1月20日にトランプ次期大統領が就任する前に、米中貿易戦争の次なる戦いの火ぶたがすでに切られている可能性がある。それは、中国が所有するソーシャルメディアプラットフォーム「TikTok」が、1月19日までにアメリカ企業に売却されるか、さもなくばアメリカ国内で禁止されることが決定しているからだ。
もしTikTokの禁止措置が実施されれば、アメリカ国内の推定1億5千万人から1億7千万人のアクティブユーザーがこの人気プラットフォームへのアクセスを遮断されることになる。世界で10億人以上のアクティブユーザーを抱えるTikTokだが、禁止措置が施行されれば、AppleやGoogleなどの企業やインターネットホスティングプロバイダーがTikTokへのサポートを停止し、アメリカ国内のユーザーはアプリを利用できなくなる。
バイデン法案を最高裁が支持
この禁止措置の根拠となるのは、昨年4月にバイデン大統領が署名し、共和党・民主党双方の支持を受けて成立した「外国敵対勢力が管理するアプリから米国人を保護する法案(Protecting Americans from Foreign Adversary Controlled Applications Act)」である。この法律は、中国政府がTikTokを通じてアメリカ人ユーザーの個人データを悪用し、戦略的な目的でプロパガンダを広める可能性について懸念を示している。
アメリカ訴訟長官エリザベス・プレログル氏は、この法律について次のように述べている。
「この法律は、数千万人のアメリカ人から収集した機密データを利用し、外国の敵対勢力が秘密裏に影響力を行使する可能性のあるTikTokのようなプラットフォームを、中国政府が支配することによる国家安全保障への重大な脅威に対応するものである。この法律は、言論の制限を課すのではなく、外国の敵対勢力がプラットフォームを支配することを禁止することで、これらの脅威を軽減するものだ」
さらに、アメリカ控訴裁判所は、TikTokが主張する「禁止措置がユーザーの第一修正権を侵害している」との論点を否定した。
この法律に対するTikTokの反応は予想されたものだった。同社は12月6日の声明で次のように述べている。
「TikTok禁止措置は、不正確で誤解に基づく憶測によって考案され、押し通されたものであり、結果としてアメリカ人に対する明白な検閲を引き起こした」
中国政府の報復はどうなるのか
TikTokの売却や禁止措置が実施されれば、中国側が報復に出る可能性が高い。北京政府は、アメリカによるTikTok禁止が他国にも波及し、同様の措置を引き起こすリスクを認識している。かつてアメリカが国家安全保障上の懸念からHuaweiの通信機器販売を禁止した際、多くの国が追随したように、この措置は中国の技術力への評価や、アメリカに対抗する存在としてのイメージに深刻な打撃を与えるだろう。
中国政府がアメリカ市場から主要企業が追放されることを座視するとは考えにくい。一つには、中国はすでに経済的な苦境に立たされており、収益を減らすことは避けたい状況にある。また、トランプ政権による「アメリカ・ファースト」政策が再び展開される中で、弱さを見せることは外部ではトランプ政権、内部では習近平政権の対立勢力に付け込まれる恐れがある。
中国共産党にはTikTok問題に対してアメリカへの報復手段がいくつかある。最も明白な選択肢は、アメリカ企業の中国市場へのアクセスを制限することである。ユーラシアグループのシャオモン・ルー氏は、「中国は現時点で選択肢を模索しているが、アメリカの一部のテクノロジーブランドが報復の巻き添えになる可能性がある」と警告している。
この脅威は現実味を帯びている。北京はこれまでも、Meta Platforms(旧Facebook)やSnapなどのアメリカ系ソーシャルメディア企業を中国市場から排除してきた。さらに、テスラやAppleなどの企業に対して、工場への電力供給を制限したり、供給網を混乱させたりすることで圧力をかける可能性がある。これらの措置は単独で行われる可能性もあれば、より大規模な対抗戦略の一環として実施される可能性もある。
TikTok禁止と台湾への武器売却の関連性
それは決してあり得ない話ではない。昨年4月にこの法律が可決された後、中国政権はTikTok禁止とアメリカの台湾への武器販売を、中国の主権、経済発展、自由市場の原則を標的とする関連行為として結び付け、またアメリカが力を振りかざしている行為とみなした。
中国外交部の林健報道官は、「これらの措置は中国の主権を重大に侵害している。台湾への大規模な軍事支援を含み、一つの中国原則を深刻に違反している」と述べている。
トランプ氏の方針転換はTikTokを救うのか
興味深いことに、TikTokを救う可能性があるのはトランプ次期政権かもしれない。2020年にはTikTokの禁止を試みたトランプ氏だが、最近ではアメリカ最高裁判所に対し、政治的な解決を模索するために判断を延期するよう求めている。
この方針転換の背景にはいくつかの理由が考えられる。一つは、2024年のトランプ選挙キャンペーンの大口資金提供者であるジェフ・ヤス氏の存在である。ヤス氏はTikTokの親会社であるバイトダンスの株式7%を所有しており、その価値は約210億ドル(3兆3千億円)と見積もられている。また、ヤス氏の投資会社Susquehanna International Group(サスケハナ・インターナショナル・グループ)もバイトダンスの株式を15%所有している。
もう一つの可能性として、トランプ氏がTikTokを対中貿易交渉の切り札として利用しようとしている点が挙げられる。この両方が理由である可能性もある。
TikTok問題の最終的な山場として、最高裁判所は1月10日にこの問題を審理する予定であり、強制売却の締め切りまで残り9日となる。
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