台湾海峡における核戦争リスクと日本の核政策の選択

2026/05/31
更新: 2026/05/31

5月28日、第23回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)の前日、英国の著名シンクタンクである国際戦略研究所(IISS)は評価報告書を発表し、アジア太平洋地域が世界の新たな軍備競争の中核となりつつあり、台湾問題がその中で最も危険な潜在的引火点であると指摘した。

米中が台湾問題をめぐって開戦した場合、互いの指揮・通信などの戦略的中枢を大規模に攻撃し合う可能性が極めて高く、事態がエスカレートして核レベルにまで発展しかねないとした。

こうした事態への発展を望む者はいないが、この評価には根拠がある。中共による台湾併合の野望は止むことなく、軍事的圧力は一層強まり「島は残しても人は残さない」という言葉すら流布されており、核による脅しも排除できない状況だ。中共当局は「核兵器の先制不使用」を公式に標榜しているが、米国の一部の研究は、中共が特定の状況下ではこの方針に従わない可能性を指摘しており「(台湾への)軍事的敗北が(中共指導者の)国内における権力喪失、ひいては生命の危機に等しい場合、その可能性はより現実味を帯びる」としている。

実際、過去20年間、中共は大規模な核軍拡を継続してきた。米国は、中共の核兵器能力の拡張速度はいかなる国をも上回ると見ている。昨年9月の北京閲兵式では、中共は地下サイロ式・車載式の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を含む核兵器搭載可能な兵器を誇示した。国防総省の2025年版「中国軍事力報告」は、中共が最新の3か所のミサイル発射坑に100発超のICBMをすでに配備した可能性が高いと推定し、2030年までに中共の核弾頭数は1千発を超えると予測している。しかも中共には軍備管理交渉に臨む意思がない。

5月29日にはロイターが独自報道として、中共が北西部の砂漠地帯で陸上配備型核戦力のインフラを大規模に拡充していると伝えた。第三者機関による衛星画像は、哈密(ハミ)の核ミサイル発射坑群に近接した場所に、80基超の発射台と3つの八角形施設が建設されていることを明らかにした。ロイターのために画像を分析した3人の安全保障アナリストによると、電子戦・衛星通信・指揮作戦に使用されるとみられる施設も確認されたという。

中共の核軍拡は、長らく続いてきた米露二極の核秩序を米露中三極構造へと転換させつつある。その意図は、核戦争を盾に脅しをかけることで、米国が中共による台湾攻撃に軍事介入できないよう強いることにある。

これは当然、米国が受け入れられるものではない。米国は核兵器分野で長期にわたり絶対的優位を保持しているだけでなく、核使用への確固たる意志を持っている。すでに1950年代、アイゼンハワー政権は中共による金門砲撃(1958年)に際して核抑止を行っている。冷戦終結以来、歴代政権の「核態勢見直し(NPR)」は「核兵器使用に至る極限状況」を検討する際、台湾海峡危機等の潜在的軍事衝突を核エスカレーションを引き起こしうる重大リスクとして明確に位置付けてきた。これは米国が常用する「最悪想定」の計画であり、作戦計画ではなく軍事概念計画として主に抑止的意味合いを持つものだが、中共に対して強力な戦略的圧力を構成することは間違いない(必要に応じて、軍事概念計画は直ちに作戦計画へと転化し得る)

先般のトランプ訪中で米中は今後3年間にわたる「建設的な戦略的安定関係」の構築に合意したが、これはある意味、台湾海峡における核戦争リスクを封じ込めるためのものでもある(ただし米中の核競争は依然として白熱化の一途をたどっている)。

本稿が指摘したいのは、中共の核軍拡が米国への挑戦にとどまらず、日本にとっても甚大な脅威をもたらしているという点だ。

地理的関係から、台湾海峡情勢の変化は日本に決定的な影響を及ぼす。日本は中共が武力によって台湾海峡の現状を変えることを黙って看過できる立場にない。また日米は同盟関係にあることから、率直に言えば「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事である」

中共の核の脅威に対して、日本には二つの選択肢しかない。米国の核の傘に依存するか、自ら核を保有するかだ。

日本が選んだのは前者の道である。米国は長年にわたって日本に「拡大抑止」を提供してきたが、かつてはその主たる対象はソ連だった。1964年10月に中共が核実験に成功したことは日本を大いに動揺させたが、その後の日中国交正常化と協力関係の発展により、中共による核の脅威は日本にとって大きな問題ではなかった。

しかし2010年以降、中共の「戦狼外交」が激化し、世界覇権への野望を隠さなくなると、日中関係は著しく悪化し、矛盾の拡散と戦略的競争という新たな段階に入った。日米の「拡大抑止」は次第に中共を対象とするようになり、日米両国は2010年から外務・防衛担当閣僚レベルで「拡大抑止」に関する協議を開始し、日米安全保障協議委員会「2+2」でも拡大抑止をめぐる議論が行われるようになった。

