「グローバルなんかやめようぜ、というのが私の提言だ」
長年経済分析を行なってきた森永卓郎氏は、環境破壊に出生率の低下、米中間の対立などの課題が山積するなか、グローバル化を終結させることが解決策だと指摘した。
しかし、日本国内の問題も根深い。森永康平氏は、中国共産党が日本国内の協力者を通して、長年浸透工作を行なってきたとし、日本の国土が米中間の代理戦争の場所になっていると警鐘を鳴らした。
『書いてはいけない――日本経済墜落の真相』を書き上げた森永卓郎氏と、息子の森永康平氏に話を伺った。
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記者:
東京から離れた「トカイナカ」で自給自足に近い生活をしていたと聞く。中国の老子が説く「小国寡民(しょうこくかみん:小さくて住民が少ない国)」が理想的という考えか。
森永卓郎氏:
それしか可能性はないと思っている。私自身、コロナ禍になってから3年余り、一人で社会実験を続けてきた。畑は30坪もあれば自分が食べる分は作れる。それから太陽光パネルを張れば自分が使う電気はすぐに調達できる。電気と食い物にお金がかからなければ、本当に月に10万円以下で生活を回せる。
都会でコンピューターに支配された仕事、すなわち英語でいうブルシット・ジョブ、どうでもいい仕事をするよりも、農業をやっていると、ものすごい知的な作業だとわかる。川勝知事(静岡県)は農家をバカだと思っているみたいだが、バカではない。特に自然が相手なので、全知全能を傾けても、きちんと予定通り収穫まで行く確率は高くない。
その代わりに農業は自由なのだ。どのような対策を取るのか、土作りから何を植えるか、追肥をどうするか、芽かきをどうするか、虫対策、鳥対策、動物対策をどうするか。やらなければいけないことが山積みだ。そこで知恵を使って自然と戦い続ける。それはすごく人間的な仕事であり、楽しい。だからコンピューターに言われるままの仕事、すなわちギグワークだと言いますが、スマホの指示通りに走り回るという仕事と比べたら、私はもう1,000倍ぐらい知的だと思っている。
だから再び人間らしい暮らしを取り戻すきっかけになる。今も株価は異常なバブルになっているが、山高ければ谷深しと言って、それが弾けた時にはもう奈落の底に落っこちるわけだ。そこで初めてみんなが「あれ?今まで何をやっていたのだろう」ということに気づくだろうと私は思っている。
記者:
中国共産党による浸透工作が続くなか、日本はどのような対策を取るべきか。
森永康平氏:
中国はサイレント・インベージョンを行っている。ただ現実としては、皆が言う「サイレント」などではなく、大挙して日本に入っているのだ。ここまで浸透されるということは、確実に手引きをしている協力者が日本の内部にもいるのだろう。わかりやすい構図で言うと、日本はもともとは敗戦以降、アメリカの「属国」のようになっていた。中国は日本と地理的に近いので、うまいこと日本に内側から静かに侵略してきている。私は、ある意味で日本が代理戦争の場所になっている印象を受けている。
父親はアメリカ型の株主資本主義が崩壊すると言っているが、私は崩壊することはないだろうと考える。理由としては、株主資本主義を進めた方が得する人たちがいて、仮に反対派と衝突が起きた際のことを考えると、やはり現在支配者層にいる人たちの方が有利だ。そのため、単純に株主資本主義に対して不満があるからと言って、それを崩すのはパワーバランス的にはなかなか厳しいと思う。
そこで外部の力を借りてでも現在の仕組みを破壊したいとなったときに、中国側の工作が効果を発揮するかもしれない。単純に日本国民が二分して戦うというよりも、その背景として外国勢力が入ってくるのだと私は考える。しかし、日本人の多くはそのような発想を全く持っていない。日本は独立した国であり、アメリカは同盟国に過ぎない、中国もそれほどひどいことをしてこないだろうと考えている。もう70年ほど戦争がない時代が続いたので、状況を甘く見ている。脳内がお花畑のようになっているのかな、と思う。
記者:
台湾系の半導体産業が日本に進出している。今後の経済の展望についてどのように考えるか。
森永卓郎氏:
TSMCの熊本工場も、それからRapidusも大失敗になると思っている。なぜなら、歴史的に経済産業省が口出しして補助金を付けた半導体関連のビジネスは全部失敗に終わっているのだ。例えば、ジャパンディスプレイは、戦後最大のゾンビ企業と言われている。エルピーダメモリーはあっという間に経営破綻して、アメリカの会社に買収された。TSMCは今良さげに見えているが、そこが作っているのは汎用品だ。要するに回路幅がすごく大きい、誰でも作れるものだ。汎用品の価格は半導体の需給によって大幅に上下する。
