【寄稿】中朝露に急接近するイラン 核保有国同士の不気味な関係

2023/10/06
更新: 2023/10/06

世界大戦の恐怖

中国、北朝鮮、ロシア、ばかりが日本では取り上げられるが、実は世界が注目している国がもう一つある。イランである。イランは核兵器開発を推進しており、しかも中国、ロシア、北朝鮮と仲良しなのだ。

もし、4か国が連携して日米韓欧イスラエルと対立して戦争になれば、第3次世界大戦であり、核戦争になる公算が極めて高い。しかもイランはホルムズ海峡を封鎖する実力を持っており、サウジアラビアの石油の大半はここを通過する。イランは世界経済の大動脈を握っているのだ。

イラン大統領の訪中

2月16日にイランのライシ大統領が北京で習近平主席と会談した。合意内容は核合意の順守と制裁の解除である。つまりイランは核兵器の開発は行わないから米国は制裁を解除せよという主張である。

ところが、その3日後にIAEA(国際原子力機関)の査察官がイランのウラン濃縮が84%まで進んでいると暴露した。原発などではこれほどの高濃縮ウランは必要としない。ウラン濃縮は90%に至れば核爆弾が可能となるから、イランが核兵器を開発していることは明らかであり核合意違反である。核兵器の開発は行わないという習主席との合意は全くのデタラメだったのだ。

習主席はイランに一杯食わされたと激怒するかと思いきや、そんな事はどこ吹く風で、3月10日には、北京でイランとサウジアラビアの国交の正常化が合意された。サウジアラビアはイランの核武装を断固阻止したいわけだから、中国はイランの核兵器開発を許さないとサウジアラビアに保証したのであろう。

サウジアラビアにしてみれば、米国が当てにならない以上、中国に頼るしかないと米国に示す狙いがあったろう。

米機密漏洩の衝撃

3月15日から19日までアラビア海で中国、ロシア、イランの合同海上演習が行われた。イランはウクライナ戦線においてロシアに武器を供与している。中国もロシア寄りの姿勢を崩さない。しかもアラビア海はシーレーンすなわち原油輸送路である。この合同演習は第3次世界大戦を意識しているとしか考えられない。

ところが4月に奇怪な事件が世界を震撼させた。米軍の機密文書がSNSで拡散したのである。米空軍州兵が機密漏洩で逮捕されたが、拡散した機密文書は衆目の的となり米軍の戦略上、大打撃となった。

公開されてしまった機密文書の中に「イスラエルが米国に対イラン共同作戦を要請」したと見られる情報が含まれていた。この時期にイスラエルがイランを攻撃するとすれば標的はただ一つ、核関連施設しかない。イスラエルは、もはや核施設を破壊する以外にイランの核開発を阻止する手段はないと考えているのだ。

イスラエルの論理

イスラエルは1981年にイラクの、2007年にシリアの、それぞれ核関連施設を空爆して破壊している。イスラエルは核兵器保有国として認定されてはいないが、核兵器を隠し持っていると国際的に見なされている。つまり事実上、核武装している。

しかし、だからと言ってイスラエルを敵視する周辺国の核開発を認めることは絶対にしない。核抑止というのは、人命尊重や人権重視などの価値観を共有する国々の間にしか成立しないことを認識しているからである。

つまりイスラエルを地上から抹殺することがアラブの大義と確信している国は、核報復を恐れず核攻撃を決行する危険性が十分ある。この点、日本では、北朝鮮の核武装を容認して日本も核武装すればよいという一部の核武装論者の主張は、浅薄な核抑止論に基づいていると言わざるを得ない。違った価値観を持つ独裁者に核抑止は通用しないのだ。

イランは、過去にイスラエルを地上から抹殺すると公言しており、また核兵器の完成の最終段階に至っているのも紛れもない事実である。ならばイスラエルの採るべき方策はただ一つ、イランの核施設の破壊しかない。

背景にある米中対立

イスラエルのネタニヤフ政権は1月に司法改革案を発表した。行政府に対する司法府の介入を制限する趣旨である。行政府の暴走を止められなくなる危険性があることから野党は反対し、それに同調する反政府デモが連日繰り返された。

問題は、この反政府運動に空軍のパイロットが同調していることである。3月7日にイスラエルの空軍将校20人が、参謀総長に「司法改革が実現した場合、多数の現役、予備役が勤務を拒否する恐れがある」旨を報告した。

いうまでもなくイランの核施設を破壊するには、イラクやシリアの場合と同様に空爆が有効である。その主役であるパイロットが勤務を拒否すると言い出したのである。ネタニヤフ政権は、この背後にイランの情報工作があると見ている。

6月にシンガポールで開かれたアジア安保会議(シャングリラ対話)で、米国は中国と国防相会談を求めたが、中国はこれを拒否した。7月には中露を中心とする安全保障機構、上海協力機構にイランが正式に加盟し、8月にはBRICS首脳会議で、イラン、サウジアラビアなどの新規加盟が決定した。イランのみならずサウジまでもが中露寄りの姿勢を見せ始めたのである。

米中対立を基軸に世界大戦の構図が見え始めているのは明らかだ。そこでバイデン大統領は習主席との会談を模索しているのだが、習主席は9月のG20サミットも国連総会も欠席し、事実上、バイデン氏との会談を拒否している。

バイデン政権の蹉跌

イスラエルがイランを空爆するとなれば、サウジアラビア上空をイスラエル空軍機が通過しなくてはならず、サウジの許可を必要とする。イランがサウジとの国交を正常化させた狙いは、この許可を出さないようにサウジに働きかける狙いがある。

一方、イスラエルはこの許可が欲しいから、やはりサウジとの国交を正常化したい。バイデン大統領は、その仲介をしようと、9月20日、ニューヨークでネタニヤフ首相と会談した。

サウジアラビアは、もしイランが核武装するなら、サウジも核武装すると主張している。そうなれば核拡散防止体制(NPT)の崩壊である。米国としては、NPTを維持するためにはイランの核開発を止めるしかない。

イランを米国との交渉に前向きにさせるには、脅しが必要になる。つまりサウジとイスラエルを仲介して、イスラエルのイラン空爆の可能性を示唆すれば、イランは米国に交渉を求めて来るという読みである。

だが、この読みが当たるかどうか、分からない。サウジはイランの核開発は阻止したいから、イスラエル軍の通過を許可する可能性がある。イスラエルが単独でも空爆に踏み切った場合、イランはホルムズ海峡を封鎖し、中露はイランを支持し米欧日はイスラエルを支持し、一挙に世界大戦に突入する危険性は十分にあるのだ。

(了)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
軍事ジャーナリスト。大学卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、11年にわたり情報通信関係の将校として勤務。著作に「領土の常識」(角川新書)、「2023年 台湾封鎖」(宝島社、共著)など。 「鍛冶俊樹の公式ブログ(https://ameblo.jp/karasu0429/)」で情報発信も行う。