中国資本関与の仏企業 英パスポート部品を供給 安全保障上の懸念も

2026/05/30
更新: 2026/05/30

イギリスやヨーロッパ各国の電子パスポートに使われる中核部品を供給するフランス企業が、アメリカの輸出規制対象となった中国資本と関係していることが分かった。英政界や安全保障の専門家の間では、重要インフラの安全性や身分証明書の偽造リスク、サプライチェーンの脆弱性を懸念する声が出ている。

英紙フィナンシャル・タイムズによると、フランスの電子部品メーカーLinxensは、主にパスポート用の電子インレイを製造している。インレイは、パスポートの表紙やデータページに埋め込まれる極薄の部材で、通常は外から見えない。小型のRFIDチップとアンテナを一体化したもので、所持者の個人情報、デジタル写真、指紋などの生体情報を保存し、非接触での電子読み取りを可能にする。生体認証パスポートを構成する重要な部品である。

Linxensは持ち株会社の傘下にあり、その主な投資家には、北京の投資ファンドである智路資本(Wise Road Capital)や建広資本(JAC Capital)などが含まれる。

米商務省は2024年、智路資本と建広資本をエンティティーリストに加えた。米側は当時、両社が中国共産党(中共)による機微な半導体製造能力の獲得を支援したと判断していた。関連技術はアメリカと同盟国の防衛産業基盤にとって戦略上重要だとして、両社を輸出規制の対象に加えた。

近年、アメリカを初めとする西側諸国は、中国のハイテク産業に対する輸出規制や投資審査を強化している。英政府も2024年、「国家安全保障・投資法」に基づき、建広資本が主導する別の企業連合に対し、イギリス半導体企業の保有株式を売却するよう命じていた。

英政府「旅券情報の流出なし」

フィナンシャル・タイムズが入手した文書や関係者の話によると、Linxensは現在、フランスの防衛・技術大手タレスに、個人情報が書き込まれていない電子インレイを供給している。タレスは英政府から委託を受け、パスポートの製造を担っている。所持者情報や暗号情報の書き込み、個人情報をひも付ける処理は、いずれも英国内でタレスが行っている。

英内務省は、Linxensの供給が安全保障上の脅威になっていることを示す証拠は、現時点ではないとしている。中核となる暗号技術はすべてイギリスの旅券当局が管理しており、パスポート所持者の個人情報が英国外に持ち出されることはないという。

Linxensはイギリス以外にも、フランス国立印刷局にパスポート用の電子インレイを提供しているほか、チェコの国有印刷機関にも身分証明書用チップ部品を供給している。チェコ側は、現時点で安全上の問題は確認されておらず、中核チップは信頼できるオランダ企業が製造していると説明した。また、供給業者はすべての法的要件と入札要件を満たしているという。フランス当局は、関連報道について公にコメントしていない。

専門家、偽造リスクと供給網の安全性を警告

英下院のビジネス・貿易委員会委員長、リアム・バーン氏は、今回の問題が重要な国家インフラの完全性に潜在的なリスクをもたらす可能性があると指摘した。同委員会が進めている英中経済関係の調査でも、この点を評価対象に加えるとしている。

英国家サイバーセキュリティーセンター元長官、マーティン氏は、リスクは単なるデータ暗号化の問題よりも、パスポートの偽造や模造の面で表れる可能性が高いと指摘した。同社の事情に詳しい情報筋は、多くの国の身分証明書に関する技術的な詳細を把握すること自体に、一定の情報価値があると述べている。

一方、Linxensは、関連製品はタイにある認証済みの安全施設で製造され、定期的に第三者による安全審査を受けていると説明した。同社は、パスポートチップの暗号鍵や個人情報にアクセスすることはできず、チップの改ざんを検知する技術も導入していると強調した。そのため、仮にパスポート偽造のリスクが指摘されるとしても、自社が供給する部品に起因するものではないと主張している。

公開情報によると、Linxensはもともとヨーロッパの投資会社が保有していたが、2018年に清華紫光集団が全額出資で買収した。2022年に紫光集団の司法再建が完了した後、同社の全株式は北京智広芯控股が保有する形となった。主な投資家には、智路資本、建広資本のほか、複数の中共国有資本が含まれている。

王君宜
王君宜