…ある日、どの国でも「自由主義」を国教とし、国民のすべてが自分の思う通りにできることが不可侵の権利であり…子どもは公共財産で、親は行政が規定する指導要領しか教えられなくなる。フェミニズム、性の解放、同性愛、これらの知識が伝統的な家庭概念に反すると教える教師は「差別主義」と糾弾される。すべての女性は男性と同じ仕事をして、専業主婦は許されない…
米国の保守的な哲学者たちは、行き過ぎた「自由主義」が拡大すれば、家族の在り方を崩壊させ、子どもの成長には拭えきれない影響を及ぼすと警鐘を鳴らしている。
2018年11月以来、ヘリテージ財団(ワシントン拠点)は、社会主義の弊害について一連の講習会を主催してきた。2019年2月11日、カリフォルニア州のパサデナ・シティ・カレッジ(Pasadena City College)の哲学科教授エドワード・フェザー(Edward Feser)教授は、講演の中で、極端な個人主義と自由主義は、伝統的家族の価値を崩壊させ、社会主義革命に繋がると警告した。
教授の主張は、米国社会を分析したものであり、日本社会の現象に必ずしも全ての条件や環境は合致しないが、人種や文化、イデオロギーの混合する国の問題の先例として、「一聴」の価値がある。
どの国にもある伝統の家族の形が崩れつつある
異なる文化的背景はあっても、家族の伝統的な形はどの国も類似している。結婚を経て子どもを授かる血縁の組織は、基本的な社会の一単位であり、夫と妻が互いに責務を負って支え合い、財産を共有して子どもの教育を分担する。
教授は、「子どもを持つ人なら良く知っているように」と前置きしたうえで、子育てには一定の財産が必要であり、さらに親は子どもに対して、智慧と道徳など精神性を向上させるよう教育しなければならないと説く。しかし、固有の財産を認めず、子どもを幼少期に親元から離れさせ公的組織が指導役を担う社会主義は、この二面で反対のことを提唱している。
教授は、生物的に人間の子どもには出産から世話まで長い時間を要することから、自然条件で妻は「家庭を作る人(HomeMaker)に向いている。子どもの成長のため、外出して稼ぐ「稼ぎ手(Beardwinner)」としての役割は夫が適していると主張する。
この自然に形成された分業は、人種、文化にまたがり何千年も継承され、人間の本性と合致するものという。生物学、心理学、社会学の研究においても男女の客観的存在の違いを認めている。
男女の違いは区別であり、優劣ではない
「男女の違いは区別であり、優劣の話ではない」「夫と妻は互いに補完する関係にあり、競争相手ではない」と教授は語る。
夫は自分の欲求を満たすためではなく、家族を養うために稼ぎ、家族の世話をする妻は献身的である。こうした親の姿勢を子どもは見習い、家族全員が社会の一単位である家族を築く。しかし、教授によれば、近年は「人生の主役は自分」との個人の優位性が重視され、家族の価値は蔑ろになっていると見ている。
教授は、社会主義制度の導入を宣言しなかった国でさえ、そのイデオロギーは浸透しており、伝統的な家族の形を破綻させていると述べた。
同氏は共産主義国の発展方向から、いくつかの傾向を指摘する。1つ目は、個人の利益を最大限に追求すること。これは、極端な思想を生んだという。
1960年代、ジョン・ミレー(John Miller)の提唱した自由社会主義は西欧で拡大し、女性解放運動を巻き起こした。一種の社会主義革命であり、否定的な見方が主流だった離婚や堕胎、同性婚や性の不一致(トランスジェンダー)が、合法権利を獲得するために活動を始めた。
さらに、どんな種類の仕事にも男女同権、同数の雇用が唱えられた。この実現は難しく、多くの雇用主に損害をもたらした。同性愛者の結婚許可や同性愛者のための福祉支援を行うことに異議を呈する人は、指弾の対象になる。
夫婦、ひとり親 支持政党は異なる傾向にある
2つ目は、夫婦のあり方が変容しており、子どもを独りで育てるひとり親は、行政支援に依存する傾向が強まる。必然的に福祉政策への関心が高くなる。
2018年11月の中間選挙の調査では、この「結婚格差(Marriage Gap)により投票する党に差があり、既婚男性と女性は保守派を選び、未婚の男性と女性、ひとり親は革新派に投票する傾向が見られたという。
教授は、人間がどこかのグループに対して帰属する「社会的な生き物(Social Animal)」である以上、家族に属していなければ別の新しいグループを見つける。「自由主義」の名のもとに家族を失った人々は、社会主義派の票田となると分析する。
また教授は、性の解放について、享楽の追及により規律や原則に従わず、行動の責任も放棄しており、欲望の奴隷に陥ると批判した。
「社会主義が完全に実現すれば、家族は消滅する」と教授は語る。家族が解体したのちの個人から見て、政府は「大家族の家長」であり、個人のあり方を指導する。
伝統ある私立学校の発展を抑制し、全国一律の教育基準を策定し、カリキュラムを管理し、徐々に子どもたちの考えに「自由主義」の名の元に社会主義のイデオロギーを浸透させ、伝統価値を放棄させる。これにより子どもたちは「社会的な生き物」から「社会主義の動物」となるという。
教授は、旧ソ連、中国共産党、ベネズエラなどをあげて、社会主義の実践は国民と関係国に甚大な被害をもたらすという前例があるにもかかわらず、西側諸国に社会主義への一定の支持層があることを危惧する。この歴史的事例をあげて、一部の保守知識層は、警鐘を鳴らしている。
(EMEL AKAN/翻訳編集・佐渡道世)
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