現在、アルツハイマー病の正確な原因究明が進められているなか、一般的な甘味料が発症に関与している可能性を示唆する研究結果が増えてきている。
異性化糖(HFCS)は、加工食品や飲料によく使われる甘味料だ(日本ではよく「果糖ブドウ糖液糖」と表記される)。トウモロコシのデンプンから作られ、安価で保存性が高いため、一般的に砂糖の代わりを担っている。
昨年6月にPublic Library of Scienceに掲載された研究によると、幼少期から異性化糖を摂取したラットは、記憶、感情、神経系機能を司る脳領域に有害な変化を起こした。異性化糖を長期的に摂取すると、これらの脳領域の代謝が長期的に低下し、アルツハイマー病に典型的な変性と認知機能の低下をもたらすことが判明した。
今年3月に米科学誌『The American Journal of Clinical Nutrition』に掲載された研究レビューでも、果糖が高次認知機能に関わる脳領域の代謝を低下させる可能性があると述べられていた。
レビューに携わった研究者たちは、脳内で果糖のレベルが上昇すると、アルツハイマー病のリスクが高まる可能性があると理論づけている。
彼らはまた、ブドウ糖とGI値(食後血糖値の上昇を示す指標)の高い食品の摂取が、脳内で果糖のレベルの上昇に最も大きな役割を果たすことを強調している。2017年のイェール大学の研究では、脳内でブドウ糖から果糖が作られることが発見された。
上述の今年3月の研究レビューの筆頭著者で、腎臓病と高血圧を専門するコロラド大学医学部教授のリチャード・ジョンソン博士は、果糖を長期間与えた実験用ラットの脳内にタウタンパク質とアミロイドβタンパク質が蓄積されることを発見した先行研究を引用した。これらのタンパク質は、アルツハイマー病に関連しているとされている。
ジョンソン博士は声明の中で「アルツハイマー病は食事によって引き起こされる 」と主張している。
また博士は、自身が「サバイバル・スイッチ」と呼ぶ反応に言及している。彼は、食糧難の時代には人間が生き残るのに役立った「サバイバル・スイッチ」が、食糧が豊富な時代には「オン」のままになっているのではないかと推測している。そのため、高脂肪、高糖分、高塩分の食品を食べ過ぎてしまい、果糖の過剰分泌を促してしまうのだという。
博士は、アルツハイマー病の予防、管理、治療に効果があるかどうかを調べるために、果糖への暴露を減らしたり、果糖の代謝を阻害する食事療法や薬理学の試験を行うべきだと提唱している。果糖の代謝が脳内で果たす役割については、まだ限られた研究・知見しか得られていない。
果糖が脳の新陳代謝を変化させる
飲料や加工食品に異性化糖が多用されているため、果糖の消費量は著しく増加していると考えられる。
この甘味料は、健康への悪影響、特に糖尿病の原因となることも示されてきた。
オックスフォード大学で精神医学の博士号を取得し、アルツハイマー病協会で科学プログラムと支援活動のディレクターを務めるクレア・セクストン氏は、「2型糖尿病は、アルツハイマー病や血管性認知症などの認知症の危険因子となりうることが研究により示唆された」とエポックタイムズに語った。
彼女の説明によると、2型糖尿病のリスクを高める要因が認知症のリスクをも高めることが示されたという。また、正常な機能を失った脳内の糖代謝が長期的に低血糖をもたらすことで、認知症のリスクが高まる可能性もあるという。脳は燃料補給として血糖を必要とするからだ。
カリフォルニア大学デイビス校で行われた二重盲検試験では、異性化糖が添加された飲料3本、あるいは砂糖が添加された飲料3本を毎日飲んだ2つのグループは、たった2週間で肝脂肪の増加とインスリン感受性の低下が観察された。
フルーツが健康に悪いわけではない。果糖の余分な摂取が健康に悪いだけだ。多くの加工食品に比べて、フルーツに含まれる果糖は少量だ。
フルーツには栄養素や食物繊維がたくさん含まれており、健康を促すバランスのとれた食生活を維持するのによい。
問題は、自然界に存在する作物から切り離された遊離糖類(果糖、ブドウ糖、スクロース)の摂取だ。これには、大量生産の過程で食品や飲料に加えられる糖分も含まれる。
糖質による健康被害が、果物や牛乳などに自然に含まれる糖質の摂取ではなく、遊離糖の過剰摂取に関係していることは、数多くの証拠によって示されている。
アルツハイマー病は第三の糖尿病?
科学者たちは、2型糖尿病とアルツハイマー病の間に密接な関係があることを報告しており、アルツハイマー病が糖尿病の2倍の頻度で発生していることを指摘している。アルツハイマー病は、2型糖尿病と同様に、体内でインスリンを適切に処理できない代謝異常である可能性があるという説が有力である。
研究によると、インスリンは脳機能に重要な役割を果たし、脳内のインスリン抵抗性は認知機能の低下に関与するとされている。
2021年に米学術誌『Frontiers in Neuroscience』に掲載された研究では、糖尿病性高血糖が脳の高血糖を直接もたらす可能性があることが判明した。これに順応するために、血液脳関門は、脳機能に必要なグルコースをより少なく取り込むようになる可能性があるという。研究者らは、脳の高血糖を、よく知られているアルツハイマー病と糖尿病の関連性に関する妥当性の高い説明として結論づけた。
アルツハイマー病は第三の糖尿病なのかもしれないという説に関心が集まっている。しかし、本当に言われているように発症するのかどうかという点で、意見が分かれている。
セクストン氏は、アルツハイマー病が糖尿病だとは思わないし、それらが同じだと示唆しては、両方の病気の複雑性を説明できないと述べた。
「インスリン抵抗性とアルツハイマー病発症リスクの関連性は研究で示されているが、脳内に過剰なブドウ糖が存在しなくても、アルツハイマー病を発症する可能性はある」
インスリン抵抗性を治療することでアルツハイマー病のリスクを低減できる可能性があるのか、という質問に対して、セクストン氏は、そのアイディアは現在臨床試験で検討されていると述べた。
「実際、昨年のアルツハイマー病協会の国際会議で、T3Dセラピューティクス社は、脳内のインスリン抵抗性を克服し、代謝の健全化を目指すT3D-959の第2相試験から良好な中間結果を報告した」
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