2024年の選挙期間中、イーロン・マスク氏が「2兆ドル以上の不要な連邦支出を削減できる」と主張したことを受け、トランプ次期大統領はマスク氏に2つの権限を与えた。一つは起業家ビベック・ラマスワミ氏との連携、もう一つは具体的な支出削減を実現する自由だ。
こうして、政府効率化省(DOGE)が誕生した。
トランプ氏は、政府の官僚機構を解体し、過剰な規制を削減し、無駄な支出を排除するという壮大な計画を掲げ、「政府効率化省は現代版マンハッタン計画の可能性がある」と述べた。
政府効率化省の焦点 規制削減と支出削減
削減の第一歩は、9万2786ページに及ぶ連邦官報の規制と6兆7500億ドルの2024年連邦予算にある。マスク氏とラマスワミ氏は、不要で時代遅れ、あるいはコストが高すぎる規制を削減し、それにより行政の効率を向上させる方針だ。
規制を減らすことで経済成長が促進される一方で、無駄な支出を削減する試みには議会や利益団体からの強い反発が予想される。
連邦予算が均衡した最も最近の年は、オバマ政権の最後の年である2016年だった。予算はそれ以前の3年間も均衡していたが、これは主にティーパーティー運動 [1]によるもので、2010年に共和党が下院多数派となり、上院には積極的な若手保守派の支出タカ派が誕生した。
[1] ティーパーティー運動(Tea Party Movement)
アメリカ合衆国で2009年頃に始まった保守的な政治運動で主に小さな政府、財政保守、増税反対、個人の自由を主張している。名前の由来は、英国植民地時代の1773年に発生したアメリカ人の増税に対する抗議行動、ボストン茶会事件に由来する
支出の現状と課題
財務省によると、2024年の連邦予算における5大支出は以下の通りだ。
- 社会保障:1兆4600億ドル
- 各種医療プログラム:9120億ドル
- 国債利子:8820億ドル(総額35兆ドルの国債に基づく)
- メディケア:8740億ドル
- 国防予算:8740億ドル
これらの支出の大部分、特に防衛予算の一部を除いた項目は、給付や権利付与プログラムに基づくものであるか、政府の信用力を維持するために必要な支払いに該当する「必須支出」に分類されている。義務的支出が全体の3分の2を占める中で、政府効率化省が削減対象とできる裁量的支出はわずか3分の1に留まる。この制約が、予算削減の大きなハードルとなっている。
歴史的背景
政府効率化省はこれらの制約を乗り越え、効率的な政府運営の道を切り開くことができるのか。マスク氏とラマスワミ氏の手腕が試される。
朗報として、裁量支出の予算は、効率化や無駄・不正の排除、不要なプログラムの削減に取り組む余地が多く存在する「ターゲットの宝庫」と言える。特に3つの政府機関は、政府をより効率的にし、無駄や不正を排除し、不必要なプログラムを廃止するための数多くの提案を持っており、これらを実行すれば数千億ドルの節約が可能だと見込まれている。
監査機関による削減提案の進展
例えば、議会の調査機関である会計検査院(GAO)は、長年にわたり重複する連邦プログラムを特定し、それらを削減することで年間数十億ドルの節約が可能であることに注目してきた。
GAOの2024年の報告書によれば、「2011~24年の間に特定した2018件の提言事項の多くにおいて、議会や各機関が大きな進展を遂げた。この取り組みにより、6675億ドルの財政的効果が得られた。これは2023年の報告から約710億ドル増加した」としている。
GAOはまた、コスト削減に関する提言の現状を常時公開しており、これを議会や各機関が採用すれば数千億ドル規模の節約が期待できる。現在の未解決の勧告リストには5376項目が含まれ、そのうち495項目が「優先度が高い」とされている。特に、各機関の支出追跡方法に関するいくつかの提案が実施されれば、年間最大5210億ドルもの削減が可能とされている。
GAOが未解決としている勧告リストには、以下のようなものが含まれる:
- 国防総省:90件
- 運輸省:20件
- 司法省:15件
- 環境保護庁:12件
- 食品医薬品局:3件
