【プレミアム報道】米EV推進の背景に、農村から富裕層への富の移動「これは一種の階級闘争だ」

2024/04/08
更新: 2024/04/08

ジョー・バイデン大統領の新しいEV電気自動車)の義務化は、報告によると、アメリカの農村部の共和党地域から都市部の民主党地域、そしてそこに住む裕福な民主党支持者への大規模な富の移転になる可能性が高いという。

3月20日、米国環境保護庁(EPA)は、2027年から自動車業界に適用される排ガス規制を最終決定した。

これらの規制は史上最も厳しいものであり、自動車メーカーに対し、2027年までに新車販売台数の3分の1、2032年までには3分の2以上をプラグイン式電気自動車(EV)にすることを事実上強制するものである。

これは、2023年に新車市場の約8%だった現在のEV販売台数から大幅に増加することを意味するのだ。

環境活動家たちはEPAの動きを歓迎し、EDF(Environmental Defense Fund/環境防衛基金)は「アメリカの偉業を祝う日だ」と呼んだ。

しかし批評家たちは、EVを望まず、使えない、または買う余裕がない多くの米国民に対して、この措置は特に厳しいもので、罰則的なものだという。自動車メーカーがバイデン大統領のEVへの移行計画に同調すれば、ガソリン車とトラックの価格は、需要が供給を上回るにつれて、上昇する可能性が高い。

「これは産業政策ではない」と著者でエネルギーアナリストのロバート・ブライス氏はエポックタイムズに語った。「実際のところ、低・中所得層の消費者が新車を買えなくなるような一種の階級闘争なのだ」

そして多くの従来の自動車購入者が苦労する一方で、連邦政府の補助金とインセンティブはEV購入者の利益のために流れ続けているのである。

テキサス公共政策財団の2023年10月の報告書によると、米国で販売される平均的なEVの価格のうち、最大4万8千ドル(約728万8千円)が所有者ではなく、納税者と電力消費者に10年間にわたって分散される「社会化されたコスト」の形で支払われている。

これらの「社会化されたコスト」は、税金、政府補助金、ガソリン車メーカーがEVメーカーに支払う燃費クレジット(fuel economy credits )、そして消費者が電力網の拡張と新しい充電ステーションの設置に必要な資本コストを吸収することによる電気料金の値上げという形で発生する。

この報告書は、「2021年モデルの平均的なEVは、EVメーカーと所有者に与えられた220億ドル(約3兆3298億円)の政府の優遇措置がなければ、10年間で4万8698ドル多くの費用がかかるだろう」と述べている。

これらの費用は、ガソリン車が少なく生産されることでガソリン車オーナーが支払う追加費用は含まれておらず、実質的には、EVを買う余裕のない人々から裕福なEVオーナーへの政府による富の再分配となっている。

新しいEPA規制は、「自由主義的なコミュニティのごく一部に住む、裕福な白人の民主党支持者という非常に狭いセグメントの自動車購買層に適応することを目的としている」とブライス氏は述べた。「EV所有は、主に階級、イデオロギー、地理的条件によって定義されているのだ」

2023年7月23日、ワシントンでのエキスポでテスラの電気自動車を見る参加者(写真提供:Nathan Howard/Getty Images)

2月のEV購入者の分析で、ブライス氏は購入者の57%が年収10万ドル以上、75%が男性、87%が白人だと報告した。さらに、EV購入者の圧倒的多数が民主党支持者であり、ギャラップ社の世論調査では共和党支持者の71%が電気自動車の所有を検討しないと回答しているのだ。

2023年のカリフォルニア大学エネルギー研究所の報告書では、「政治的イデオロギーと米国のEV普及率の間に強く持続的な相関関係がある」ことが明らかになった。

2012~22年の新車登録台数の郡別データを見ると、新車EVの50%が民主党支持率の上位10%の郡で販売され、70%が民主党支持率の上位25%の郡で、90%が民主党支持率の上位50%の郡で販売されていることが報告書に記載されている。

この期間に販売された全EVの40%は20の郡で購入されており、「これらの郡のほとんどは都市部で高所得層が多く、民主党の州に位置している」と報告書は述べている。

 

EV購入者の3分の1がカリフォルニア在住

エネルギー省のデータもこの見解を裏付けている。2022年末時点で、カリフォルニア州には90万3600台の登録EVがあり、全米のEV保有台数の37%を占めているのだ。

次に多いのはフロリダ州、テキサス州、ワシントン州で、それぞれ16万8千台、14万9千台、10万4100台のEVが登録されている。続いて、ニュージャージー州、ニューヨーク州、ジョージア州、コロラド州、イリノイ州、マサチューセッツ州、バージニア州、メリーランド州、ペンシルベニア州となっている。

このリストに載っている州は、EVのターゲット市場である大都市や郊外を抱えている。これは、ワイオミング州やノースダコタ州などの田舎の州とは対照的だ。これらの州では、EVオーナーはそれぞれ800人と600人しかいないのである。

繁栄解放委員会(Committee to Unleash Prosperity)の報告書によると、「ノースダコタ州、サウスダコタ州、ワイオミング州、ミシシッピ州、ウェストバージニア州、アラバマ州、モンタナ州、アイダホ州のすべてのEVを数えても、米国の総販売台数の1%にも満たない」のだ。

「2024年3月3日、カリフォルニア州トラッキーでの吹雪の中、リビアンのトラックが充電ステーションで充電しています(Mario Tama/Getty Images)