2030年くらいに電気自動車に移行すると言われてきたのが、アップルとメルセデスが撤退し、電気自動車に対する世間の評価は大きく変わっている。結局、車が機械製品からスマホみたいな電子製品になるという変化は、私は進まないと思っている。そうすると半導体が大量に余る。大量に余ると何が起こるかというと、二足三文で売られるようになる。これは今まで何度も繰り返してきた事態だ。そのため、TSMCが作るロジック半導体は非常に低い価格しかつかなくなる。
日本政府はRapidusに合計1億円以上の補助金をつけるのだが、今の日本はもう10年遅れだ。周回遅れなのに、わずか3年で世界最先端の2ナノメートルの半導体を作れるわけがない。私は何人もの半導体の専門家に聞いたのだが、皆口を揃えて「できるわけない」と言っている。従って、私はTSMCもRapidusも大失敗に終わると思う。
汎用品の半導体については、買って在庫積んでおけばいい。わざわざ日本で生産する必要などないのだ。実は半導体不足のときに日本は何をやったのかというと、古い家電製品から半導体を剥がして使っていた。TSMCの熊本工場では、誰でも作れるような汎用品を作り、アメリカのアリゾナ工場では最先端の半導体を作っている。リスクが大きくて儲からないものを日本に押し付けてきて、アメリカだけでTSMCの技術を取ろうとしているわけだ。だからそのようなものを日本で生産する必要など全くないと思うし、空前の産業政策の失敗になると見ている。
森永康平氏:
ここ30年来、世界的にボーダーレス化、グローバル化が進展し、自由貿易が一番良いという考え方が主流だった。しかし、コロナ禍による工場の稼働停止や、ウクライナ戦争における経済制裁などを経て、世界各国が本当に自由な貿易をするのはありえないということが現実のものになった。そして、同盟国同士、価値観のすり合わせができる国同士でサプライチェーンを構築する流れになった。経済安全保障が大事だという考え方が世界的に普及し、日本でも重要視されるようになった。
このような流れは歓迎すべきものだが、私は問題もあると思う。過去の歴史を振り返ると、日本は果たして対等な形で同盟国のサプライチェーンの中に存在できたのだろうか。私の父親が指摘する通り、日本は国際的なサプライチェーンの仲間に入れてもらえるが、結局はババを引かされているのではないか。コアなテクノロジーは米国や台湾が握っていて、日本でも半導体の生産はするものの、時代が過ぎたら不要になって切り捨てられる可能性もある。一見すると対等な関係を構築して、実態として日本がババを引かされる。これは昔からずっと同じ構図だ。そのため、経済安全保障の観点から半導体を含む戦略物資のサプライチェーンを限られた国の中で構築していく方針に私は賛成するが、パワーバランスなどを考えると結局日本はババを引かされるのだろうなと、懸念している。
記者:
これからは激動の時代になるだろう。日本人へのメッセージをお願いしたい。
森永卓郎氏:
現在、環境破壊と格差の拡大、そして少子化が世界的な問題になっている。日本の出生率は1.2%まで下がったが、韓国は今0.7%しかない。世界中の国がこのような境地に陥っているのだ。そこで解決策として、1980年代からずっと続いてきたグローバル資本主義の舵を逆方向に切らないといけないと私は強調したい。グローバルからローカル、そして大規模から小規模。中央集権から分権化。このようなトレンド変化を踏まえたライフスタイルや、社会を作らないといけない。
私が考えるモデルの一つに、インド建国の父と言われたマハトマ・ガンディーの言葉がある。彼は、近隣の原理というのを唱えていた。彼は自由貿易にも反対したし、地方への工場進出も反対した。それはなぜかと言えば、資本にみんなが翻弄されてしまうから。近隣の原理っていうのは何かっていうと、自分の近くの人が作ったものを食べましょう。自分の近くの人が作った服を着ましょう。自分の近くの人が建てたお家に住みましょう。そのような小さな単位での経済が循環するクラスターを無数に作っていけば、ひどい収奪とか大きな格差というのは絶対なくなるはずだ。だから、「グローバルなんかやめようぜ」というのが私の提言です。
記者:
ありがとうございました。
(完)
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