【プレミアム報道】米報告書、中共の選挙介入手法を暴露 日本も他人事にあらず

2024/02/05
更新: 2024/02/05

中国共産党は2022年に選挙介入の手法を一新し、AIや科学技術を活用した効果的な情報工作を行っている。米国の複数の報告書から、中共の手口を一挙に暴く。日本に暮らす私たちにも思い当たる節があるのではないだろうか。

機密解除された米情報機関の報告書などから、中国共産党が様々な手法を用いて2022年米国中間選挙に介入していたことがわかった。バイデン政権が報復に出ないことを見越して、介入行為はいつも以上に「大胆な」ものだったという。

親中派候補者への「サポート」、有権者に成りすました工作員によるインターネット上の世論工作、社会分断を煽るコンテンツの流布、「反中」議員に対するネガティブキャンペーンなど、手法は多岐にわたる。

1月の台湾総統選でも、露骨な介入が行われた。中共の浸透工作に詳しい松原仁衆院議員は「今後日本の選挙にもこうした介入が行われる恐れは小さくない」と発信し、警鐘を鳴らした。

米国家情報長官(DNI)が2023年12月に公表した機密解除済みの文書によると、共和・民主両党が対中強硬に舵を切るなか、中国共産党は米国議会選挙に影響を与えようと試みた。

同報告書によると、外国勢力による選挙介入の規模等は前回の中間選挙を上回ったものの、大統領選ほどではなかった。

その原因については、「もし選挙介入の試みが発覚しても、現政権(バイデン政権)がこれに対して激しい報復をしないと判断した可能性がある」と分析した。

トム・ティファニー米下院議員(共和、ウィスコンシン州)はエポックタイムズの取材に対し、バイデン政権が今まで以上に真剣に対処しない限り、中共は米国選挙への介入を止めることはないだろうと述べた。

米国会議員に対する監視

中国共産党は領土的主張や一党独裁の政体といった、絶対に譲歩できない「核心的利益」を持っている。中共が米国議会選挙を標的にするのは、米国議会を「核心的利益」への最大の脅威であると考えているためではないか、と報告書は分析する。

リスク管理コンサルティング会社「ノーススターサポートグループ(North Star Support Group)」の地政学顧問であるサム・ケスラー氏は、「中共は党派に関係なく、親中派候補が確実に勝利することを望んでいる」と語った。

「中共による2022年中間選挙への介入からもわかる通り、より多くの親中派の政治家を確実に当選させるという中共の地政学的戦略は続いているのだ」

ケスラー氏はさらに「中国は米国の政治システムと民主主義モデルに対する不信を助長し、対照的に権威主義体制がの優越性を絶えず宣伝してきた」と指摘した。

前出の報告書によると、中共は「反中的な候補者に不利益を与え、親中的な候補者には利益を供与した」。

中共は米国国民に対する分断工作をも行ったが、「政策上の立場に基づいて少数の特定の候補者」を弱体化させることに重点を置いていた。

報告書はまた、2020年以降、選挙介入の取り組みは、中共当局の上層部によって指揮されていることを指摘した。実行部隊に対し、中共の戦略目標にとって不利な世論や議会の政策を弱体化させるという広範な指令が下された。

中共のこのような行動について、ケスラー氏は、「海外で民主主義を推進する米国の努力に対抗する中国共産党の大局的戦略の一環である」と表現した。

なぜ、中共はこれほど大胆に行動できるのか。ケスラー氏は、2020年の大統領選以降、中共は「米国からの監視が弱まっていると認識しているのではないか」との考えを示した。

世論操作

報告書によると、中共は選挙への介入に加え、SNSの偽アカウントや代理ウェブサイト、インフルエンサー、そして広報業者などを利用して、米国の世論を操作しようとした。同様の指摘は、過去にもあった。

FacebookとInstagramを運営するMeta社は昨年8月、自社プラットフォームから7700以上もの中国関連アカウントを削除したと発表した。

Meta社は「偽アカウントが米国世論の分断を助長するためのコンテンツを同時多発的に流布したことが確認された」とし、「これは世界最大規模のオンラインでの影響力工作だ」と明らかにした。

同社によると、一連の影響力工作に関わった人物の中には、2022年米中間選挙に介入しようとした中国の法執行機関の人物も含まれているという。

リスクアドバイザリー会社「 BlackOps Partners」のケイシー・フレミングCEOは、一連の影響力工作は中共が展開する超限戦の一環だと述べた。

エポックタイムズの取材に対し、「現在行われている中国共産党の影響力工作は、中共が主要な敵対国とみなす米国を弱体化させるために遂行している、ルールに基づかない超限戦の数ある手法のうちの一つに過ぎない」と綴った。