一人当たりのEV保有台数が多い上位10州のうち7州が「深い青い州」だと報告書は指摘している。

「対照的に、EVの市場浸透率が最も低い10州はすべて赤い州だった」と繁栄解放委員会は述べている。

「皮肉なことに、ジョー・バイデンはこの業界にとって最悪の出来事だったのだ。EVは『バイデン車』になってしまったのである」

バイデン政権だけでなく、カリフォルニア州、メリーランド州、マサチューセッツ州、ニューヨーク州、オレゴン州、バーモント州、ワシントン州など多くの民主党支持州が、アメリカ人に電気自動車への切り替えを強制しようとしている。非営利団体Colturaによると、これらの州は2035年までにガソリン車の新車販売を禁止する方針である。Colturaはガソリン車から電気自動車への切り替えを提唱している。

しかし、共和党支持州でEVへの関心が低いのは、単に政治的な問題ではない。電気自動車に数千ドルも余分に支払うことを嫌がる人々には、実際的な理由がある。2023年11月のAAA(米国自動車協会)の調査によると、人々が電気自動車を購入しない主な理由は、充電ステーションの不足、航続距離の制限、バッテリー充電の時間などだ。

最近のラスムッセン社の世論調査では、調査対象のアメリカ人の65%が、次の自動車購入でEVを選ぶ可能性は低いと考えていることがわかった。

また、有権者を対象にした別の世論調査では、ガソリン車やトラックを段階的に廃止する規制に強く賛成しているのはわずか14%で、60%近くが反対していることがわかった。意見は党派で分かれ、民主党の53%がEPA規制に賛成し、共和党の76%が反対、無所属層の59%も反対している。

EV義務化への最も強い支持は、年収15万ドル以上の人々からだった。

「2024年3月7日にカリフォルニア州ラグナビーチで、新型のリビアンR3電気自動車を見ている参加者(Patrick T. Fallon/AFP via Getty Images)

能力を超えた政策

しかし、多くの業界団体はそれほど熱心ではない。

化石燃料からの移行を支持するトラック運送業界団体のClean Freight Coalition(クリーン貨物連合)は、現在の技術とインフラを考えると、新しいEPA規則で設定された期限を守ることは不可能であり、バイデン政権のEV計画は商用車の運転手、彼らが提供するビジネス、そして消費者に大きな損害をもたらすだろうと述べた。

クリーン貨物連合のエグゼクティブディレクターであるJim Mullen氏はワシントン・イグザミナー紙に対し、「現在、これらの車両は多くの運送業者の運用上の要求を満たしておらず、トラックの積載量を減らし、その結果、同じ量の貨物を運ぶのにより多くのトラックを必要とし、さらに普及を支えるのに十分な充電およびその他の燃料供給インフラがない」と述べた。

全米トラック協会は、EPAの排出規制で設定された目標は「全く達成不可能だ」と述べ、同様の理由を挙げている。

EVの組み立てには、中国を原産地とすることが多い部品の組み立てに必要なアメリカ人労働者が少なくて済むこと、また自動車メーカーが建設しているEV組み立て工場の多くが、テネシー州、ジョージア州、アラバマ州などの非組合州にあることから、当初は民主党支持派として知られる全米自動車労働組合(UAW)がEPA命令に反対していたのだ。

しかし、EPAが移行のペースを遅くするよう規制を調整したことで、UAWはEV計画を支持するようになった。

批評家によれば、バイデン政権の気候関連のエネルギーと自動車の義務化の嵐は、最近のケイトー研究所(Cato Institute)のレポートで「能力を超えた政策」と呼ばれるカテゴリーに分類される。

2021年11月17日にデトロイトのゼネラルモーターズ・ファクトリーZERO電気自動車組立工場で演説を行うジョー・バイデン大統領(Nic Antaya/Getty Images)

「環境規制の歴史は、野心的で非現実的な目標の後に、締め切りに間に合わず、執行されないことの連続だ」と報告書は述べている。1975年までにカリフォルニア州でガソリン車を禁止しようとした1970年の試みや、駐車料金の割増金と駐車スペースの削減によって自動車の排出ガスを削減しようとしたEPAの1970年の計画など、数多くの例が挙げられている。

「環境政策がこのような特徴を持つのは、経済学よりも宗教に近い大きな神学的な要素を含んでいるからだ」とケイトー研究所は述べている。「地球を救うことは、議会図書館の予算をめぐる交渉とは異なるのだ」

このプロセスでは消費者が見落とされているようだが、彼らは単にEVを避けることで自分たちの意見を表明しているのである。

1月、レンタカー会社のハーツは、顧客がEVの運転を望まないことがわかったため、電気自動車の3分の1にあたる2万台のテスラEVを売却すると発表した。ハーツは、顧客需要の不足に加えて、修理費用の高さを指摘したのだ。

ハーツはEVを売却するために2億4500万ドル(約370億8188万円)の損失を被り、「EVの売却による収益の一部を、顧客の需要に応えるためのガソリンエンジン車の購入に再投資する計画だ」と述べている。

「自動車レンタル大手のハーツがEV惨事でCEOを解任したわずか5日後に、バイデンEPAがEV義務化を発表したことに本当に驚かされる」とブライス氏は述べた。

「同社はテスラに大きな賭けをしたが、顧客がそれを借りたがらないことがわかったのだ」

経済記者、映画プロデューサー。ウォール街出身の銀行家としての経歴を持つ。2008年に、米国の住宅ローン金融システムの崩壊を描いたドキュメンタリー『We All Fall Down: The American Mortgage Crisis』の脚本・製作を担当。ESG業界を調査した最新作『影の政府(The Shadow State)』では、メインパーソナリティーを務めた。