日本の建設・解体業の闇 多重構造化による無責任

2023/09/25
更新: 2023/09/25

東京都品川区の南大井3丁目で違法で危険なビルの解体工事が9月4日に止まった。状況がネットで拡散し、区民の懸念に、品川区が動いた。私はその告発に関わった。こうした違法工事の早期解決は珍しく喜ばしい。しかし、この事件を通じて多重下請け構造や、悲惨な環境の外国人労働者など、日本の産業界が抱える問題が見えて暗い気持ちになっている。

危険だらけの異様な工事をする外国人

違法なビルの解体工事(23年9月3日、筆者撮影)

私は外国人の違法行為を報道してきた。そのために、この工事に困る複数の住民が通報してきた。9月3日の日曜日午後に現場を取材し、写真や映像をネットで拡散し、翌4日に区役所、警察など各行政機関に通報した。品川区は4日に速やかに介入して、元請けを呼び、工事中止と計画の再提出を求めた。元請け業者はこれに従った。こうした行為は行政が動かずに住民が泣き寝入りすることが多いのだが、今回は違った。品川区の行動を高く評価したい。そしてセンセーショナルな映像ゆえに、テレビが次々と伝えた。

事後的に2枚の現場写真を、解体の専門家に見てもらった。義務化されている工事事業者の看板の掲示がなかった。解体では、周囲に防音と粉塵の飛散を防ぐ幕をかける必要があるのにそれが一部にしかなかった。廃材がはみ出て、隣のマンションの塀を壊している。道路の使用許可証もなかった。廃材が前の歩道まで溢れていた。重機が現場に乗り入れられ傾いており、横転の可能性があった。隣のマンションの敷地、道路が壊されていた。

次は読者提供の写真だ。重機(ユンボ)の手の上に乗り、幕を吊るす紐を電線か通信線に引っ掛ける工事をしていた。乗っている外国人労働者が落下する危険があり、大規模な停電や通信障害が起きたかもしれない。

重機の手の上に乗る外国人作業員(筆者撮影)

「違法だらけで、想像を絶する。全てがおかしい。狭い場所に重機を入れる場合はありえない。こうした場合は人力で上から順に壊す」と、日本人の解体業経営者は語った。

多重請け負いによる無責任状況

私は工事関係の公文書をたどり、発注者と元請け会社の渉外を担当する日本人、2次請けをするトルコ人の解体業者にたどり着けた。

発注者は、この土地を購入した小規模ディベロッパーだった。この社長は、解体のことを全く知らず丸投げをして、現場も見ていなかった。私の写真がSNS写真に「驚愕した」という。「無責任ではないか」という私の問いに、「その通りで反省します。責任も負います」と話した。

元請けは、中国人の経営する解体業者だ。パートタイムで、その会社渉外を担当する日本人に話を聞けた。彼は手続きだけを担当し、工事の状況を知らなかったという。経営者の中国人は、ひどい工事を「2次請けが勝手にやった」と言っていたそうだ。

解体工事では、健康被害を起こすアスベストと廃棄物処理が、常に問題になる。アスベストは成型材にしか使われておらず、工事初期に切り出して処分していたという。また産業廃棄物の処理ではマニフェストという計画の策定が義務付けられるが、それは作り履行していたそうだ。ただし、それが正しいかは確認できていない。

2次請けは、トルコ人の経営の解体業者だった。彼の説明だが、手作業で解体を進めたが、突如、工期の短縮を求められ別のクルド人の業者も、重機も入っていた。そして、中国人元請けの指示で工事が混乱したという。クルド人はトルコに迫害された難民(怪しいが)と称して日本に居残り、埼玉県南部に集住して、その多くが解体業で働いている。

元請けと2次請けは、責任のなすりつけあいと、アスベストの有無で揉めているが、どちらが正しいかは、筆者にも、住民にも関係ない。違法な工事が止まり、それによる損害が補償され、安全と静謐が確保されればいいだけだ。

現場を見たが、近くに寄るだけで埃っぽく、危険を感じてすぐにそこを離れた。こんなところで解体工事をやっていたら、肺をおかしくしてしまう。アスベストも怖い。中国系の元請けは業者を取り替えたが、トルコ人とクルド人がいなくなったら、今は東南アジア系の外国人が働いていたという。これは読者提供の写真だが、中東系の男が、この現場では高所作業を安全装置もなく、粉塵対策もせずに行っている。彼らの安全や健康が懸念される。

危険な作業を行う、中東系らしい労働者(筆者撮影)

解体業者によると、こうした外国人の低コストの違法な工事によって、日本人の解体業のシェアは奪われているという。

「安さ」追求する日本の産業界の問題

今回の事件は表面的には、速やかに解決した。それはうれしい。しかし日本の解体業の異様さが浮き彫りになったことに、私は暗い気持ちを抱いた。おそらくこの構造は、解体業だけではなく、建設業、そして今の日本の産業界全体に同じ現象が見られるだろう。

コストばかりを考え、無責任の構造が重なっている。事業主はコストしか見ない。責任感がない。受ける下請けも、自分の利益しか考えずに、責任感を持たず、下請けに投げる。多重請け負いが繰り返される結果、末端の事業者は安く買い叩かれるために無理をする。そこでは外国人労働者が安く使われる。一部の外国人の中には法律を無視する人もいる。

こうした状況でいいのだろうか。私たちは商売で、安さだけではなく、その結果のもたらす責任を引き受け開ければならない。安い値段を示されたなら、その理由と中身を考えなければならない。「今だけ金だけ自分だけ」の末路は、「安物買いの銭失い」という商業格言の通りになる。今回の違法解体工事は、まさにその状況だ。そしてさらに、その安物買いをすることで銭を失うだけではなく、日本人と外国人労働者の安全と人権を脅かし、日本社会を自ら壊している。

こういう無責任の連鎖を断つこと、悪意を持ち制度を利用する人々の摘発をしなければ、日本社会と経済が壊れてしまう。

今、岸田政権は、国民に意思決定を求めるわけではなく、なし崩し的にルールを変更して、移民を増やそうとしている。さまざまな規制を、緩和しているのだ。しかし安易に移民労働力に頼っていいのだろうか。財界、政府は、この現実を見てほしい。

私は国全体が「安物買い」の結果、大損をすることを危惧している。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
ジャーナリスト。経済・環境問題を中心に執筆活動を行う。時事通信社、経済誌副編集長、アゴラ研究所のGEPR(グローバル・エナジー・ポリシー・リサーチ)の運営などを経て、ジャーナリストとして活動。経済情報サイト「with ENERGY」を運営。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。記者と雑誌経営の経験から、企業の広報・コンサルティング、講演活動も行う。