2010年以降の日中関係の新段階においては、二度にわたって深刻な悪化が生じている。

第一の悪化は、中共による台湾への脅威がエスカレートしたことを受け、2021年4月に日米首脳が「台湾海峡の平和と安定」への関心を盛り込んだ共同声明を発表したことによる。これは1969年の佐藤・ニクソン日米共同声明以来初めて、日米首脳会談の共同声明に、いわゆる「台湾条項」が明記されたものだ。

中共は激しく反発し、日中関係は公然と対立する段階へと突入した。2022年版の日本の外交青書は中共の脅威への関心を一層強め、「中国の国防費は過去30年間で約42倍に増加しているが、予算の詳細や増額の意図は依然として十分明らかにされていない」と指摘した。

2024年4月にはバイデン大統領が訪日し、日米共同声明において、中国が不透明な形で、かつ意義ある対話もなく核戦力の増強を加速しており、これが世界および地域の安定にとっての懸念事項であると言及した。2024年12月には日本外務省が、米国が核兵器を含む戦力をもって日本の防衛に関与する「拡大抑止」について、日米両政府が初めて関連指針を策定したと発表した。同指針は拡大抑止に関する日米協議と関連手続きの強化を目的とし、「地域の安定促進と紛争抑止のため、拡大抑止を強化する」と表明した。

第二の悪化は、2025年11月に高市早苗首相が国会での質疑において「台湾有事」が日本の安全保障法制における「存立危機事態」に該当しうるとの見解を示したことによる。中共はこれに乗じて激しく反発し、二国間関係はかつてないほど悪化した。日本の「2026年外交青書」では、2025年版で使用していた「最も重要な二国間関係の一つ」という対中表現が正式に削除され、「重要な隣国」へと格下げされた。

同じ時期、高市政権は日本の「政治・軍事大国化」を全力で推進し、多くの具体的行動に踏み出した。その頂点に位置するのが改憲であり、日本を「戦える国」とすることを目指している。核政策の分野では、最も重要な動向として「非核三原則」の改訂がある。「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」という三原則は、1967年に佐藤栄作首相が衆議院予算委員会の答弁で初めて提唱し、後に日本の国是となったものだ。

しかしこれと米軍の核配備戦術の間には矛盾がある。米軍は核兵器の配備に際して「NCND(肯定も否定もしない)」という方針を採り、どの装備に核兵器が搭載されているかを公表せず、事前に日本と協議することも想定していない。

「持ち込ませず」の柔軟な運用により、非核三原則は実質上「2.5原則」と化してきた。日本政府内部ではかねてから三原則の改訂論が浮上しており、「持ち込ませず」の文言を削除し、米軍が日本に核兵器を持ち込めるようにするという議論が行われてきた。

もっとも、米国が日本に核兵器を再配備すれば、中共への圧力は甚大なものとなる。現行のアジア太平洋の軍事バランスが変化し、中共の戦略的立場が著しく悪化するからだ。

現在の議論の流れを見ると、日本は非核三原則の「持たず」「作らず」の二原則は堅持する方向だ。しかし中共と北朝鮮の核の脅威に直面する中、日本が「持ち込ませず」の原則を改訂し、米国の戦術核兵器の国内配備を模索して核抑止力を明示的に示そうとする可能性は高い。

「持ち込ませず」を守ったままでは、核兵器を搭載した米軍艦艇等の日本寄港を認められなくなり、「突発事態」発生時に米国の核抑止力が弱体化するからだ。

したがって、日本が核政策を改訂する核心的な動因は中共にある。中共の核軍拡、台湾海峡における核戦争リスク、中共による北朝鮮の核兵器・ミサイル開発支援、これらすべてが、日本に非核三原則の改訂と米国の核の傘へのさらなる依存を迫っている。

付言するならば、仮に日本が「非核三原則」を改訂したとしても、日本に持ち込まれた核兵器の管理権は依然として米国の手にある。これは日本が独自に核を保有することとは全く異なる。今年4月27日から5月22日にかけて開催された核不拡散条約(NPT)第11回再検討会議で、中共は「日本の核保有問題に関する中国側作業文書」を発表し、「日本の核保有問題はすでに潜在的脅威ではなく現実の脅威となっており、第二次世界大戦後の国際秩序と核不拡散体制に対して深刻な挑戦をもたらしている」と非難したが、これは事実に反する。

現実問題として、日本が独自に核を保有する可能性はない。そうした選択が日本の政策決定者の視野に入り得るのは、以下の極限状況に限られる。

(1)米国が核の傘を撤廃するか、核の傘が機能しなくなった場合

(2)米国が日本への影響力を失った場合

(3)中共の核の脅威が眼前に迫った場合——だ。

日本が独自に核を保有することを望む者は誰もいない。この問題については、中共こそ自ら招いた結果に苦しまないよう自制すべきだ。

大紀元初出

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
王赫