【閲覧注意】本記事には、残虐な映像や画像があります。ご注意ください。
中国ではこの頃、自動車を凶器にして暴走させ、無差別に歩行者などを襲撃する「社会への報復」を意図したとみられるような凶悪事件が後を絶たない。
つい最近も、2日連続で、暴走車が無差別に人をはねる事件が起きた。いずれも不慮の交通事故ではなく、人を殺傷する明確な故意、あるいは「未必の故意」があることが、動画に残された映像から伺われる。
街中で「タクシーが暴走」
19日の18時ごろ、安徽省合肥市にある「省立医院」前の「タクシー待ちエリア」から1台のタクシーが突然、猛スピードで発進。横断歩道を渡っていた男性や女性など、歩行者など少なくとも3人を次々とはねる事件が発生した。
犯人であるタクシー運転手の動機や背景は、今のところ分からない。ただ、動画を見ても明らかなように、これは不慮の事故ではなく、無関係な通行人を撥ね飛ばすことを意図しながらアクセルを踏み込んでいる。全くノーブレーキであるのは、無差別に人を殺すためだったのか。しかもそれを実行したのは、車のプロであるタクシー運転手であるというから驚く。
いったい何が、この運転手を「悪魔」に仕立てたのか。運転手の重罪は免れないだろうが、そうなった経緯や理由が全く見えず、理解に苦しむばかりである。
市民を巻き込む「社会報復事件」
日付が変わって20日の午前0時頃、広西チワン族自治区南寧市の夜市(夜を中心に営業する露店街)に出店していた複数の屋台に、乗用車が突っ込む事件が発生した。
国際放送「希望の声(soundofhope.org)」によると、加害者と被害者、いずれもこの夜市で屋台を経営する店主で、店も隣同士だったという。この日、2人は口論となり、その後に事件は起きた。
SNSに投稿された動画のなかには、テーブルや椅子などが散乱した現場の様子や地面に横たわる負傷者の姿があった。事件を起こした車を運転していた店主は、現地警察によって逮捕されている。一体どれほどの負傷者が出たか、どれほどの同業者が店を破壊されるなどの被害を被ったか、今の段階でははっきりしない。
犯人である加害者が誰かに対して、いかに個人的な怨恨を抱いていたとしても、それを無関係な市民や同業者を巻き込む「異常な社会報復」に広げる必要があったとは、とても思われない。
しかし今の中国には、この「異常な社会報復」があまりに多すぎる。社会全体が病んでいる、としか言いようがない。
言行を慎み「薄氷の上を歩くように」
いまの中国社会全体が、真っ黒な邪気(じゃき)に満ちている状態だ。この邪気を、中国語では「戻気(リーチー)」と呼ぶ。
このごろ「今の中国社会は邪気が満ちている。人と衝突を起こさないようにしよう」といった趣旨の動画が、SNSで拡散されている。その要旨を、以下に挙げる。
「今の中国社会は邪気が強すぎる。失業した、破産した等々で、人々はますます憂鬱になり、不安になっている。なかには精神的に崩壊寸前の人も少なくない。だから、あなたの言葉や行動1つが、ラクダの背骨を折る最後のワラになりかねない。あなたは、自分の周りにいるそのような人たちが、どんな極端なことをしだすか、あなたには全く予想不可能だ」
「だから、外へ出た時は、できるだけ我慢して、対立を激化させないように、冷静になることが必要だ。いかなる人の前でも、またどんな場面であっても、決して人前で自慢話をしてはならない。今の社会は、多くの人が心の奥に吐き出せぬ怒りを抱えている。あなたの心無いちょっとした言動、ひいては友好的ではない視線ひとつさえも、誰かを刺激しかねない」
「警備員、宅配業者、食事デリバリースタッフなどに対しては、本当に礼儀正しく、笑顔で接してあげなければならない。なぜならば、彼らは職業の性質上、この社会で多くのストレスを受けているからだ。ラクダの背骨を折る最後のワラにならないように。さもなければ、彼らの不満や怒りはすべてあなたに向けられかねない」
「車を運転するときや列に並ぶ時は、割り込みをしない。公共の場で電話しない。大きな声でしゃべらない。誰かにぶつかった時は、すぐに謝る。エレベーターに乗る時も(先を争わず)できるだけ後ろに立つ。言行を慎み、薄氷の上を歩くときのように緊迫した心持ちでいることだ」
「あなたの相手や周囲の誰かが精神的に突然キレて凶悪犯に豹変しないよう、あなたが十分注意しなさい」
個人でできる対策としては、上記のような心構えも無駄ではないだろう。しかし、今の中国社会がこれほど邪気に満ち、どこで無差別殺人に巻き込まれても不思議でないほど悪化してしまった現実からすれば、「あなたが十分注意しなさい」という呼びかけは、根本的治療ではなく、ささやかな対症療法でしかない。
現代中国の「邪気が充満した社会」
実際、自殺や社会報復事件など「中国社会の邪気」がもたらす悲劇は、中国国内のどこかで、ほとんど毎日起きている。
それぞれを個別の案件として見れば、職場や家庭内のトラブルがあったり、経済的にひっ迫するなど、犯行に至るまで追い詰められた具体的な状況はあるだろう。しかし、総じて今の中国社会には、この「戻気(邪気)」があまりにも濃厚なかたちで充満しているのだ。
だからこそ「自分でどんなに人とのトラブルに巻き込まれないように気をつけていても、外へ出れば、無差別切りつけや暴走車などの社会報復事件に巻き込まれる可能性がある」といった、どうしようもない嘆きの声も少なくない。
「戻気」が充満した社会は、まさに現代中国の闇であると言ってよい。その闇に新たな光が差さない限り、自殺者や社会報復事件が今後も継続、あるいは増加することは避けられないだろう。
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