鄭州水没から2年 「死のトンネル」犠牲者など、今も隠ぺいされる不都合な真実=中国 河南

2023/07/20
更新: 2023/07/20

ちょうど2年前の2021年7月20日。中国中部・黄河のほとりにある河南省鄭州市では記録的な豪雨とダムの放水により、街全体が水没。中国の内陸部にある鄭州は、信じ難いことだが「一面の海」と化した。

同市の地下鉄5号線では、緊急停止した車内に乗客を残したまま浸水した。同市の主要幹線道路の一つである「京広北路トンネル」は、瞬時の増水のため、多数の車がドライバーや同乗者を乗せたままわずか5分で水没し、その多くが脱出できないまま「死のトンネル」へと変わり果てた。

「全ては天災」ひたすら責任逃れする地元政府

地元政府が市民に事前告知せずにダムの放水を行ったことが大惨事につながったとする見方は、今も根強い。

中国当局は「千年に一度の豪雨」であったことを強調する。短時間に大量の雨が降ったのは事実であるが、その被害をここまで拡大させた原因については、行政の無策と無知、重大なミスが重なったことも否定できない。

しかし、そうした「不都合な真実」をふくめて、政府側の責任は完全に隠蔽されている。「すべて天災に起因する事故だ」として政府は一切責任をとらず、犠牲者の遺族は泣き寝入りさせられているのが現状だ。

あの大惨事から2年、真実は隠蔽されたまま

今年7月20日、大惨事から2周年を迎えるなか、犠牲者の遺族や友人はそれぞれの遭難現場へ赴き、花を供えて故人を追悼した。

あの悲惨な水害による「本当の犠牲者数」は今なお不明である。市民に事前通告しないままダムの放水を行った当局への責任追及も、全く進んでいない。

中国官製メディア「人民日報」2022年01月22日付は鄭州の水害を調査した国務院(内閣に相当)の調査チームによる、記者への回答について次のように報じた。

「調査の結果、河南省全省での災害による犠牲者および失踪者は合計398人。うち鄭州市だけで380人を占める」。さらに同報告では、地下鉄5号線での死者は「14人」。京広北路トンネルでの死者は「6人」。および「水没車両247台と認定した」という。

もちろん「全ては天災である」を繰り返し強調し、被害を拡大させた人災としての責任については一切触れていない。そこには被災者への補償問題を避けるため、何がなんでも「天災」にしようとする当局の意図があると見られる。

2021年7月20日の鄭州市内の様子(STR/AFP via Getty Images)
鄭州市民が撮影した当時の状況(大紀元合成)

「首まで水に漬かった」地下鉄5号線の車内

当時、SNSに流れた映像のなかには、浸水した地下鉄の車内で、暗闇のなか首まで水に漬かった乗客の姿があった。

地下鉄5号線での死者数について、国務院調査チームの発表は「14人」だが、実際の死者数は政府発表を大幅に超えるとの見方が今も根強い。

2年前、地下鉄5号線の浸水で犠牲となった乗客を悼み、事故現場の地下鉄出口は、遺族や市民が供えた生花で埋め尽くされた。

当時「犠牲者の多さを無言で語る」生花の列は100メートルにも及んだという。犠牲者数の矮小化をねらう市当局は、市民が現場に手向けた花を黄色い遮蔽板で囲い、この不都合な光景を隠そうとした。

(地下鉄5号線の浸水で命を落とした乗客を悼み、地下鉄出口に供えられた生花)

 

(同年7月27日、地下鉄「線沙口路」駅の入口近くに供えられた生花)

鄭州市に住む時事評論家の唐氏は、「市政府の高官は、上層部から責任を追及され、失脚することを恐れている。そのため(本当の)死亡者数などを隠して、被災状況を隠ぺいしようとしている」と指摘した。

わずか5分で水没した「死のトンネル」

同市の主要幹線道路の一つである、全長2キロ弱の「京広北路トンネル」もこの日、瞬時の増水により、多数の車両が立ち往生したまま水没した。車を運転してトンネルに入った人は状況が全く分からず、脱出する暇もなかったのである。

事故後、地元警察はトンネル付近に警戒線を張り、事故現場への市民の立ち入りを禁止した。スマホでの撮影もふくめ、現場で捜索を見守る市民を追い払うなどして厳しい情報封鎖を敷いた。

(浸水直前のトンネル内の様子。この後、トンネルは完全に水没する)

地元のネットユーザーが投稿した動画の中には、救助隊が多数の遺体を運び出す場面に加えて、密閉された(大量の遺体を搬出していると思われる)ダンプカーや大型トレーラーが深夜に出入りする様子。トンネルから引き出される黒い布に覆われた連節バス(中国で運用される二連式の路線バス)などが映し出されていた。

鄭州市当局は同月24日、豪雨で浸水した市内のトンネル(全長2キロ弱)から265台の車を引き上げ「死亡者は4人(国務院調査チームは6人)」と発表している。

しかし「絶対に、犠牲者はもっと多いはずだ!」とする市民の声は、今も根強い。

実際、トンネル内の死者数に関しては各種の情報があふれており、100人以上から数千人まで、様々な噂が飛び交っている。

トンネルで救助活動を行った作業車の運転手は、SNSに「このトンネルでは、既に6300人以上の遺体が発見されている」と明かしている。ネット上でも「トンネルの端から端までぎっしり渋滞していたと仮定した場合、推定される死亡者数は6000人」とする説が拡散された。

当時、SNS上には、深夜に大型トレーラーを使って遺体を運び出す動画が拡散されて物議を醸した。そうしたことからも「死亡者は4人(あるいは6人)」とする当局の発表を信じる市民はいない。

結局のところ「京広北路トンネル」での死者数は「国家機密」とも伝えられているように、2年後の現在でも、何人がそこで命を落としたのかは不明である。

もちろん当局の戸籍を管理する部門は、市内人口の減少から、この水害に関連する犠牲者の総数を算出しているはずだ。しかし今後、その真実が公表されるのは、中共による政治体制が変わる日を待たなければならないかも知れない。

(水害当時の鄭州市内の様子。動画の一部に遺体が映っています。ご注意ください)

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。