米民主党の重鎮議員の補佐官を20年務めた中国系米国人が、中国政府のスパイであったことが最近、米メディアにより明らかになった。議員は5年前、FBIから事務所内の中国諜報工作について警告を受けて、補佐官を退職させている。
中国系米国人ラッセル・ロウ氏は5年前まで、ダイアン・ファインスタイン上院議員(85、カリフォルニア州選出)のベイエリア事務所長を務めていた。アジア系米国人コミュニティへの連絡役を担い、時には議員代理人として中国領事館関係の仕事にも加わっていた。
ファインスタイン議員は2013年に、FBIから中国政府の諜報工作の警告を受けて、ロウ氏を退職させていたことを、8月5日の声明で明かした。今頃になってこの退職を発表したのは、米政治ネットメディアが7月下旬、議員と中国スパイの関係を指摘したことにある。
しかし、報道によると、ファインスタイン議員は当時、上院の情報委員会委員長だったが、中国諜報機関に協力したロウ氏の起訴や逮捕に向けた動きはなく、退職金を払うなど厚遇していた。
複数の米メディアによると、中国国家安全部に協力していたスパイであるロウ氏は、ファインスタイン議員の元を去ったのち、現在は反日メッセージを米国から発信する慰安婦運動組織の中心人物として活動している。 また、在米中華系組織・世界抗日戦争史実維護連合会(GI)と連携する「社会正義教育財団」事務局長を務め、慰安婦問題を利用して日本政府を糾弾するメッセージを、教育改善の名目で地方自治体、学校機関へ刷り込ませている。
ファインスタイン議員もまた、中国視点に立った日本の第二次世界大戦中の「戦争責任の追及」に力を注いできた代表的な米議員だ。1999年には上院議会で「日本軍による迫害に関する資料公開を求める」法案を可決させた。19世紀のゴールドラッシュという歴史的背景から、サンフランシスコの人口は中華系移民が4分の1を占める。カリフォルニア州選出のファインスタイン議員は、法案の目的について「多くの州民が熱心に求めてきたもの」とメディアの取材に述べた。
中国の諜報機関は、情報委員会委員長の立場にあったファインスタイン議員に関心を抱いていたに違いない。あるいは、共産党の「浸透工作」の駒とみているのかもしれない。
中国共産党の浸透工作とは、中国の諜報機関が外国の政治家、経済人、著名人など権威者に対して、中国の政権に有利な政策を推進するよう誘導する巧妙なアプローチのことだ。
ファインスタイン議員は、中国共産党政府に対する擁護姿勢を隠すことなく露わにしてきた。ニューヨーク・タイムスによると、ファインスタイン氏は長年にわたり、中国との友好関係と貿易の促進に努めてきた。2017年の上院議会での演説では、中国の人権問題について「大幅な改善がみられる」と主張した。
また、ワシントンポストの取材では、中国が共産党政権であるにもかかわらず「単に社会主義国であり、ますます資本主義社会に近づいている」と説いた。
1992年にファインスタイン氏は米上院議員に初当選し、以後26年その席を保ち続けている。
40年来 江沢民氏との付き合い
ファインスタイン氏は中国との架け橋役となることで、自身の政治的利益を享受してきた。1979年1月、サンフランシスコ市長に就任すると、上海を訪れて、姉妹都市契約を結んだ。 次に、米国と中国を結ぶ航空便の再確立を目指し、1981年1月には、中国人乗客130人以上を乗せたボーイング747が上海ーサンフランシスコ間を飛んだ。
それからファインスタイン市長は公式に数回上海を訪問し、のちに国家主席となる江沢民・上海市長と交友を深めた。
ファインスタイン氏は90年代の訪中で、江沢民氏をはじめとする上級共産党幹部との関係を築いた。夫と共に毛沢東の旧宅訪問に招待され、外国人で初めて、毛沢東が息を引き取ったという寝室を見学したという。「非常に歴史的な瞬間だった」と、その感激を当時、ロサンゼルス(LA)タイムズに語った。
毛沢東は中国を共産主義国家へと導いた張本人であり、大躍進や文化大革命などの政策で数千万人の中国人が餓死、病死、虐殺、迫害などで非業の死を遂げた。
ファインスタイン議員の夫は中国で莫大な投資
90年代のファインスタイン氏と中国共産党との緊密な関係は、彼女だけでなく、夫で投資家のリチャード・ブラム氏も受益した。 1997年のLAタイムズの報道によると、ブラム氏は中国では著名な投資家になっていたという。
ブラム氏は妻の訪中にたびたび同行し、共産党幹部や地方高官と接触する機会を得た。1994年には1.5億ドルの投資計画があり、1996年には2.3億ドルで鉄鋼業の国有企業に投資している。 ブラム氏はまた、世界銀行の1部門である国際金融会社(International Finance Corp.)を通じて、中国の豆乳と飴の大手生産業者に1000万ドルを投資した。
中国WHO加盟に奔走
互いに上海とサンフランシスコを往来するファインスタイン氏と江沢民氏との良好な関係は、民主党ビル・クリントン政権(1993~2001)時代に、中国を世界貿易機構(WTO)に加盟させるための大きな助けになっていた。
実際、当時の米国務省エリザベス・ニューマン報道官は「ファインスタイン議員は、この重要な貿易協定の道を開く上で重要な役割を果たした」と述べている。
江沢民政権と蜜月と思われたクリントン政権時代だが、1999年5月コソボ紛争末期にセルビアのベオグラードにある中国大使館を米軍爆撃機が誤爆したことで、米中関係は一時悪化する。
ファインスタイン議員は、江沢民氏との個人的な付き合いから、米中関係の改善に奔走した。その手腕は、クリントン大統領政権からも一目置かれる存在となった。 同年8月、米政府はファインスタイン議員を中国に派遣し、大統領の親書を江沢民主席に大連で手渡して、WTO加盟交渉の席につくよう説得した。
同年11月、マーキュリー紙の取材に答えたファインスタイン議員は、「彼(江沢民)は私の話に耳を傾けてくれたと思う。私たちは実質的なテーマを話し合った。私は、中国が(WTOに)関心を再び抱かせることに成功した」「彼は、大統領が親書を書くために時間を割いてくれたことを感謝していた」と語った。
同紙の取材のなかでファインスタイン氏は、新たな中国の貿易状況の期待のために、経済と並行して人権問題を改善するよう中国に求めることは「圧力」であり、米国年次の人権報告書では言及しないよう意見した。
有力な米上院議員の対中擁護により、中国共産党は深刻な人道犯罪や弾圧に効果的な策を講じることなく、世界市場へのアクセスに最良な貿易環境を得た、ということになる。
江沢民政権では、中国全土で気功修煉「法輪功」の弾圧が始まり、今日も続いている。中国の人権弁護士は5月、中国最高裁判所や検察庁に宛てた公開書簡のなかで、「法輪功」への弾圧は「(中国における)第二次世界大戦後の犠牲を上回り、終戦以来最大の人道被害だ」と訴えた。
トランプ現政権の経済政策顧問で、対中強硬派で知られる経済学者ピーター・ナバロ氏は、共産党政権の中国が2001年にWTOに加盟したことで、世界の製造業が中国により支配的に占有され、知的財産問題など不公平な貿易慣行がまかり通ることになったと分析している。
(Trevor Loudon、Zachary Stieber、翻訳編集・佐渡道世)
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