「人為的洪水」から2カ月 いまだ届かぬ被災者への救援=中国 河北

2023/10/03
更新: 2023/10/03

7月末から8月はじめにかけて、中国の河北省などを襲った洪水から約2カ月が経った。しかし、中国当局が約束した経済的補償をまだ受け取っていないという被災民も多い。

特に被害が大きかった河北省では、涿州市や覇州市などの街がまるごと水没するなど、甚大な被害が出た。しかも、その多くが夜であったため、住民が避難することは極めて困難であった。

7月末、台風5号の影響により、河北省、北京市、天津市を中心とする北部中国で豪雨が続いたことは事実である。しかし、中国当局が今もいう「降雨による自然災害」という主張には、国民の批判や責任追及を何としても回避したい中国当局の「ごまかし」があると指摘しなければならない。

豪雨により、例えば北京市を取り囲む複数のダムが満杯となり、危険水位に達しようとしていた。ダムを放水しなければ、やがて決壊してしまう。大洪水になれば、標高の低い北京の中心部および習近平氏が主導した未来都市「雄安新区」に濁流が押し寄せ、完全に水没してしまう危険性が高かった。

その代替地として「犠牲にするべき場所」に選ばれてしまったのが、涿州市や覇州市など、河北省の複数の地方都市であった。豪雨は自然がもたらした驚異であるとしても、ダム放水そのものは、完全な人為的行為である。

7月31日夜を中心に行われたダム放水は、少なくとも2日前の29日時点で実行が決定されていた。最高指導部でこれを決裁したのは、習近平氏ではなく、李強首相だったという。

それは確かに、北京と「雄安新区」を守るための政治的判断であったのかもしれない。しかしその結果、涿州市に駐屯していた中国陸軍の最精鋭部隊「第82集団軍」が、主力戦車や最新兵器もろとも水没した。戦車が潜水艦になるとは思えないので、おそらく使用不可能になっただろう。台湾侵攻の狂夢をみる習近平氏は、これに激怒したという。

いずれにせよ、水没する地域の住民に全く避難指示を出さず、はじめから犠牲にする前提で行われたダム放水および堤防の爆破であった。

当局のいう「自然災害」から2カ月が経った今、被災者への救援が進んでいない主要因は、そうした人為的洪水であることが被災者の全てに知られており、憤懣つのる現地住民を前に、対応に当たる職員が全く消極的であることが挙げられる。皆、自分の責任逃れしか考えていないのだ。

涿州市の被災者である周さんの場合、臨時手当の一部は支払われたが、家屋の補償などは修理後に手当金を申請することになっているのだという。

つまり「水害で壊れた家を修理するには、まずは被災者が自分で代金を払い、その後で、役所へ手当金を申請しなさい」ということだ。

全てを失い、一文無しになった被災者に、そんなことが可能だろうか。

仮に、家の修理後、役所へ修理代を申請しても、その金額通りの補償金が、経済的に困窮する地方政府から下りるはずがない。はじめから被災者を切り捨てた政策なのだ。

「泥で詰まった下水道の排水問題に、今も悩まされている」という周さん。下水道などのインフラ復旧が全く進んでいない現状に、中国メディアに取材を受けた周さんは「いまだに洪水災害がもたらした苦悩から、立ち直っていない」と語った。

涿州市で畜産業を営む王さんは、一時的な被災手当を、まだ一銭も受け取っていない。

「飼育していた羊20頭以上を流され、今わずか4頭しか残されていない」と涙ながらに語る王さん。その一番の願いは「被災補助金を早く手にして、そのお金で、家や羊小屋を修理することだ」という。

被災者は、この絶望的な状況からなんとか立ち直るために、涙を流しながら、懸命に努力しようとしている。しかし、最大の責任を負うべき当局は極めて及び腰で、被災者に真摯に向き合おうとしていない。

現在、王さんの頭を悩ませているのは、家畜に与える飼料の価格が上がり続けているのに、豚や羊の販売価格が大幅に下がっていることだ。

どこかで廃業する畜産業者から、豚や羊を安値で買いたたいているのかもしれない。飼料を倉庫にため込んで、価格を吊り上げている者もいるだろう。中国国内の流通が極めて不安定になっているため、このようなアンバランスな経済現象も起こっている。

そして今、被災地の住民を最も悩ませているのは「このまま、ここに住むのか?」という将来への不安である。

実際のところ、中国は、日本のようにどこへでも転居できる自由はない。それでも被災者を悩ませているのは「ここで生活を再建しても、来年か再来年の同時期に、また水没するかもしれない」という、極めて切迫した恐怖感なのだ。

目の前には、遅々として復興が進んでいない荒廃した故郷の風景がある。被災者たちは、折れそうな心を必死で支えながら、今日を懸命に生きている。

そんな被災地をもつ河北省は、これから零下20度という極寒の冬に向かう。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。