海外農地を狙う中国 農業分野での投資が6年で5倍に

2018/04/27
更新: 2018/04/27

米国農務省(USDA)は最新報告書のなかで、中国企業が急速に海外の農業、林業、漁業分野に投資幅を広めているとした。チャイナマネーの流出を抑制してきた中国共産党政権だが、海外の農業投資は推奨している。また、海外農業投資に力を入れ貿易取引を優勢にし、世界の食糧マーケットへの権利強化を狙う。

レポートによると、中国資本による企業や農地の買収が進み、2016年、農業分野の対外投資額は計260億米ドル(約2.7兆円)と2010年の5倍に達した。投資は1300社の中国企業によって100カ国で行われたという。

中国政府による農林水産部門の対外投資は、2004~12年の初期、主に中国国内で使用する穀類など原材料の調達に焦点を当てていた。地域は東南アジア、ロシア東部をターゲットとし、ASEAN(東南アジア諸国連合)では地域自由貿易協定により、パーム油、米、砂糖、果物、木材などを中心に輸入していた。

しかし、最近では資本の豊富な中国企業が、北米、欧州、オセアニアのアグリビジネス企業を買収するという戦略をとっている。 たとえば、中国国内ではハム・ソーセージで知られる食肉加工会社・双匯は2013年、米食品大手スミスフィールド・フーズを430億米ドルで買収した。

2016年、中国国有化学メーカー中国化工集団(ケム・チャイナ)は、世界最大手のスイス農薬・種子メーカ、シンジェンタを430億米ドル(約5兆1600億円)で買収。

中国国有の大手食品・中糧集団(COFCO)は2014年にシンガポールのノーブル農産事業、2016年にオランダの穀物商社ニデラ農業をそれぞれ株式取得で買収した。

ニュージーランドやオーストラリアでは乳製品、牛肉、羊肉の需要の増加とともに買収や合弁会社の設立が進む。

日本も例外ではない。北海道や沖縄、鹿児島、長崎、島根の離島の土地や水資源は、法の規制がないために相次ぎ戦略的に中国資本に買収されているとして指摘されている。

農林水産省が4月に発表した、2017年の外国人の新規土地取得は全国で29件、山林202ヘクタールだ。そのうち25件、201ヘクタールは北海道だった。

保守系シンクタンク・国家日本問題研究所の所長でジャーナリストの櫻井よしこ氏は2017年8月、週刊ダイヤモンド(オンライン版)で「国土を買い取られることは、国を奪われることだ。(中略)中国の膨張政策がわが国の国土買収に反映されているのは間違いないだろう」と述べた。

今年8月、日本政府は、中国への品質の高い木材の輸出を解禁する。中国国内は木材が不足しており、木材収集に力を入れている。前北海道議会議員で、中国資本による北海道の水資源や国土買収を調査する小野寺まさる氏は4月、大紀元の取材に答え、北海道の土地を買収してきた中国企業あるいは中国寄りの日本企業が、「森林をむちゃくちゃに大量に伐採してしまわないか」と懸念を示した。

小野寺氏はSNSでは3月、北海道の「某港近くの中国系企業の土地に集積された膨大な木材資源」の写真を掲載し、外資による土地買収問題への注視を広く促した。

チャイナマネーの流出は抑制も、「食糧生産」につながる海外投資は推す

小野寺まさる・前北海道議会議員が3月、SNSで発信した、北海道のある港近くの中国系企業の土地に積載された大量の木材の写真(@onoderamasaru)
 

この数年、中国当局はチャイナマネーの流出を防ぐために、海外投資を規制している。いっぽうで、海外の食糧マーケットへの投資は実際、強く推奨している。

中国政府は2017年8月、中国企業の海外不動産投資の新ルールとして「禁止」「抑制」「推奨」の3つのカテゴリーを導入した。「禁止」はカジノや軍事関連、「抑制」はホテルや住宅開発、「推奨」は農業やインフラ整備が含まれる。つまり、外国の農地取得は推奨している。

さらに、国の食糧自給自足率の基準を緩めて、中国企業が国内の輸入農産品のサプライチェーン拡大に関わるよう推進している。中国農業部(農務省)によれば2017年、農産品の輸入は10年前の3倍となる1250億米ドルになった。

こうしたアグリ計画は、すでに10年前に発表されていた。2007年に公布された、中国共産党政権の農業政策「第一文書」には、具体的な外国投資戦略が含まれている。

文書発表後にはさっそく、海外農業投資のベンチャー企業が誕生した。2010年には、中国当局は海外投資を促進するための支援政策をまとめた。

2014年には、当局はアグリビジネスに関わる巨大企業を作るとの指針を出した。これは、国営企業・中糧集団(COFCO)がニデラとノーブルを買収した時期だ。数兆円の買収劇により、COFCOは世界最大級の貿易商社の一つとなった。

2015年、海外で農業生産をスタートする中国企業に対して、設備と導入の支援を決めた。2017年は、すべての農林水産にかかる企業の支援するとした。

そして2018年、海外農業投資の再びの推奨と、穀物取引など多国籍アグリビジネスに関わる大企業の創設に関する指針を出した。

中国主導の世界大規模開発構想「一帯一路」にも、アジア、アフリカ、東ヨーロッパを対象とする農業投資、技術援助、農林水産品の貿易について言及されている。

プロパガンダで盛り上げ 海外農業投資の推奨

中国の農業分野における対外投資に関する報告は、英語メディアと英文レポート、そして一部地域の報告に過ぎなかった。 しかし、最近では中国語の報道や研究報告、言及が多く出ている。これは、中国政府の海外投資農業政策を推奨していることとリンクしていると見て取れる。

中国農業部(農務省に相当)によれば2016年、1300以上の中国企業が100以上の国と地域の農林水産分野に計33億米ドル(約3400億円)投資した。その額は、2010年比で約5倍になったという。

この数字は「製造・サービス業」カテゴリ-に分類される、農作物や水産品の食品加工や貿易会社の買収を含んでいないため、このたびのUSDAの報告である計260億米ドル(約2.7兆円)とは、10倍近い差があり、中国側は過小評価している。

米国農務省(USDA)は報告の中で、中国共産党政権は、農林水産分野の投資を増加し貿易戦略で有利に立ち、全世界でマーケットの影響力を拡大させていると警告した。

(編集・佐渡道世)