米軍がイランに対する軍事行動の「エピック・フューリー(壮絶な怒り)作戦」を実行したことに対し、中国共産党政権は外交面での慎重な姿勢を取ると同時に、世論誘導においても4年前に発生したロシア・ウクライナ戦争時ほど熱狂的な反応を示していない。中共の官製メディアや厳しく統制されたSNS上では、当該事案に関する報道は比較的抑制的だ。
中国で目立たなぬイラン報道
米政府系メディア「中東放送ネットワーク(MBN)」の最近の分析で、中国メディアではイランがニュースの一面を飾ることはまれで、関連報道は国際欄に押し込まれるか、国内ニュースの洪水に埋もれていると指摘している。中国版TikTok「抖音」上では、イランに関するアカウントは100万以上存在するにもかかわらず、イラン関連の報道は厳しく規制され、明らかに表示が抑えられているという。こうした報道は国際欄の片隅に置かれるか、大量の国内ニュースの下に埋没しているのが実情だと分析されている。
また、抖音上で「イラン」をキーワードとした483本の動画を分析し、米とイランの関係に関するナラティブが厳格に管理されていることを突き止めた。
分析によれば、3月1日から4日にかけて関連投稿は急増したものの、全体のトーンは慎重で、イデオロギー的に煽動的というよりも抑制的だった。官製メディアのアカウントが議論の主導権を握り、空爆そのものや中東情勢の推移を中立的口調で報じるケースが多い。中共の官製メディアが配信した動画のうち、約88%は事実関係の陳述か和平を呼びかける内容で、扇動的な表現は避けられていたという。
一方で、一般ユーザーの投稿では約3分の1がより分極的なトーンを採っていた。イランの報復・抵抗を称賛する親イラン的な投稿は、親イスラエルや親米的な動画に比べて数が圧倒的に多かった。立場を明確にする親イラン系の動画が最も多く「いいね」を集める一方、米国・イスラエル支持の動画は「いいね」は少ないがブックマーク数は相対的に多い、という傾向が見られた。
大紀元の調査でも、中国国内では中共の官製メディア「人民日報」がほとんどイランについて触れておらず、国際欄でさえ扱いが小さいこと、「百度」でのイラン検索結果が数年前の報道で占められること、中共の官製メディアが概ねイラン政府側の立場に立って報じていることが確認された。
米国在住の元中国の人権弁護士・呉紹平氏は大紀元に対し、中共の官製メディアやセルフメディアは中共の世論誘導の下にあり、中共の意向に沿って情報を流布すると指摘した。
中共当局は、投稿内容の削除やアカウントの凍結といった手段で情報統制しており、抖音や小紅書などのアルゴリズムを介して意図する見解を混入させることで、潜在的な洗脳効果を生み出すという手法を取っているという。
呉氏はまた、中国国内の市民の多くは既に中共体制の本質を認識し始めているため、コメント欄が開放されれば体制側の誘導とは真逆の反応が即座に出るとも指摘した。
ロシア・ウクライナ戦争時との報道の差
4年前のロシアによるウクライナ侵攻を巡る報道と比べると、今回の米主導の対イラン攻撃に対する中共の官製メディアの反応は明らかに冷淡だ。「中東放送ネットワーク(MBN)」の中国問題専門家も、4年前にロシアのウクライナ侵攻後に中国のSNSを席巻したナショナリズムの高揚とは対照的に、今回の反応は異常に静かだと分析。中東が深刻な紛争状態にあっても、北京は「両会(全国人民代表大会と政治協商会議)」に重心を置き、社会における党の安定維持を最優先しているという。
時事評論家の張奕氏は大紀元に対し、ロシアとウクライナの軍事衝突はニュースの量や重要性の面で米の対イラン攻撃を上回ると指摘。ウクライナは、欧州の玄関口であり、ロシアは国連安全保障理事会の常任理事国であるため、世界情勢に与える影響度が大きいからだと説明している。
呉紹平氏は、ロシアのウクライナ侵攻は中共から全面的な支持を受けたのに対し、イランについてはロシア同等の関係として語ることはできないと述べる。表面的には中共はイランの最大の支持者であるが、現状では米国との関係や中国経済の脆弱性を背景に過度に強く主張することは避けているとの見方だ。
低調な報道に加え、中共は虚偽情報の拡散に注力しているとの指摘もある。具体的には、紛争の発端を意図的に矮小化し、今年1月にイラン政権が数万人の抗議民衆を殺害した事実や、核交渉の過程で高濃縮ウラン濃縮を再開したこと、極秘のミサイル生産といった点をほとんど報じない一方、米軍の「違法性」や「侵略性」を強調している。
また、「人道的危機」や「文化遺産の損傷」を誇張し、「イランの粘り強い反撃」を演出、戦争の影響を「世界的経済崩壊」へと拡大解釈しているとの批判がある。
台湾誌「在野党」の評論家は、中共の宣伝の本質は事実の提示ではなく自らに有利な宣伝のみを行うと指摘。さらに中共は「米イスラエルが誤って140人超の学生を殺害した」といったデマや、「米国は石油を奪うために攻撃した」といった説を大量に流布しているとされる。
別の戦術として、中東で紛争が激化している間にも中国国内だけは「平穏な日常」を享受できるかのようなプロパガンダを行い、国民に党への感謝を促すメッセージを流すこともあるという。
呉紹平氏は、中共は自国の軍事装備が米イスラエルの軍事攻撃に対して脆弱であることを認めず、むしろ米国を覇権主義国として描き、対米憎悪を煽る世論を創出していると述べた。
中共にとって不都合なイラン情勢の現況
米軍に攻撃が続く中、中共の官製メディアは特に「イラン体制の大きな変化」に関する情報については触れていない。
具体的には、トランプ大統領がイラン国民に蜂起を呼びかけたとする情報、イラン亡命王子レザ・パフラヴィ氏を暫定指導者として受け入れる動き、テヘランの市民が米軍の攻撃を歓迎したという報道、さらにはイラン政権上層部の多数が「斬首」されたという核心的な変化に関する報道は、中共の官製メディアおよびその系列メディアではほとんど触れられていない。
またメディアの報道から、イラン国民の自由を求める動きと中国における状況を重ね合わせたくないとする思惑も垣間見える。官製メディアは、国内での抗議活動を「外部勢力が扇動した混乱」と表現し、イラン国民の自発的なデモとしては扱っていない。
台湾誌「在野党」の評論家は、中共が最も恐れているのは自らの政権の違法性が国民に露呈することだと指摘している。
また、「中共は嘘と暴力で支配を維持しており、もしイラン政権の崩壊が広く知られれば、国民は『どれほど恐ろしい独裁政権でも人民は最後にそれをひっくり返す』という事実を学ぶだろう。そしてそれは中共自身にとって致命的な示唆となるため、最重要課題は政権の安定保持であり、イラン情勢の情報遮断はその延長線上にある」と語った。
呉紹平氏も、今回の米イスラエルの対イラン攻撃は道義的に支持され得る面があると述べる一方で、中共はこれを正義として報じることはせず、必ず「覇権主義」や「好戦者」として描写するだろうと語った。さらに、イランが長年中共の支援を受けていたこと、今回の攻撃で中共が中東に張り巡らせた戦略拠点が一掃されつつある事実についても、中共は国民に知らせたくないとの見方を示した。
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