パンデミック対策での不正防止への取り組み
また、パンデミック対応説明責任委員会(PRAC)の調査も、大規模な削減の可能性を示している。同委員会は、長年司法省監察総監を務めたマイケル・ホロウィッツ氏が率い、不正防止に取り組んでいる。
ホロウィッツ氏は2024年9月、議会証言で、PRACが開発した新たなデータ分析ツール「パンデミック分析センター・オブ・エクセレンス(PACE)」が法執行機関の支援に貢献していると報告した。
同氏によれば、「2024年8月時点で、PACEは48の連邦法執行機関および監察官事務所に対し、935件のパンデミック関連調査を支援し、推定で22億5千万ドル以上の詐欺損失を特定した」としている。
ホロウィッツ氏は、「PRACは2023年1月、不審な社会保障番号(6万9千件以上)が小規模事業局のパンデミック対応ローンおよび助成金で54億ドルを不正に取得するために使用されたことを指摘する詐欺警告を発表した」と述べた。
一方、1978年にジミー・カーター大統領と民主党主導の議会によって創設された74の監察総監(IG)による活動では、毎年数十億ドル規模の無駄遣いや不正な支出が明らかにされている。最新の報告書で、監察総監評議会(CIGIE)は膨大な節約効果を指摘した。
「2023会計年度において、74のIGに所属する1万4千人以上の職員が監査、検査、評価、調査を実施した。その結果、政府全体の経済性と効率性が大幅に改善され、総額約931億ドルの節約が見込まれた」とCIGIEは述べている。
これら74のIGの総予算は35億ドルであり、節約可能額はIGに投資された1ドル当たり約26ドルの利益に相当している。
議会の反応
議会では、政府効率化省の構想に対し、共和党議員からは熱い支持が寄せられているが、民主党側からは概ね静観が続いている。
共和党上院議員のロン・ジョンソン氏は、「マスク氏とラマスワミ氏が直面している硬直した制度の本質を十分理解していることを願う」と述べた。
同氏は大紀元に「これは民間セクターではない。彼らが置かれている制約を理解する必要がある。しかし、私は新たな視点を歓迎する。政府や議会はあまりにも硬直化し機能不全に陥っているため、本当に変革をもたらす存在が必要だ」と語った。
同じく共和党上院議員のジョニ・アーンスト氏は、連邦予算における無駄や不正を指摘する「月間スクイール賞」を通じて、長年これらの問題を訴えてきた。
アーンスト氏は、「ワシントンのどこを見ても無駄遣い、詐欺、不正行為が横行している」と指摘。「エビがトレッドミルでどれだけ速く走れるか、パンダがどれだけ素早く排便できるかを調べる奇妙な研究に資金を費やすだけでなく、連邦機関の膨れ上がった官僚主義にも取り組むことで問題の本質に迫っている」と述べた。
アーンスト氏は、政府効率化省および次期トランプ政権の他の取り組みと協力して、「ワシントンを刷新し、無駄を削減する」ことを誓っている。同氏は新設された「優れた政府効率化推進議員連盟」の上院部門の議長を務める。
上院政府効率化省議員連盟には、フロリダ州選出のリック・スコット氏、テキサス州選出のジョン・コーニン氏、ノースカロライナ州選出のテッド・バッド氏、ユタ州選出のマイク・リー氏、カンザス州選出のロジャー・マーシャル氏、オクラホマ州選出のジェームズ・ランクフォード氏が加わる予定だ。
下院政府効率化省議員連盟は、監視・説明責任委員会の政府運営・連邦労働力小委員会の委員長であるピート・セッションズ議員(テキサス州選出)と、アーロン・ビーン議員(フロリダ州選出)が共同議長を務める。
民主党議員は、11月5日の選挙以降、政府効率化省についてほとんど沈黙を保っている。議会の声明を全て集めたLegistormデータベースを検索したところ、11月6~26日の間に、上院・下院の民主党議員による政府効率化省に関する声明は見つかっていない。
しかし、下院民主党議員のジャレッド・モスコウィッツ氏は今週、下院政府効率化省議員連盟に参加し、「政府のプロセスを簡素化し、無駄な政府支出を削減することは、党派に関係なく取り組むべき課題だ」と述べた。