様々なオンラインプラットフォーム上でアカウントを開設し、米国世論を分断するのが中共の主な手口だ。中共はそれらのアカウントを使って、中絶や銃規制といった分断を招きやすい社会問題を煽り立てるほか、投票しても社会は変わらないなど、民主主義の根本を疑問視するコンテンツを発信した。

Meta社は、親中共・反米プロパガンダの拡散に加担した7700以上のFacebookアカウントや、900のページ、15のグループ、そしていくつかのInstagramアカウントを削除したと発表した。

この「秘密の影響力工作」は、TikTokやYouTube、X(旧Twitter)、Pinterestなどを含む50以上のプラットフォームで展開されていた。

中共による影響力工作は、米国の主要な同盟国やパートナーである日本や英国、豪州、台湾をも標的としていた。

さらに、影響力工作を遂行するグループは、偽情報を組織的に拡散する方法を編み出していたこともわかった。Meta社は報告書で次のような例を挙げた。

まず、中国を拠点とするアクター(工作員)が、「COVID-19の起源は米国である」という66ページの偽の研究論文を作成し、研究データリポジトリのZenodoで公開した。すると、他のアクターがこの偽の研究論文をベースに動画を作成し、YouTubeなどに公開した。さらに、偽の研究論文を引用した記事を作成し、「米国がCOVID-19の起源に関する真実を隠している」と主張する2つの動画を埋め込んだ。最後に、アクターらはこの記事を複数のプラットフォームで公開し、偽のソーシャルメディアアカウントでシェアすることで、記事へのアクセス流入を人為的に増幅させた。

このようにして「COVID-19の起源は中国ではなく、米国である」というフェイクニュースが拡散されていくのだ。

前出の地政学顧問ケスラー氏は「このようは行為は、国政選挙が行われるたびに激しい論争を呼ぶ問題を利用して、米国の両党の対立や国民の分断を図る中共の戦略とも結びついている」と指摘した。

フレミング氏は中国発アプリの影響を念頭に、「米国議会は政府機関やビジネス、軍事、教育分野における外国勢力の影響力を断ち切る方法を積極的に模索しなければならない」と強調した。

米国有権者になりすます

マイクロソフト社は2023年9月に報告書を発表した。2022年米中間選挙の期間中、中国を拠点とするハッカーがオンライン上で米国有権者になりすまし、AIを使って世論を分断するコンテンツを作成・宣伝していたと指摘した。

「2022年の米国中間選挙を前に、マイクロソフト社と業界のパートナーは、米国の有権者に成りすましたSNSアカウントを発見した。すなわち、中国共産党(の影響力工作)が新たな領域に進出したのだ」

報告書によると、「これらのアカウントは、さまざまな政治的立場を持つ米国人を装い、実在するユーザーのコメントに答えるなど、積極的に活動する姿を見せた」という。

サイバーセキュリティ企業Recorded Futureの報告書によると、中国共産党は2022年に影響力工作の手法を根本から一新させた。インフルエンサーを活用する従来の手口を改め、詳細な人口統計データに基づいてセグメント化された、明確に定義された対象者に向けて「ターゲティングメッセージ」を流すことに注力するようになった。

同報告書によると、影響力工作に加担するこれらのアカウントは、中国共産党の統一戦線工作部(世界的な影響力工作を監督する共産党機関)と、政権の最高情報機関である国家安全部の双方から指示を受け取り、または何かしらの支援を受けていた可能性が高い。

ケスラー氏は、現在の米国有権者の両極化現象を考慮すると、2024年米大統領選をターゲットにする外国勢力の影響力工作がさらに激化するのではないかと予想している。

「外国勢力による悪意のある活動は増加傾向にあり、米国の国家安全保障と国際システム全体に対する重大な脅威であり続けるだろう」と述べた。

フレミング氏も、今年11月に米大統領選を控えるなか、中露といった敵対国がAIを活用してインターネット空間に混乱をまき散らそうとするかもしれないと警鐘を鳴らした。

その上で、「選挙介入は民主主義と自由に対する直接的な脅威である」とし、「有権者らは民主主義を守るために努力しなければならない」と強調した。

エポックタイムズ特派員。専門は安全保障と軍事。ノリッジ大学で軍事史の修士号を取得。