米少数派政党、広島や長崎の「原爆使用が数百万の犠牲を回避」説を否定

2023/08/11
更新: 2023/08/11

米国の少数政党であるリバタリアン党は6日の声明で、第二次世界大戦中における広島・長崎への原爆投下について、「数百万の命が救われた」との論説の正当性を否定し、二大政党の従来の主張に挑戦した。いっぽう、少数政党の訴えによる米国および日米間の影響は限定的とみられる。

声明は、軍人や民間人を含め数百万もの犠牲を生みかねない日本本土への侵攻を避けるために、連合国は原爆投下を実施したとの米国の通説は、実情を表してはいないと指摘。「実際には45年5月下旬、日本は降伏を提案しており、加えて石油禁輸の影響で日本は燃料に枯渇し、同年7月末には日本海軍は主要な海軍作戦を完全に停止していた」と述べた。

原爆投下の真の狙いはソ連に対する軍事的圧力をかけることであったが、結果的には冷戦や核軍拡競争を引き起こしたとして、当時の判断を非難した。道義的な憤りや戦略的な疑問を呈した当時の軍高官らの言葉を並べ、原爆投下は「市民を大量殺害する行為であり、広島や長崎の悲劇が二度と繰り返されてはならない」と訴えた。

リバタリアン党は70年代に結成された少数派の政党。50万人の党員や党友を抱えるとされるが、23年時点で連邦議会議員は選出されておらず、今回の声明による米国および日米間の影響は限定的とみられる。

原爆の被害を伝える長崎市のホームページによると、米国が原爆開発に投じた資金は日本の国家予算をしのぐ規模だったという。投下目的については「早期終戦のためと言われているが、20億ドルを投じたマンハッタン計画を誇示する目的もあった」としている。

「ソ連との冷たい戦争の最初の作戦という性格も持っていた」とも指摘している。

米国内では当時の日本への原爆投下を「終戦のために必要」と肯定する見方は少なくなく、世論大手ピューリサーチの調査(2015年)では、過半数が正当化している。日本の世論では正当化され得ないとの回答は8割に及ぶ。

厳しい道中「核のない世界へ」

5月のG7広島サミットでは、米バイデン大統領含む7カ国の首脳たちが原爆資料館を訪問した。時事通信によれば、ホワイトハウスから資料館の長時間の視察に否定的な見解が示されたが、日本側が粘り強く調整を図った。ホワイトハウスは、大統領の訪問がロシアのプロパガンダとして使用されることを懸念していたという。

バイデン氏は40分もの原爆資料館視察について「核戦争の悲惨な現実と、平和を築くための努力を決してやめないという私たちの共通の責任を強く認識させるもの」と述べ、核の脅威がない世界を築くことの重要性を強調した。

岸田政権は「核兵器なき世界」を強く押し出すものの、日本を取り巻く安全保障環境は厳しく、核兵器を保有する中国、ロシア、北朝鮮とは緊張した関係が続いている。

21年1月、米国とロシアは新戦略兵器削減条約(新START)延長に合意したが、ロシアが23年2月に履行の停止を発表。核兵器による威嚇を示唆してウクライナ侵略を続けている。

令和5年度防衛白書によれば、中国は核戦力の拡大を続けており、2035年までに 1500発の核弾頭を保有する可能性も指摘されている。米国は、中国も含む軍備管理枠組みを追求する意向だが、中国は米露間の枠組み参加を拒んでいる。

6日に広島市で行われた原爆死没者慰霊式、平和祈念式で、岸田首相は「核兵器のない世界」について「道のりは一層厳しいものになっている」と述べつつ、「厳しい状況だからこそ実現に向けて、国際的な機運を今一度呼び戻すことが重要」と自身の信念を改めて示した。

9日には国連のグレーテス事務総長も声明を発表し、「人類は今も新たな軍拡競争に直面し」「核兵器が威嚇と強制の道具として使用されている」と述べ、核廃絶を国連の軍縮の最重要課題とすると宣言した。

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。