米プリンストン大学の政治・国際問題専攻のアーロン・フリードバーグ教授は米国営放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の最近のインタビューで、過去の対中「関与」政策が失敗したのは、米国など西側諸国が中国を読み違えたからだと指摘した。同氏は今後、経済分野を含めて中国との関わりを減らすべきだと助言した。
同氏は、新著『中国を読み違える(Getting China Wrong)』で対中関与政策の失敗の主な原因について、米国と西側諸国が中国のマルクス・レーニン主義体制の本質を見抜けず、「中国共産党の適応力、機智、冷酷さを過小評価し、政治支配に対する固い決意と、国際社会に対する野望に気づかなかった」と指摘した。
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ーー著書の中で、中国に対してより厳しい、絶対に妥協しない政策を施行することは、戦争のリスクを高めるのではなく、むしろそのリスクを低減するという見方を示した。一方、中国は長年来、米国をはじめとする外国勢力が対中包囲網を仕掛けていると警戒しているとも記した。より強硬な政策を導入すれば、中国の警戒心を深め、より攻撃的な行動を誘発してしまわないか。
「とてもいい質問です。まず、中国の指導者がそのような懸念を持っているのは確かなことだ。そのうえ、欧米が中国をいじめていると非難することで、国民の支持を募ったり、欧米諸国を混乱させたりしている。欧米各国が1990年代~2000年代初頭にかけて、中国に対して友好的で、中国を国際システムに迎え入れようとしていたときでさえ、中国はそのような認識を抱いていた。
米国やその同盟国にとって、中国共産党政権に屈服せずに共産党のこの懸念を解消する方策はない。我々にできることは限られている。
今後5~10年の間に私が最も懸念しているのは、米国や西側諸国が強硬になり過ぎて中国を怒らせることではなく、中国の指導者が現状を変えるには武力が役に立つと勘違いしてしまうことだ。そうならないように、私たちはより強硬な姿勢を示し、力を付けて国防を強化し、中国の攻撃的な振る舞いを引き続き抑止すべきだ。これが今一番の課題だと思う」
ーー著書の中で、経済では部分的な切り離しを進めるべきだと主張した。この部分的なデカップリングはどこまで可能か。
「このプロセスは米国が主体となって進めるのではない。実際、中国はここしばらくの間、戦略的な理由から、米国や他の先進民主主義国への経済的依存を減らし、関連の政策を打ち出している。中国の指導者が言うように、技術の独立を目指している。
つまり、デカップリングをさらに進めるプロセスはすでに始まっている。中国と対立し、または中国がロシアのように軍事行動を取った場合を除けば、完全なデカップリングにはならないと思う。しかし、中国製品に門戸を全開し、中国に多くの技術を輸出していた時代、あるいは中国の技術窃取を見過ごした時代はもう終わった」
ーー中国をけん制するために、バイデン政権は同盟国や友好国との関係強化を非常に重要視している。ロシアのウクライナ侵攻では、この協力関係が大いに役立った。しかし、米国と同盟国、同盟国間に隙間は依然として存在し、ロシアを孤立させるための取り組みをいつまで続けるかは未知数である。では、相手が中国なら、このような取り組みはどこまで可能なのか。
「ロシアのウクライナ侵攻が、ヨーロッパとアジアに対して警鐘を鳴らした。多くの人は、ロシアや中国が他の国・地域(例えば台湾)を侵略することは起こり得ないと思っていたが、それが実際に起きた。
同様なことが起きれば、中国に対して包括的な経済制裁を行うのは可能かどうかは、現実問題である。欧州の一部の国々はロシアのエネルギーに依存しているため、ロシアに対する制裁は今ひとつ十分ではない。同じく、多くの国が中国のあらゆる製品に依存しているため、中国はロシアよりずっと立場が強い。中国の指導者がこのことを念頭に、欧米諸国が中国に厳しい制裁を加えることはないと認識しているであろう。その確信が強ければ強いほど、武力行使に出る可能性は高くなる。
もっと重要なのは、中国が侵略に走った場合、欧米各国は自国の経済に損害を与え、政治体制の安定を脅かしても断固として制裁措置をとるという決意を示すことだ。我々はこのことを真剣に考える必要がある」
ーー台湾について、米国のボルトン前国家安全保障顧問は、米軍を駐留させるべきだと述べた。また、米国の一部の議員は、対台湾戦略の曖昧さをなくすよう求めている。著書の中で、中国が台湾に侵攻した場合の米国の支援・援助の重要性について言及した。では、ボルトン氏をはじめとする議員らの意見をどう考えているのか、対台湾政策を調整する必要があるか、見解を聞かせてください。
「まず、中国が台湾に対して武力を行使した場合、特に台湾を占領した場合、台湾の人々だけでなく、太平洋地域全体の平和と安定に深刻な悪影響をもたらす。日本や韓国だけでなく、ほかの同盟国にも脅威を与えることになる。国際情勢が悪い方向に変化し、中国はますます強くなり、他国を威圧し、私たちの同盟関係に挑戦してくるであろう。それが中国の長年の目標であり、我々はそれを防ぐために手を打たなければならない。
「何を言うか」よりも「何をするか」が重要だ。戦略的曖昧さを解消すると言いながら何もしなければ、状況は良くなるどころか、悪化する一方であろう。問題は、米国と地域の主要な同盟国が台湾への侵略に必ず介入するという意思を、中国の指導者や軍部実力者に確信させることだ」
ーー最後に、中国共産党の体制とその目標、野心に話を戻そう。中国の目標は、米国に代わって地域および世界のリーダーとなり、既存の国際秩序を共産党の支配に適したものに作り変えることだ。中国が実際にそのような目標を達成できると思うか。
「中国は、自分たちが支配するさまざまな機関を利用して、代替システムを構築しようとしている。発展途上国で支配的な立場になることを目指している。
その一方で米国やヨーロッパ、日本の支持を得られないと見込んでおり、そのかわりに、私たちを弱体化させ、分断させようとしている。
中国は世界の多くの国にとって、最大の貿易相手国である。今、彼らが目指しているのは、技術やイノベーションの分野で優位に立ち、圧倒的な力を持つことだ。技術を制する者は軍事や政治を制すると、考えているからだ。これは非常に明確なことで、技術の分野で私たちに取って代わろうとしている。 彼らは多くの資源を投入し、目標達成のために我々を利用している。だが、我々は十分な対抗措置を取っていない」
(完)
叶子静
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