日本国際貿易促進協会は、7月3日から6日まで中国訪問団を派遣する。団長は同会長の河野洋平元衆院議長が務め、玉城デニー沖縄県知事も随行する。中国側による「琉球」への言及が増えるなか、米国の研究者は「中国側は『日本に内政干渉するルートがあるぞ』とサインを送っているのではないか」と分析する。
協会に加盟する日本企業も参加する見通し。北京での習近平指導部メンバーとの面会は調整中で、沖縄県の姉妹都市である福建省をも訪問するという。訪中は2019年4月以来で、日中平和友好条約締結から45周年という節目に際し、経済交流を通じた関係安定化につなげることを狙う。
おすすめ☞ 習近平氏の「琉球」発言…沖縄めぐる世論戦の号砲か
いっぽう、習近平主席の「福建と琉球」をめぐる異例の言及以降、党機関紙の「人民日報」からSNSのインフルエンサーに至るまで、沖縄の日本帰属を否定する情報発信が強まり、「情報戦」の様相を呈している。
中国共産党は沖縄に何を働きかけるのか。エポックタイムズは中国政策に詳しい米シンクタンク、グローバル台湾研究所代表でジェームズタウン財団のシニアフェロー、ラッセル・シャオ代表に話を聞いた。
シャオ氏は、玉城氏の訪中前の習近平氏の琉球発言は「偶然ではない可能性が高い」としつつ、日本が台湾への協力姿勢を続けるならば「中国もまた日本の内政に干渉する手段を持っている、というシグナルを送っているのかもしれない」と述べた。
また訪中計画自体、中国共産党とのつながりが強い組織に支援されているならば問題だと指摘する。
日本国際貿易促進協会は日中国交正常化前の1956年に誕生し、対中投資や政治交流を推進してきた。中国側からは「日中友好7団体」のひとつとみなされている。今月5日には呉江浩駐日中国大使を招き、G7が提唱する「(中国からの)脱リスクは扇動」であり、対中投資を呼びかける趣旨の講演会を開催した。
「訪中の手配から時期に至るまで政治的な裏の意図があり、それが何であるか予想に難しくない」。シャオ氏はこうした組織による対日影響工作に警戒感を示した。
香港大学アジア太平洋研究センターの研究員、林泉忠氏もこのタイミングでの習近平氏の「琉球発言」は偶然でないとの見方を示した。同氏はBBCの取材に対し、日本と米国が密接な防衛関係を維持するなか、中国が沖縄問題を提起することによって、広い範囲での地政学的問題を引き起こす恐れがあると指摘した。
地域外交と認知戦
地方自治体による「地域外交」が、中国傾斜の強い玉城県政によって外交場面に影響力を持つ可能性もある。沖縄県は、国を通さず他国の地方同士で信頼関係を構築するため、地域外交室を新設した。
玉城氏は訪中にあたり「相互信頼を高め、互恵関係を維持したいとの希望を表明したい」と知事記者会見で述べた。
こうした沖縄県と霞が関のゆらぎに、どのように対処できるのか。シャオ氏は、台湾の経験から得られるものは多いと考えている。
「沖縄と台湾の間には人々の繋がりが広範囲に及んでいる。これらの繋がりを深め、沖縄と日本政府との間の不信感を減らすために、一般に国防力強化の努力について伝え、さらなる行動を起こすべきだろう。少なくとも、沖縄と台湾間で中国共産党の悪質な影響力工作についての情報共有がもっと行われるべきだ。そうすることで、公人が中国共産党の悪質な活動とその手法をより認識することができる」
人の考えを中国共産党のシナリオ通りに変えていくーー。こうした認知戦は総統選を半年後に控える台湾で、さかんに仕掛けられている。
6月に確認された認知戦の実例としては、「米国から戦闘機を通常価格の5倍で買わされた」「台湾の米国民は退避準備をしている」「蔡英文総統は急進的な独立を重点政策に据え、武器購入や小国外交を行っている」などがある。台湾の公的なファクトチェック部門は事実を示し、これらの言説がフェイクニュースであると指摘した。
世論工作に詳しい台北大学犯罪学研究所の沈伯洋助教授は、以前のドイチェ・ベレ(DW)のインタビューで、中国共産党は認知戦を仕掛けることで混乱を招き、台湾当局や日米に対する猜疑心を生じさせ、最後にチベットのように制度的統合を目論むという。
沈伯洋氏は別のメディア取材で、中国の認知戦への対抗策として台湾も同様の認知戦に挑むことも考えられるが、道徳的な問題(編集注:批判や嘘に労力を割くことへの問題)や予算の制約から実施は難しいという。そのため、台湾は中国からの通信を遮断する以外に対抗策がないとみている。
台湾の中には中国本土寄りの人々もおり、上記のような真偽不明の情報を拡散して台湾内での世論形成に影響を与えている。沈伯洋氏は、中国が何を行っているかを多くの人々に理解してもらうため、台湾各地で対面式の講習会を開き「偽情報対策教育」に尽力している。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。