台湾のシンクタンク「台湾励志協会(TIA)」は9月29日午後、「『米中首脳会談』の地政学・経済学」をテーマとする国際シンポジウムを開催した。専門家が米中首脳会談でのやり取りや米中台関係を分析し、米中間のハイレベルな競争と構造的な対立は変わっておらず、米国の対台湾政策や「一つの中国」政策にも大きな変化はないとの見方を示した。
また、米中両国の間には戦略面での共通認識が乏しく、台湾が両国間の交渉材料となることもないと指摘した。
シンポジウムでは、恵理国際政策諮詢集団の譚耀南・董事長(会長)が司会を務め、東呉大学政治学科の陳方隅准教授、台湾智庫の頼怡忠氏、台湾励志協会の頼栄偉・執行長(事務局長)が登壇した。
譚氏は、米中の戦略的競争の枠組みや、米国の「一つの中国」政策に根本的な変化はないと分析。米国の対台湾政策は引き続き、台湾関係法、米中3共同コミュニケ、いわゆる「6項目の保証」に基づいており、台湾海峡の平和と安定の維持や威圧への反対を重視していると説明した。
また、米国務省などの公式声明でも、台湾問題を中国との交渉で交換条件として扱うことはないとの立場が明確に示されているとした。

米台関係に揺らぎなし
陳氏は台湾側の視点から、「ニュースがないことこそ、良いニュースだ」と述べ、今回の会談で台湾が直接的な悪影響を受けなかった点を強調した。これは、台湾の外交・安全保障当局が事前に米側と緊密かつ円滑な意思疎通を続けていたことの表れだと指摘した。
さらに、海上保安分野での協力や「グローバル協力訓練枠組み(GCTF)」、各種の防衛訓練、米軍現役要員による実質的な訓練支援などを挙げ、「米台の実質的な関係は引き続き深化している」と述べた。
一部メディアが報じる米中間の「水面下の取引」を理由に、台湾社会が過度に不安視する必要はないとの考えも示した。
一方、陳氏は、今回の米中首脳会談で大きな具体的成果は確認されなかったものの、中国共産党による対外宣伝には注意が必要だと指摘した。習近平が「パンダ外交」や大規模な青少年交流など、ソフトパワーを利用した対外宣伝を改めて打ち出したことに触れ、米中間に存在する利益対立を国際世論の中で薄めようとしているとの見方を示した。
また、第2次世界大戦時の同盟関係などをめぐる歴史認識について、中国共産党が台湾に対する法的根拠を意図的に演出していると指摘。台湾は自らの主体性と現実に立脚し、米国にとって不可欠な価値・技術面のパートナーであることを強調すべきだと述べた。
米中の隔たり、なお鮮明
頼氏は今回の米中首脳会談について、「象徴的な意味が実質的な内容を大きく上回る」と分析した。
米側が発表したファクトシートと、中共側が示した8項目の合意を比較すると、核軍備管理、レアアースの供給、軍事的危機における意思疎通の仕組み、貿易委員会の位置付けなど主要な問題で大きな隔たりがあると指摘。「双方が異なる説明をしており、相互の信頼は存在しない」と述べた。
また、トランプ大統領は台湾問題について、中共側に譲歩する約束をしていないと強調した。
さらに、米国は首脳会談に先立ち、戦略面で十分な備えを進めていたと指摘。日米韓3か国が台湾海峡の平和を維持し、一方的な現状変更に反対する共同声明を発表したほか、英国、フランス、ドイツ、日本、韓国、ポーランド、ニュージーランド、オーストラリアなども相次いで共同の立場を表明したことを挙げた。
こうした動きは、主要な民主主義国が「台湾海峡の安全は自国の存立と共通利益に関わる」と認識していることを示すものだとした。
頼氏は、米国から台湾への武器供与が遅れている問題についても「時間の問題だ」とした上で、米国内で大規模な軍需が生じていることを背景に、生産能力の制約に台湾がどう対応するかを考える必要があると指摘した。
その上で、ライセンス生産や国内組み立て、多様な販売方式など、新たな協力の形を積極的に模索すべきだとの考えを示した。
台湾は「取引材料」にならず
頼栄偉氏は「取引リスト」という分析枠組みを用い、米中間の交渉項目を3つに分類した。
第1は、構造的な問題との関係が薄い生活関連の消費財など「取引可能なもの」。第2は、軍民両用技術の一部などを含む「交渉可能なもの」で、AIをめぐるリスクなどがこれに当たる。第3は、両国の構造的な国力に関わる「取引できない問題」で、台湾や最先端AI半導体などが含まれるとした。
今後、トランプ氏と習が再び会談する機会が見込まれる中、米中間の「取引リスト」の内容がどのように変化するかを、両国関係を見極める指標として注視すべきだと述べた。
今回の米中間の取引には、生活関連物資の大規模な購入が含まれていると指摘。米国内政治の観点からは、中間選挙を意識した要素もあるとし、こうした措置がインフレや生活費の抑制につながるかどうかについては、なお議論の余地があるとした。
一方、中共にとっても、今回の首脳会談の結果は国内政治上の必要性に沿うものだと分析した。習近平は外交面での安定を確保することで、党・政府全体への統制を維持する必要があるとの見方を示した。
頼氏はまた、中共が対外宣伝や統一戦線工作の観点から、トランプ氏、共和党、民主党、米議会、企業経営者、各層の有権者をそれぞれ区別し、取り込みや分断を図っていると指摘した。
中国経済が抱える問題を踏まえれば、習近平が米国の協力を必要としていることは明らかだとし、習政権が党・政府内部で不安定さを抱える中、対外的な軍事的冒険も米中首脳会談による制約を受けるとの見方を示した。
米中対立の構図、変わらず
中共が米国で「台湾不信」を、台湾で「米国不信」を広げようとしていることについて、陳氏は、台湾社会が米台関係の本質を理解する必要があると指摘した。頼怡忠氏も、事実を明らかにすることで中国側の主張に対抗すべきだと述べた。
頼栄偉氏は、中共が米中台の三角関係の中で台湾を孤立させようとしているとの見方を示した。
譚氏も、今後台湾では「米国は信頼できない」「台湾には自衛する力がない」といった認知戦に関する情報が大量に流される可能性があると指摘。「その意味で、論述と物語が重要であり、意思疎通も重要になる」と強調した。
譚氏は最後に、米中首脳会談の前後の動向や政策の流れを総合すると、米国の対中政策の大枠に方向転換や軌道修正はなく、対台湾政策についても台湾関係法や従来の政治的な約束を維持していると総括した。
また、最近の米国の世論調査を引用し、米国の与野党や主流世論の間では、中共の勢力拡大を警戒し、対抗する姿勢を維持することについて、なお一定の超党派的な合意が存在すると指摘した。
米議会では、中共の影響力への対策や先端技術分野の防衛線を強化する法案が超党派で継続的に進められており、制度面でも中共を念頭に置いた対応が続いているとした。
その上で、台湾は経済の強靱性、社会全体による防衛、重要サプライチェーンにおける地位、民主主義と法の支配といった面で、米国社会から高い認知と信頼を得ていると指摘。今後の国際的な地政学上の変動に対しては、米台双方の戦略・経済面での共通利益を引き続き拡大し、柔軟に対応しながら着実に前進することが重要だとの考えを示した。
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