一方、監視・説明責任委員会の民主党トップであるジェイミー・ラスキン議員は、共和党が下院に新設する政府効率化省小委員会について批判を展開。同委員会はマージョリー・テイラー・グリーン議員が委員長を務める予定だ。
ラスキン議員は11月21日の声明で、「グリーン議員は、トランプ政権下で政府からさらに数十億ドルの契約や補助金を受け取る立場にある、審査が不十分な2人の億万長者と協力することになる」と指摘。「民主党は引き続き、無駄、詐欺、不正、腐敗への対策に集中する。政府は億万長者の寡頭制ではなく、国民のものだ」と述べた。
また、上院民主党議員のクリス・クーンズ氏は、Fox Newsのインタビューで政府効率化省についてコメントした。
「ラマスワミ氏やマスク氏が述べているような、政府支出から2兆ドルを削減するという数字は、社会保障などの重要な機能に手を付けない限り実現できないだろう」と述べた。一方で、「構造次第では、この取り組みは建設的なものになり得る」との期待感も示した。
非営利団体からの期待と警戒
無駄遣い、不正、濫用に反対する非営利団体のベテラン活動家たちも、政府効率化省構想に対して慎重ながらも楽観的な見方を示している。
「オープン・ザ・ブックス(Open the Books)」の最高経営責任者(CEO)であるジョン・ハート氏は、過剰な規制を追求する決定を称賛している。同団体は連邦、州、市レベルの支出に関する世界最大の継続的に更新される公開データベースを管理している。
ハート氏は大紀元に「政府効率化省が規制の削減と、それを管理する機関の縮小から着手すれば、即時または短期的な経済効果をもたらし、それがさらなる削減を進めるための政治的資本となるだろう」と語った。
また、納税者保護同盟(Taxpayers Protection Alliance)の会長であるデイビッド・ウィリアムズ氏は、政府効率化省を通じて義務的支出について創造的な発想が生まれる可能性があると述べた。
「援助を必要とする人々に資金を提供する各機関同士の間で、相互の状況が十分に共有されていない」と指摘。「各種給付を受け取る人は、中央事務所に報告されるべきであり、アメリカ全体として1年間に提供する金額の上限を決定すべきだ」と提案した。
さらにウィリアムズ氏は、給付を受け取るすべての人に指紋の提出を義務付けることで、複数の名前を使った不正受給を防ぐ仕組みを提案している。
誰もが政府効率化省の取り組みが、数千億ドルの節約の可能性を明らかにできると認めている。しかし、議会に改革案を承認させ、それを連邦職員に忠実に実行させることは困難な課題である。
こうした節約を実現する上での多くの障害の中には、膨大な官僚組織の規模や個々の職員の業績に対する責任が欠如していることが挙げられる。
官僚組織の非効率性を指摘する声
トム・シャッツ氏は1992年から「政府の無駄遣いに反対する市民運動・Citizens Against Government Waste(CAGW)」の代表を務めており、同団体は連邦予算における数千億ドル規模の無駄、詐欺、不正を明らかにしてきた。CAGWは1984年、ロナルド・レーガン大統領が1982年に大統領令で設立した「費用抑制に関する民間部門調査」、通称グレース委員会の後継団体として設立された。
グレース委員会は、実業家ピーター・グレース氏とピューリッツァー賞受賞ジャーナリストのジャック・アンダーソン氏によって共同設立され、政府支出を抑制するための方法を勧告する目的で活動した。
政府運営の課題
シャッツ氏に連邦政府が「管理不能」になっているかどうかを問うと、彼はこう答えた。
「あなたが『管理』という言葉を使ったのは興味深い。私たちにとって、これこそが核心の問題だからだ。それは決して刺激的なテーマではないが、政府は国民の資金をもっと効果的に管理する必要がある」
さらに、CAGWの調査員が政府関係者に、特定のサービスや製品の提供にどれだけのコストがかかるのかを繰り返し尋ねた経験を語った。
