【寄稿】中共がほくそ笑むハマスの暴挙 世界大戦への導火線となるか

2023/10/12
更新: 2023/10/12

第5次中東戦争の勃発

7日、パレスチナの武装組織ハマスイスラエルを攻撃した。これまでも断続的に紛争が続いていたが、今回の攻撃は1973年の第4次中東戦争以来の規模だという。イスラエルのネタニヤフ首相は国家非常事態を宣言し、反撃に乗り出しているから、第5次中東戦争と言っていいかもしれない。

今般の攻撃は、私が6日に大紀元に寄稿した所論「中朝露に急接近するイラン 核保有国同士の不気味な関係」の延長線上にあると言っていい。つまりハマスの背後にいるのはイランである。

所論で述べたが、イランの核兵器は完成間近であり、イスラエルは、その完成を阻止するために、イランの核関連施設の空爆を計画していた。イランは、この空爆を阻止するために先手を打ってハマスに大規模攻撃を仕掛けさせたのだ。

だがイランの狙いが成功したかどうかは、分からない。というのもネタニヤフ政権は強硬派として知られているが、その強硬姿勢には、国内的にも反発が強かった。イラン空爆計画に対してもイスラエル空軍の中にさえ反対の声があったのである。

だが、このハマスによる攻撃に対して、イスラエル空軍はハマス空爆を積極的に行っており、ネタニヤフ政権の対イラン強硬姿勢に対する国内の反発は鳴りを潜めつつある。ハマスによる攻撃で数百人ものイスラエル人が死んだ直後にイランのライシ大統領は、「この勝利を祝福する」と述べている。

イスラエル国民から見れば、この攻撃の背後にイランがいることは、明らかであり、イランの核兵器開発を是が非でも阻止しなければならないと考えるのは自然な流れだろう。

つまり、この攻撃がイスラエルのイラン空爆を阻止するどころか、かえって後押ししてしまうかもしれないのだ。

もしイスラエルがイランの核関連施設の空爆に踏み切った場合、イランがホルムズ海峡を封鎖することは確実である。この海峡はサウジアラビアを始めとする産油国の石油の輸送路のチョークポイントであり、ここが封鎖されれば石油価格は暴騰し世界経済は大混乱に陥る。

イランと親しい中国やロシア、北朝鮮がイラン側に付き、米国や日本、西側諸国がイスラエルに付けば、第3次世界大戦の構図となろう。

もちろん、これは単なる構図に過ぎず、核戦争になりかねない第3次世界大戦に発展することは誰も望まないと思われよう。だが、実はそれは経済的に恵まれた西側民主主義国の常識に過ぎない。経済的に追い詰められた独裁国家の常識は全く異なるのである。

中国:台湾侵攻の絶好のチャンスか?

イラン、ロシア、北朝鮮、中国、これらはいずれも独裁国家であり、反米主義で共通しており相互に連携している。またいずれも米国から程度の差こそあれ、経済制裁を受けている。世界最大の経済大国である米国に制裁を科されても存続できるのは、第2の経済大国である中国が中枢にいるからだ。

だが、その中国の経済成長に陰りが見えている。中国の軍事力の増強は、この経済成長に支えられてきたから、経済成長の終焉は、軍拡の終焉を意味する。ということは、今後、軍拡は望めない。つまり現時点が軍事力の頂点であり、今後は衰退していくわけだ。

中国の軍拡の目的は台湾の武力併合である。ならば、今、最大の軍事力を生かして台湾に侵攻しなければ、台湾の武力併合の機会は失われることになるという認識を中国は持ち始めている。

そんな中国にとって、中東の紛争の拡大は望ましい事態に違いない。イスラエルがイランの核関連施設を空爆し、イランがホルムズ海峡を封鎖し、石油価格が暴騰し世界経済が大混乱に陥れば、東アジアを管轄している米第7艦隊は中東に向かわざるを得ない。

台湾は島国であり、中国海軍から台湾を守っているのは第7艦隊である。それがいなくなれば、中国にとって台湾侵攻の絶好のチャンスであろう。

ロシアはウクライナに勝利か?

もう一つ、今般の紛争をほくそ笑んで見ている国がある。ロシアである。イランがホルムズ海峡を封鎖して石油価格が暴騰すれば産油国であるロシアにとって望外のボーナスとなる。

だが、それだけではない。バイデン政権はウクライナに軍事支援を続けており、具体的には武器弾薬を供給している。もし米国がこの供給をやめれば、ウクライナは即座に停戦する他はない。米国がウクライナ戦線を支えているのだ。

ところが、米国の武器弾薬の在庫が底を突きかけている。そこに降って湧いたような中東紛争である。米国のバイデン大統領は、即座にイスラエル支持を表明した。また中東に空母ジェラルド・フォードを派遣し、イスラエルへの軍事支援を約束した。

この軍事支援の詳細は明らかではないが、米国の政府高官はウクライナへの支援と両立は可能だと述べている。しかし、それは紛争がイスラエルとハマスに限定されている場合だ。もし、イスラエルとイランの紛争に拡大した場合、米国は大規模な軍事支援に踏み切らざるを得なくなり、ウクライナへの支援は停止せざるを得なくなろう。

ナゴルノカラバフの真実

もしそうなれば、ウクライナは停戦せざるを得ない。停戦ラインは現在の最前線になるから、ロシアはクリミア半島を含むウクライナの6分の1を事実上獲得する。

これはロシアの勝利である。つまり侵略したロシアの成功を意味する。果たして国際社会はそれを許すべきなのであろうか?

だが、ロシアは今や十分に抗弁できる立場をナゴルノカラバフで得たと言えよう。同地はアゼルバイジャンの中にあるアルメニア人自治区である。ところが9月19日にアゼルバイジャン軍は、同地を攻撃し、同地区は降伏し自治区は消滅、アルメニア系住民15万人は10月2日までにほぼ全員が隣国アルメニアに離脱を余儀なくされた。

これはアゼルバイジャンの明白な侵略であるにも関わらず、国連も米国も沈黙している。理由はアルメニアがロシアの同盟国であるからに他ならない。だがこれは政治的な理由であり、侵略全般を禁止した国連憲章がもはや無効になったと国連も米国も黙認したことになろう。

ならば、ロシアの侵略も容認されるべきだとロシアが主張したとき、国際社会は反論できなくなろう。

(了)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
軍事ジャーナリスト。大学卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、11年にわたり情報通信関係の将校として勤務。著作に「領土の常識」(角川新書)、「2023年 台湾封鎖」(宝島社、共著)など。 「鍛冶俊樹の公式ブログ(https://ameblo.jp/karasu0429/)」で情報発信も行う。
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