岸田文雄首相は17日招集された第208回通常国会で就任後初の施政方針演説を行った。自由や法の支配といった普遍的価値観を共有する国々と連携して抑止力を高め、防衛力を抜本的に強化することで国民を守り抜く「新時代リアリズム外交」を打ち出した。デジタルを活用した地域創生や経済の再生、災害対策などにも言及した。会期は6月15日までの150日間。
新時代リアリズム外交
岸田首相は「厳しさと複雑さを増す国際情勢の中で、日本外交のしたたかさが試される一年だ」と述べ、「外交・安全保障の基軸である日米同盟の抑止力・対処力を一層強化」する考えを示した。安全保障協力の強化に繋がる「円滑化協定」を署名したオーストラリアとは「特別な戦略的パートナーシップ」であると強調した。
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防衛省が安全保障上の脅威と定める中国については「主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求める」と話し、2022年が日中国交正常化50周年であることも念頭に「建設的かつ安定的な関係の構築を目指す」とした。人権問題については同盟国と連携し、人権担当の首相補佐官と共に「しっかりと取り組む覚悟」だと述べた。
「最重要課題」である拉致問題については全員帰国を実現させると力説。金正恩氏と会談し「日朝国交正常化の実現を目指す」と考えを示した。領土問題を抱えるロシアとは、平和条約を締結するとの方針のもと、首脳間の交渉を重視して関係発展に努めるとした。韓国は「重要な隣国」であるとして一貫した立場で対応すると述べた。
防衛力の強化
北朝鮮による弾道ミサイルの発射や、一方的な現状変更の試みの深刻化、極超音速兵器の登場といった軍事バランスの急速な変化などに直面するなか、岸田首相は「政府一丸となって、我が国の領土、領海、領空、そして、国民の生命と財産を守り抜く」と心意気を述べた。
政府は1年ほどを費やし、新たな国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画を策定する。海上保安庁と自衛隊の連携を通して海上保安体制を強化するとともに、島嶼防衛力向上を進め南西諸島の守りを固める考えを示した。
自民党総裁選当時から掲げてきた「核のない世界」を進展させるため「賢人会議」の議論を更に発展させる。各国の政治リーダーの関与のもと、年内を目処に広島で「核兵器のない世界に向けた国際賢人会議」を開催することを目指すという。
新型コロナ対策
新型コロナ対策については国内対策に重点を置くとし、的確に医療を提供することに主眼を置いて医療提供体制を強化すると述べた。そのほかも保健所の体制強化やテレワークの推奨、学校の休校時のオンライン授業の準備を進めるなどの政策を打ち出していく考えを示した。
新しい資本主義について
岸田首相は「新しい資本主義」の実現が経済再生の要であると捉え、デジタル化による地方創生と研究開発能力の向上を成長戦略として打ち出した。そして賃上げと人への投資、中間層の維持を分配戦略として掲げた。市場メカニズムには限界があるとし、歴史的スケールでの「経済社会変革」の動きが始まっていると主張した。
国土強靭化
農林漁業や観光産業への支援策を掲げたほか、東日本大震災や熱海の土砂災害、想定される南海トラフの巨大地震を例に挙げ、5年間で15兆円規模の国土強靭化集中対策を進めると述べた。
岸田首相は幕末を生きた勝海舟の名言「行蔵は我に存す」「己を改革す」を引用し、政権と政府の抱える諸々の課題を解決することに意欲を示し、演説を終えた。
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