していることが判明した。そのうち約2千万~3050万ポンドは、米国が制裁対象としている団体から提供されたものだっが、英国では制裁対象外とされている。
さらに、2023年以降、インペリアル・カレッジ・ロンドンが中国の団体と共同で発表した少なくとも5本の学術論文が、軍事への応用可能性があることフィナンシャル・タイムズが報じた。
この事態に対し、当時の副首相オリバー・ダウデン氏は懸念を表明し、学術界を保護するための対策を政府が検討していると示唆した。
関与している中国の機関には、中国共産党の軍事技術や防衛研究とつながりが深いとされる7つの大学「国防7校」も含まれている。
政府の対応
元テクノロジー相であるフィリップ氏は庶民院で、AIや量子コンピュータといった重要分野における機密情報へのアクセスを目指す試みが確認されていると指摘。MI5(英国保安局)のケン・マカラム長官の発言を引用し、英国の機関に影響を与えようとする中国の活動は「かつてない規模で行われている」と述べた。
さらに、中国の工作員が約2万人に接触を試み、技術へのアクセスを図った事例があるとし、「この議会のすべての議員がターゲットにされた可能性がある」とも述べ、警戒を促した。
ダン・ジャービス安全保障担当相もこれに同調し、「敵対的な国家やその他の勢力が知的財産を持ち出そうとする行為は断じて容認できない」と強調した。また、政府が外国影響力登録制度(FIRS)を導入し、透明性の向上と外国からの干渉への対抗を目指していると述べた。同制度の規定は年明け早々に発表され、2025年夏の施行を目指している。
現実的な外交アプローチ
こうした安全保障上の懸念にもかかわらず、英国政府は中国との関係について現実的なアプローチを採用している。フィリップソン氏は「英国の国家利益を考慮し、中国と対話することが利益にかなう場合には対話を行う」と述べた。
この姿勢は、キア・スターマー首相が最近、習近平と会談し、安全保障を最優先しつつも実利的な関係を築く意向を示したことにも反映されている。
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