「漢方薬は儲かる。どんどん処方せよ」 内部動画流出で暴露された、中国医療の拝金主義

2023/07/14
更新: 2023/07/14

このごろ、河南省洛陽市のとある病院の会議とみられる内部映像の一部がネット上に流出し、物議を醸している。

動画投稿者によると、この会議で病院の院長は「漢方薬を発展させよ!」との命令を出した。漢方薬をどんどん処方して儲けろ、ということらしい。

中国の病院は「金儲けのために存在する」

動画から音声を完全に聞き取ることは困難だが、動画に付けられた字幕と併せると、およそ以下のようなことを言っている。

「西薬(西洋医学の薬)の販売価格は決まっている。だが中薬(漢方薬)は当方で好きなように価格を決めることができる」

「漢方薬1包で60~70元(約1100円~1350円)になる。1人の患者に平均7~10包処方すれば500元の儲けだ。それを1日に100包以上出せば、1ヵ月で最低でも千包。そうだ、10万元(約193万円)以上稼げるぞ!」

こうした中国の病院の拝金主義について、中国問題専門家の姜光宇氏はこう指摘する。

「幸いなことに(西洋薬と違って)漢方薬は過剰摂取しても死ぬことはない。しかし、1つだけ覚えておいていただきたいことがある。それは中国の病院は患者を治療するためではなく、金儲けのために存在していることだ」

露骨過ぎる利益追求に「医徳は崩壊した」

このように「露骨過ぎるほどの利益追求」をする病院は、ほかにも多数ある。

昨年8月、四川省泸州市にある「泸州富康医院」が、診療停止と内部の整理を命じられたと中国メディア「SOHU新聞」が報じた。きっかけとなったのは、同院のプレゼンテーション資料の一部がネットに流出し、世論の反発を買ったからである。

流出した「2022年の下半期の営業方針」と題されたPPTの「目録(目次)」には、「いかにして患者を(病院に)長居させるか」「どうやったら患者が並んでまで、我々にお金を持ってくるようにさせられるか」といった内容があった。つまりここも「露骨な金儲け主義」の病院だったのだ。

 

「泸州富康医院」の場合は、PPT内容がネットに流出し、世論の注目を集めたことで関連部門が取り締まりに乗り出したと言える。もちろん隠蔽されたままで、世論の反発がなければ、当局があえて取り締まることもない。

「医徳」という言葉を、平易な日本語でいえば「医は仁術」であろうか。

そこには拝金主義とは真逆の、高潔なヒューマニズムがなければならない。病気で苦しむ患者や重傷者を救うため、全力を傾注する。そうした医療の使命を「医徳」と呼んでもよいが、そこには曇りのない人間性とそれを実現し得る社会の仕組みが求められる。

もちろん病院には「適切な経営」が不可欠である。しかしそれは、決して拝金主義であってはならない。まして、無駄な薬を処方して収益を上げる詐欺商法が許されないのは当然である。

世論は当然そう考えるのだが、実際の中国の病院には、露骨すぎるほどの拝金主義があたかも悪質なウイルスのように浸透している。そのため、本来あるべき「医徳」は崩壊してしまったと言わざるを得ない。

癌ではないのに抗ガン治療で「髪の毛が抜けた女性」

先述の河南省洛陽市の病院もそうだが、そもそも無病の人に何らかの病名を付けて「治療」したり、病院が過剰に薬を処方する。あるいは、それほどひどい病状でなくても患者に手術を勧めるケースがあまりにも多いのだ。

もちろん治療費や入院費は、全て実費で前払いしなければならない。それらは患者家族にとって、生活が吹き飛ぶほどの高額である。ただし、中国共産党の高官であれば、全額国費によって最高レベルの医療が受けられる。庶民の命は、そもそも彼らの思考の中にないからである。

これは現代中国における、一種の「社会の病根」になっているといってよい。SNS上には、そのような「医療被害を受けた」という患者の投稿があふれている。

なかには「癌ではないのに、抗ガン治療を受けさせられた」と主張して、病院前で横断幕を掲げて抗議する女性もいる。女性はありもしない病気の治療のために、髪の毛がほとんど抜け落ちてしまった。

「SOHU(捜狐)」などの中国メディアも、過去に「健常者に病名つけて、不必要な治療する悪徳病院」への潜入取材を敢行している。(関連動画はこちら

管理当局も「そのようなことは許されない。断固取り締まる」と言ってはいる。しかし、中国の医療の背後にはあまりにも巨大な利権が絡んでいるため、同様の事例は後を絶たず、根絶には程遠いのが現状である。

中国メディアによる悪質病院への潜入取材ドキュメンタリー。(動画よりスクリーンショッ)

「一番高くつく場所」は、どこ?

以下は、本記事の最後につける笑い話である。

いま中国のSNS上に、興味深い内容のショート動画が多くみられる。全く同じストーリーを、いろいろな人が演じていることでも話題になっている。

基本のストーリーは、こうである。いかにも「金持ちそうな女性」がタクシーに乗り込む。女性は、運転手さんにこう告げた。「この辺りで、一番高くつく場所へ行ってちょうだい。私、とにかくお金を使いたいのよ!」。

タクシーの後部座席に乗った金持ち女性は「さて、どこの高級ブティックか、五つ星ホテルへ連れていってくれるのか」と期待していた。ところが、しばらくしてタクシーが止まったのは「大きな病院の前」だった。病院前でおろされた女性の顔には「困惑」しか浮かばなかったが、視聴者はこのオチに大いに納得するのである。

確かに、一夜にして家庭を崩壊させるほどの「高い出費を求められる場所は?」と言えば、今の中国では病院ぐらいしかない。この動画が興味深いのは、庶民を代表するタクシーの運転手さんが、病院前へ車をつけて「ここだよ」と示したことだ。

中国の「医徳」が崩壊していることは、すでに庶民の誰もが知るところである。

中医(中国の伝統医学、漢方医)は、確かに西洋医学では治療できない難病を、人体に大きな負担をかけずに治すことができる優れた医療である。

それだけに中医は、西洋医学で第一とされる科学的エビデンスよりも、人体を「宇宙」と見なし、その大いなる宇宙の理に則した適切な処方を行うために、高い倫理観と膨大な経験に基づく謙虚な姿勢、および医療従事者の清廉さが不可欠なのだ。

この道を逸脱したとき、中医つまり漢方医学は、雑草の根を高価な生薬だと詐称するように、西洋医学にも増して「金儲け主義」に走りやすい。

つまり、記事タイトルにもある「漢方薬は儲かる。どんどん処方せよ」は、そのような漢方の実像を投影したものであると考えられる。

驚くのは、それを内部会議で命じたのがなんと病院長であるということだ。この病院自体が「重篤な患者」と言わざるを得ない。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。