「彼らは答えられないことが多い。通常の回答は『その人が必要なものを受け取るまでお金を使い続ける』というものだ。だから私に言わせれば、政府効率化省は無駄を特定するだけでなく、何を行い、なぜそうするのか、正当性と方法論を確立する必要がある」とシャッツ氏は述べた。
政府効率化省への期待
シャッツ氏は、イーロン・マスク氏とビベック・ラマスワミ氏が無駄を明らかにすることを期待している。その上で、「彼らは『これが私たちの提言であり、その理由、そしてこれがどのように皆さんの生活を改善し、コストを削減するか』を伝える必要がある。それによって必要なものをきちんと提供するべきだ」と述べた。
マスク氏とラマスワミ氏は、政府の無駄を暴くべきだとシャッツ氏は述べた。
これを行わなければ、批判者は政府効率化省の提案を、マスク氏やラマスワミ氏、さらにはトランプ政権内の他の関係者がイデオロギー的または自己利益のために反対する政府プログラムを標的にしているだけだと非難するだろう。
グレース委員会との比較
シャッツ氏は、レーガン大統領がグレース委員会の提言を自身の予算案に組み込み、議会に積極的に採用を促し、その進捗を追跡していたことを指摘した。トランプ氏も同様に政府効率化省の提言を推進することに力を入れるだろうと述べた。
「これはグレース委員会以来、政府の運営に持続的かつ前向きな影響を与える提言を作成するための最高の機会だ」とシャッツ氏は評価した。
非防衛官僚組織の課題
一方、政府効率化省が直面するもう一つの障害について、専門家のドナルド・デバイン氏はこう述べた。「非防衛分野の官僚組織を本当に改善することはできない。それは単に規模が大きすぎるのだ」
デバイン氏は1981年から1985年にかけてレーガン政権下で連邦人事管理局(OPM)の局長を務めた経験を持ち、官僚機構の管理に関する3冊の書籍を執筆した。現在はアメリカ研究基金(The Fund for American Studies)のシニアスカラーを務めている。
「連邦政府の『職員』は200万人ではない。さらに1千万人から2千万人の契約社員や助成金受給者がいるが、その正確な数を知る者はいない」とデバイン氏は指摘した。
この数字には、連邦資金で雇用されている州および地方政府の職員も含まれていない。デバイン氏は、このような無秩序に増えた労働力を効果的に管理する最善の方法は、不必要な機関の廃止やプログラムの効率化による重複排除であると述べた。
公務員制度改革の重要性
また、1978年の公務員制度改革法(Civil Service Reform Act of 1978)に基づく管理原則の復活も重要であると強調した。この法律はカーター大統領と民主党議会の下で制定されたものである。
「元々のペンドルトン法(政治的な恩顧主義的雇用を廃止した法律)は、公務員を知識、技能、能力に基づいて選ぶことを求めており、その基準は現在も法律で定められている」とデバイン氏は指摘した。しかし、これらの基準は数十年にわたり、一貫して忠実に適用されていない。
「解決策は、カーター政権下で制定された1978年の公務員制度改革法と、1981年のレーガン政権による初期の実施規則に戻ることだ。これにより、政治的管理と職業的業績に基づいた運営が可能になる」と述べた。
政治的再編と政府効率化省の可能性
「Open the Books」のハート氏は、政府効率化省にとって有利な要素として、グレース委員会やティーパーティー時代のシンプソン・ボウルズ委員会など、過去のコスト削減努力を挙げた。
「今日の政治情勢は、シンプソン・ボウルズやレーガン時代とは異なる。政治的再編があり共和党が今や労働者階級の政党になっている点が重要だ」とハート氏は述べた。
過去には、民主党が労働者階級の基盤に訴え、政府削減を目指す共和党案に反対することができた。しかし、現在では行政国家の縮小を訴える政党が労働者階級の支持を得ている。
このような労働者階級有権者のトランプ氏と共和党へのシフトが、政府効率化省の取り組みが成功するかどうかに大きく影響を与えるとハート氏は述べた。
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