中国式の鍋料理である「火鍋(ひなべ)」は、最近では日本でもよく知られたメニューになった。
中国最大の火鍋チェーン店で、日本でも店舗を展開する「海底撈(かいていろう)火鍋」の女性従業員のダンス姿がこの頃、華人圏のSNSで広く拡散され、ちょっとした物議を醸している。
話題になったのは、この日に誕生日を迎える食事客に向けて「店からのサービスの一環」として、バースデーソングと従業員によるダンスを披露している動画である。動画につけられた日付は11月24日、場所は河北省衡水市であるらしい。
踊っている若い女性従業員は、おそらく上司から言われた通りに一生懸命やっているのだろう。ところが、その顔は「無表情で、辛そう」なのだ。
この動画を見た多くのネットユーザーは「全然笑えない。こっちまで心が痛んでくる」「やりたくないだろうに、仕事にしがみつくのに必死で可哀そうだ」といったコメントが殺到している。
この動画に関しては、店側の「海底撈」に対しても「従業員を虐待している」などといった批判コメントが寄せられている。
中国の火鍋店「海底撈」は、食事客に対して徹底的にサービスをする「神接客」で有名だ。
時には「あ、そこまでしてくれなくても、それくらい自分でやるよ。ありがとう」と、客のほうがちょっと引いてしまうほどの厚遇ぶりである。例えば、案内待ちの時間には無料でネイルサービスが受けられ、食事中もスタッフによる各種のパフォーマンスが楽しめる。
そうすると、今回話題になってしまった「女性従業員のダンス」も、そうした店の方針の一つということになるのかもしれない。
彼女の心の内にどんな思いがあるのか、それは本人に聞かなければ分からない。店が従業員を虐待しているのではないとしても、懸命にダンスをする彼女の硬い表情からして「就職難の中国で、ここを解雇されたら大変だ」という悲壮感が出てしまい、客のほうがハラハラしてしまった、というのが本当のところではないか。
実際のところ、中国国内の「海底撈」の店舗は、昨年12月まで3年間続いた「ゼロコロナ政策」の影響をうけて大量閉店に至っている。
具体的には「2020年9月ごろまでに、中国国内のコロナ禍は収束する」と見た創業者の張勇氏が、コロナの影響でテナント賃料が下がっている時期を店舗拡大のビジネスチャンスととらえ、2020年の6月ごろに店舗数を一気に約2倍まで増やしたことがある。
ところが、周知のように、中共のゼロコロナ政策は2022年12月まで続く。その間に中国経済は破綻し、もはや人々は、かつてのように外食を楽しむなどの、消費中心の生活はとてもできなくなっている。
さらには、疫病そのものも感染拡大の勢いを衰えさせることなく、ますます猛威をふるっているのが現状だ。
「海底撈火鍋」創業者の張勇氏は、今から2年前の2021年11月5日、コロナ禍の長期化を予測できなかったことを認め、経営不振を理由に同年内に約300店舗を閉鎖すると発表した。
そのような意味では、女性従業員が客の前でダンスを披露していたこの店舗自体も、まさに「生き残りに必死」という悲壮感を隠せないのかもしれない。
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