植物油が腸や脳に与える影響とは?

大豆油や神経の健康に悪影響を与える可能性がある

リノール酸が多いトウモロコシ油についても、健康への影響を懸念

●「量が毒を決める」という考え方

現代の植物油が健康に与える影響について、疑問を持つことは賢明かもしれません。例えば、働く母親であるクリスティーンさんは、自宅ではオリーブオイルを使って調理をしていますが、週に一度の買い出しでは、子どもたちのためにスナック菓子やクッキーを購入することもあります。

また、外食やテイクアウトの際にどんな油が使われているか気になり、確認してみたところ、ほとんどがオリーブオイルではない植物油であることに気づきました。そこで、彼女は家にある商品のラベルを見直し、家族が知らずにさまざまな植物油を摂取していることを再認識しました。

現在、植物油はパッケージ食品やほとんどのレストランで広く使用されています。アメリカでは、2023年だけで大豆油が約1,225万トン消費されています。多くの食品に含まれている植物油ですが、新しい研究によると、これらを定期的に摂取すると、腸やに悪影響を及ぼす可能性があることが示唆されています。

 

植物油が脳と腸に与える影響とは?

「植物油」と聞くと健康的に感じるかもしれませんが、実は注意が必要です。製品ラベルに記載された「植物油」の多くは、大豆やトウモロコシなどの種子から作られています。植物油の主成分はほぼ大豆油で、場合によっては大豆とトウモロコシ油のブレンドです。

近年の研究によると、大豆油は腸や神経の健康に悪影響を与える可能性があることがわかってきました。マウスを使った実験は、人間と類似する腸内細菌の働きを通じて、健康に及ぼす影響を調べるのに役立っています。

 

大豆油が腸と脳に与える影響

2023年9月に『Journal of Traditional and Complementary Medicine』誌に発表された研究では、大豆油を与えられたマウスに、ラード(豚脂)を与えられたマウスよりも深刻な神経炎症と腸の損傷が見られました。

この実験では、20週間にわたり大豆油を摂取したマウスの脳と腸のバリア(血液脳関門と腸のバリア:病原体や有害物質の侵入を防ぐための防御機構)に損傷が生じ、腸内の有益な細菌(アッカーマンシアなど)が減少し、病原性の細菌(ドゥボシエラなど)が増加しました。この結果、脳に炎症が発生し、ダメージが確認されました。

血液脳関門の損傷は、脳の炎症を引き起こし、うつ病や睡眠障害、さらにはアルツハイマー病や多発性硬化症などの神経疾患に関連するとされています。

2024年6月に発表された別の研究でも、大豆油やトウモロコシ油の神経への影響が報告されています。妊娠初期から成長期にかけてこれらの油にさらされたマウスでは、運動機能や空間記憶に障害が見られ、抑うつや不安に似た行動も観察されました。これは、脳内での酸化ストレスが過剰になり、神経機能に悪影響が生じたと考えられています。

 

過剰なオメガ6脂肪酸が引き起こすリスクー植物油の知られざる影響

「リノール酸(オメガ6脂肪酸)は腸のバリアを弱め、腸内環境に悪影響を与える可能性がある」と、研究者のデオル氏は警告しています。リノール酸は体に必要な脂肪酸ですが、過剰に摂取すると、慢性的な炎症を引き起こし、さまざまな病気につながることがわかっています。
 

オメガ6過多の問題点

大豆油などに含まれる多量のオメガ6脂肪酸は、腸内の健康な細菌環境に、悪影響を及ぼします。腸内で慢性的な炎症が続くと、善玉菌が減り、有害な病原菌が増える可能性が高まります。さらにリノール酸を過剰摂取すると、腸のバリア機能が損なわれ、毒素が血流に入りやすくなります。その結果、潰瘍性大腸炎のような炎症性疾患や感染症のリスクが高まることが示唆されています。

カリフォルニア大学の研究では、大豆油だけでなくリノール酸が多いトウモロコシ油についても、健康への影響を懸念しています。特にオメガ6脂肪酸は、光や空気、加熱にさらされると酸化しやすく、酸化が進むほど体内に酸化ストレス(炎症)を引き起こします。これにより、細胞膜や脂肪細胞がダメージを受け、長期的には慢性疾患のリスクが高まります。
 

健康への長期的な影響

2018年のレビューでは、リノール酸の摂取が「酸化ストレスや慢性的な炎症、動脈硬化を引き起こす可能性がある」と指摘されています。これらの影響はすぐに現れるわけではなく、酸化したオメガ6が体内に蓄積されることで時間とともにリスクが高まります。

体には解毒システム(グルタチオン、抗酸化酵素、ビタミンEなど)が備わっていますが、オメガ6の過剰摂取により負担が増え、解毒が追いつかなくなることもあります。

種や豆などの自然な形でオメガ6を摂取する場合、抗酸化物質も一緒に含まれているため、体への負担が軽減されます。しかし、植物油を高温で調理すると、アルデヒドなどの有害物質が生成されやすく、これらはDNAやタンパク質にダメージを与え、老化のリスクを高めることがわかっています。

リノール酸の安全な1日摂取量については、まだ確立されていませんが、「量が毒を決める」という考え方が当てはまるかもしれません。健康に影響を与える量の目安は、今後の研究で明らかにされることが期待されています。

 

安価な油ー大豆油が私たちの食生活に与える影響とは?

