アメリカ政府は、安全上の脆弱性があり、中国共産党のハッカーがネットワーク攻撃に利用する恐れがあるとして、中国製のTP-Linkルーターについて調査を進めており、その販売禁止を検討している。
2021年に、12年連続で世界シェアNo.1を達成したTP-Linkは、アメリカの家庭や中小企業のルーターマーケットで約65%のシェアを占めている。また、アメリカ国防省やその他の連邦政府機関にもネットワーク通信サービスを提供している。このため、販売禁止措置が実施される場合、広範な市場への影響が懸念されている。
日本市場における成長
日本においてもTP-Linkは大きなシェアを占めている。
2016年に日本市場へ本格参入した同社は、2月からAmazonや楽天などのオンラインストアで製品販売を開始した。コロナによるパンデミックでテレワークやオンライン学習の増加を背景に、TP-Linkは顕著な成長を遂げ、翌年7月にはTP-LinkはITサービス企業Wizと業務提携を開始。
家電量販店・オンラインショップの実売データを集計する「BCNランキング」によると、2021年上半期“1万円以内”かつ“Wi-Fi 6対応”の無線LANルーターでは首位を獲得し、市場シェア30.1%を記録。無線LANルーター市場全体でも販売台数シェアで2位を記録し、着々とシェアを伸ばしてきた。
現在、TPLinkは Wi-Fi 6E対応ルーターで48.9%のシェアを獲得。Wi-Fi 7ルーターで69.1%のシェアを占めている。
品質とサポートに関する声
その一方で一部のユーザーからは、接続が途切れやすい、ファームウェアの更新が遅い、サポート対応が不十分などのTP-Link製ルーターの接続の安定性やサポート体制に関する不満の声が上がっていた。
また、TP-Linkの一部のシリーズのルーターに搭載される追加セキュリティ機能「HomeShield」に関連する深刻な脆弱性が指摘されている。「HomeShield」を有効化していなくても悪用される可能性があり、影響を受けるモデルにはArcher、Deco、Tapoシリーズなどがある。
懸念事項と各国の対応
TP-Linkは、アメリカの家庭や中小企業のルーターマーケットでも約65%のシェアを占めており、アメリカ国防省や他の連邦政府機関にもネットワーク通信サービスを提供している。新型コロナウイルス感染症のパンデミック中、人々が自宅で働く状況で、TP-Linkはアメリカの家庭と中小企業のルーターマーケットシェアを2019年の約20%から今年の約65%に引き上げた。
価格と独占の疑い
これほど急速なシェアを広げた要因として、TP-Linkのルーターの価格の安さが考えられる。
TP-Link製品は競合他社製品よりも3割〜5割低い価格で提供されており、米司法省はこの価格差が連邦法に違反しているかどうかを調査している。同社は反独占法を遵守していると強調している。日本では、TP-LinkのWi-Fi 6対応ルーター(Archer AX3000)は約7千〜8500円が、競合他社の同等性能製品は約1万5千〜2万円で倍以上となっている。
米司法省はこれらの価格差が連邦法に違反していないかどうかを調査している。TP-Linkの広報担当者は、同社はコストを下回る価格で製品を販売していないとし、アメリカの法律、特に反独占法を遵守していることを強調した。
またカマロ・ドラゴンというハッキンググループがTP-Linkルーターの脆弱性を利用し、欧州の外交機関を攻撃したと報告されるなど、セキュリティリスクも懸念されている。
データ送信の問題
TP-Linkルーターがユーザーの許可を得ずに第三者(特にAvira)にデータを送信していると指摘されており、これはEU一般データ保護規則(GDPR)に抵触する可能性があるとの報告がある。
日本では、JPCERT/CCがTP-Linkの無線LANルーター「Archer AX3000」からの不審な通信を観測し、注意喚起を行っている。2024年4月から6月にかけて、同センターは「TSUBAMEレポート Overflow」を公開し、その中で「Archer AX3000」からのTelnetポート宛てのパケットが多く観測されたと報告している。
国家情報法
中国共産党は国家情報法を定め、全ての組織・国民に対し、国家情報活動の協力を義務付けている。中国企業であるTP-Linkにも国家の情報活動への協力が義務付けられており、企業や個人情報の漏洩などが懸念されている。元警視庁刑事の坂東忠信氏は、中国を背景にした企業によって「日本人の個人情報が中国当局に渡る可能性を否定できない」と指摘している。
各国の動き
TP-Link製ルーターについて情報漏えいへの懸念などから使用禁止など、以下のような措置が取られている。
台湾: 中国製技術製品への制限の一環として、政府および教育機関でTP-Link製ルーターの使用を禁止。
インド: セキュリティリスクを理由にTP-Link製ルーターの使用に警告。
米国:商務省、国防省、司法省の調査員がTP-Linkに対する調査を開始し、来年には米国でのTP-Linkルーターの販売が禁止される可能性がある。
日本政府がTP-Link製品に対して公式な調査や規制を行っているとの情報は確認されていない。しかし、警視庁は2023年3月28日に「家庭用ルーターの不正利用に関する注意喚起」を発表し、ユーザーに対してセキュリティ対策の強化を呼びかけている。
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