米中アラスカ会談を1週間後に控えた3月12日夜、米ニューヨーク大学(NYU)上海校の学生数名が中国当局に逮捕された。逮捕者の中には、米国防総省の職員を両親に持つ学生2人も含まれており、その政治的な動機が問われている。
同日夜、上海警察は2カ所で米国人6人を含む同大学の学生9人を逮捕したと、米大手紙ワシントン・ポストが17日に情報筋を引用して報じた。
2人の米国人学生がバーで私服警官に逮捕された。2回目の逮捕では、米、フィンランド、モロッコ、マレーシアの学生7人が、誕生日パーティーの最中に逮捕された。全員が薬物検査で陰性となり、それぞれ11~16時間拘束された後、釈放された。
逮捕された学生の一人は、インタビューで「上海警察は警察手帳の提示や制服の着用もなく不必要な武力を行使し、混乱と恐怖を引き起こした」と述べた。
米国務省「中国共産党の司法制度は政治的影響から独立していない」
バーで逮捕された2人の米国人学生について、事情に詳しい匿名の学生は「現場には通訳がいなかったため、何が起こっているのかわからなかった。男子学生は、学校の公安部に電話をかけようとしたところ、頭を蹴られ出血した。逃げようとした女子学生は、2人の私服警官に殴られ打撲を負った」と語った。
2人の両親は、ともに米国防総省に勤務していると、米政府関係者がワシントン・ポスト紙に語った。
報道によると、米中アラスカ会談の直前に起きたこの事件が、中国当局の「麻薬撲滅作戦」の一環なのか、それとも米中関係の悪化を背景にした政治的動機による脅迫なのかは不明である。
事件に対するコメントを求められた米国務省の報道官は、「中国(共産党)の法律は不透明で恣意的に執行されるリスクがある。中国(共産党)の司法制度は政治的影響から独立していない」と述べた。
学校「すべての学生が逮捕される危険性ある」
20日付の米政府系放送局ボイス・オブ・アメリカ(VOA)によると、NYU上海校は、事件を政治と関連付けることを拒否した。同校の学生事務部長であるデビッド・ぺ(David Pe)氏は全学生に宛てたメールの中で、「ワシントン・ポスト紙の記事は、一部の学生が米国人であるがゆえに政治的な理由で標的にされたと示唆している。私たちが確認した限りでは、その説を裏付ける証拠はない」と述べた。
一部の学生や保護者から、勾留中に学校がサポートを提供しなかったという苦情が寄せられたことに対し、同氏はメールの中で、「すべての学生はこのような事件の可能性に備える必要があり、学校は逮捕から24時間以内にサポートを提供することはできない」と強調した。
「警察は、学生が身柄を拘束されてから薬物検査の結果が判明するまで、学校が介入することを認めない。警察は24時間の捜査期間内に起訴するかどうかを決定する。そのため、この最初の24時間の間、学校が逮捕された学生と接触することはほとんどない」と説明した。
NYUの卒業生で時事評論家の虞平氏は、VOAの取材に対し、「NYU上海校は米中協力の先駆的な高等教育機関として、自分たちの学生が地元の警察に逮捕されたときには、真っ先に助けるべきだ。24時間以内に介入することは中国の法律に反していない。たとえ大学が警察と摩擦を起こしたとしても、それは中国の法執行機関のコンプライアンスを促進するためである」と反論した。
米ホフストラ大学の法学教授であるジュリアン・ク(Julian Ku)氏はVOAの取材に対し、「これは典型的な中国(共産党)の法的手続きであり、本当に恐ろしいことだ」とし、「このままでは学生が中国に行きたがらなくなり、NYUにとっても問題になる」と述べた。
NYUの中国政府との利害関係が注目の的に
また、この事件により、ニューヨーク大学(NYU)の中国共産党との金銭的なつながりが、米メディアに注目されることになった。3月20日付の米ニュースサイトのワシントン・フリー・ビーコンによると、NYUが中国政府との契約から数百万ドルを受け取った。
報道によると、NYUが2014~19年にかけて、中国から受け取った4700万ドル(約51億円)相当以上の収入のうち、約4,300万ドルは匿名の寄付者からのもので、そのほとんどが「ギフト」と記されていた。
NYUは、これらの高額寄付者や、これらの資金が学校の意思決定や計画にどのような影響を与えているかを明示していない。
2013年6月、中国人の盲目の人権活動家である陳光誠氏は、NYUの客員研究員の職を辞することを余儀なくされた。陳氏はメディアに対し、中国当局によるNYUへの圧力が原因であると語った。大学側はこれを否定した。
2019年11月付のフランス国営ラジオRFIによると、NYU上海校は、2018年末から中国人学生に「毛沢東思想」や「中国共産党の歴史」などの科目を含む「中国公民教育」の受講を義務付けていることが明らかになった。報道を受け、大学側は「中国政府の要請に応えたものであり、中国人以外の学生が受講する必要はない」と回答した。
米国の大学と中国当局の協力関係は、米国の学生と国家安全保障にとって深刻な脅威となっている。中国共産党の産業スパイが米国の大学から機密技術を盗んでおり、その中には軍事転用可能なものもある。1月11日付のワシントン・フリー・ビーコンの調査報告書によると、中国軍に関連する企業や団体が、過去6年間に少なくとも8800万ドル(約95億円)を米国の名門大数十校に注ぎ込んだという。
全米学者協会の上級研究員であるレイチェル・ピーターソン(Rachelle Peterson)氏はワシントン・フリー・ビーコンの取材に対し、中国マネーは、しばしば秘密裏に、そしてひも付きで提供されているとし、中国共産党が米国の大学に及ぼす影響は、大学教育プログラムからカリキュラムの決定まで多岐にわたっていると指摘した。
同氏によると、2012年にNYUが上海校を開校した皮切りに、デューク大学やカリフォルニア大学バークレー校などの名門大学が中国校を設立している。米国の大学の中国校は、北京が影響力を行使する対象となっているという。
(翻訳編集・王君宜)
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