アメリカで最も一般的に消費されている食用油は大豆油です。この大豆油には、オリーブオイル(リノール酸13%以下)と比べて多くのリノール酸(約60%)が含まれています。現在、アメリカ人の総カロリー摂取の20〜30%は、大豆油やトウモロコシ油、キャノーラ油といった安価な精製種子油から来ているとされ、加工食品やファストフードにも広く使用されています。
 

レストランでの油事情

自宅で大豆油を使わないよう気をつけていても、外食やテイクアウトでは多くの店で大豆油やトウモロコシ油が使われています。これはコストが安く、飲食店で広く利用されているためです。近年、こうした種子油を使用しない店舗も増えており、健康的な油を使用しているかどうか、ウェブサイトでの確認や事前の問い合わせも一つの方法です。また、健康的な油を使用する飲食店を探せるアプリ「Seed Oil Scout」も便利です。

ラーメン(Shutterstock)
ポテトをあげる様子(Shutterstock)

 

オメガ3摂取量の減少と健康リスク

植物油の消費が増えるにつれ、抗炎症作用を持つオメガ3脂肪酸の摂取量は減少しています。オメガ3は細胞膜の健康維持に重要ですが、過剰なオメガ6脂肪酸(リノール酸)の摂取は、バランスを崩し、慢性的な炎症を引き起こすリスクを高めます。血液検査で細胞膜中のオメガ3とオメガ6の比率を確認することも可能です。
 

大豆油の歴史と加工方法

アメリカでは、油糧種子の約90%以上が大豆から生産されており、その多くは遺伝子組み換え技術で栽培されています。大豆油が食用に広く使われるようになったのは20世紀初頭の第一次世界大戦頃からで、もともとはランプの燃料や石鹸の原料として利用されていました。

現代の大豆油の製造では、六価クロム溶剤を使用し、これを蒸発させる工程が含まれますが、微量ながら残留するため、神経への影響が懸念されています。

また、多くの大豆油製品は、水素添加処理が施され、液体の不飽和脂肪酸が固形の脂肪に変えられることで、食品の保存期間が延ばされ、風味も安定します。

しかし、水素添加された脂肪には、加工食品に多く使用され、特にスナック菓子に使用され、善玉菌を減らしてしまうトランス脂肪が含まれていることがあり、これががんや心疾患、糖尿病など慢性病のリスクを高める可能性が指摘されています。製品ラベルに「水素添加」の記載がないか確認するとよいでしょう。

ポテトチップ(Shutterstock)

 

さらに、大豆油は、乳化剤であるレシチンの原料としても使用されており、同様に加工されています。健康を考える場合、注意して避けることが推奨される成分の一つです。

 

腸と脳に優しい健康的な油とは?

体や脳の健康を保つためには適切な脂肪が必要です。すべての油を避ける必要はなく、特に全粒の食材から摂れる多価不飽和脂肪酸(PUFA)*は、抗酸化物質も含まれているため、体に良い影響を与えます。ただし、精製された種子油には注意が必要です。

*多価不飽和脂肪酸(PUFA): ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の2つの主要な種類があります。ω-3脂肪酸は魚油や亜麻仁油に多く含まれ、抗炎症作用や心血管系の健康に良いとされています。一方、ω-6脂肪酸はナッツや種子油に多く含まれ、バランスが重要です。

 

健康に良いオイルの候補

エキストラバージンオリーブオイルやアボカドオイルは、腸と脳に良い影響を与えるとされています。これらのオイルには、70〜80%のオレイン酸(一価不飽和脂肪酸)が含まれ、安定性が高く、オメガ6が少ないのが特徴です。また、抗炎症作用があるポリフェノールや抗酸化物質が豊富で、認知機能の改善にも役立つとされています。

アボカドオイル(Shutterstock)

 

また、高温調理に適した油としては、ココナッツオイル、ギー、グラスフェッドの牛脂、バター、持続可能なパームオイルなどがあり、これらも健康的な選択肢とされています。(科学的なエビデンスはやや少ないですが、健康に良いと考えられています)

もし家族が時折パッケージ食品を楽しむ場合でも、バターやココナッツオイル、ナッツなど加工されていないか加工の少ないホールフード由来の脂肪を使用したクッキーやチップスを販売しているブランドもあります。最近では、伝統的な食品や自然な製法に注目が集まっており、研究もそれに沿ったものが増えています。健康的な脂肪を意識して上手に選択していきましょう。

 

この記事で述べられている意見は著者の意見であり、必ずしもエポックタイムズの意見を反映するものではありません。エポックヘルスは、専門的な議論や友好的な討論を歓迎します。

(翻訳編集 華山律)

臨床栄養士および自然療法士として、2009年より消化不良、依存症、睡眠障害、気分障害に悩む方々を支援するコンサルティングを実施。大学で補完医療を学ぶ中で、行動神経科学や腸・脳の不均衡に強い関心を抱く。それ以来、栄養ゲノミクス、トラウマにおけるポリヴェーガル理論、および栄養療法アプローチに関する大学院レベルの認定資格を取得。