中国の国家主席・習近平氏の政治顧問団に、上海の名門大学である復旦大学の出身者で固めた「復旦幇」というのがある。幇(パン)とは、例外はあるものの、どちらかというと悪い意味での集団や結社を指すことが多い。
「復旦幇」のなかの人物
いずれにせよ中国共産党のブレーンであるので、この「復旦幇(フータンパン)」も良い意味のグループではない。かつて上海に青幇(チンパン)という強大な闇社会組織があったが、語感としてはそれに近い。
その「復旦幇」の代表格が、習近平氏の新指導部で政治局常務委員の7人、いわゆるチャイナ・セブンで序列4位の王滬寧(おう こねい)氏である。
王滬寧氏は、習近平氏の側近としてイデオロギーとプロパガンダ宣伝を担当しており、習氏に「国師(指南役)」と称賛された。また王氏は、江沢民・胡錦涛・習近平の三代にわたる政権を理論面で支えたことから「三朝帝師」と呼ばれている。
習近平氏が提唱する愛国スローガン「中国の夢」をはじめ、習氏が発信する政治的言動の「草案」は、実は王滬寧氏によるところが大きい。
昨年10月の党大会で決まった新指導部は、すべて習近平氏の側近で固められていることが特徴的であるが、なかでも王滬寧氏を「入閣」させたことは、いかに習氏が彼を重用しているかを物語っている。
さて、その「復旦幇」のなかで、王滬寧氏に次いで「奇妙な存在感」を示しているのが復旦大学教授で政治学者の張維為(ちょう いい)氏である。
2021年5月31日、張維為氏は習近平氏によって政治局常務委員会に招かれ、習氏をふくむ党指導部の高官らに講義を行った。講義のテーマは「中国の国際的発信力の建設を強化する(加強中国国際伝播能力建設)」である。
以来、張維為氏は「新しい国師」と呼ばれている。
「3時間で米軍を殲滅できる」とテレビで発言
さて、その「新しい国師」である張維為氏の発言がネットで拡散され、物議を醸している。
中国・上海東方衛視の人気番組「這就是中国(China Now)」に出演した張氏は、台湾統一をめぐる話題を司会者にふられて次のように語った。
「台湾軍など、そもそも眼中にない。中国は最初から米軍の全面的な干渉を想定している。ここでは名前を出さないが、我が国による台湾統一に米軍が干渉すれば、中国軍は1時間で米軍のすべての空母を沈めることができる、と予測する著名な学者がいた。まあ1時間は大げさとしても、3時間もあれば十分だろう。中国軍には、それくらいの能力や自信がある」
また同番組で、世界で起きている「中国排除」の現象について、張氏は次のように述べた。
「中国は最も完全なサプライチェーンのほか、世界最大の消費市場や投資市場を有している。中国は、最も制裁を恐れない国だ。中国を孤立させようとすれば、最終的に中国によって孤立させられるはめになる。だから今は、外国が中国に投資する絶好のチャンスだ。このチャンスを逃してはいけない」
御用学者の「大言壮語」にネット上は冷ややか
「1時間、長くても3時間あれば米軍を殲滅できる」。
中国の民間で「国師」とチヤホヤされる張維為教授の「爆弾発言」に対して、ネット上では「米帝(アメリカ帝国主義)打倒の自信がさらについた」と歓喜する声がある一方で、「このホラ吹きが!」と呆れる声も上がった。
なかには「ボス(習氏)がこれを聞いて、喜べば良いのではないか」と一蹴する人もいれば、「彼が、本気でそう信じていることのほうが問題だ」や「習主席の国師に、そのような狂人がいるのは恐ろしすぎる。本当に唆されて、むやみに台湾侵攻しかねない」といった懸念の声も上がっている。
「ニセ国師」の虚言に踊らされないように!
これに対し、中国問題に詳しい時事評論家の唐浩氏は「習主席は、張維為教授の言うことに耳を傾けるはずがない。皆さんも、彼の発言を真に受けないように」と呼びかけた。
唐氏によれば、張教授は「スズメを追い払う、田畑の案山子(かかし)」と同じで「外界を惑わせて恐怖を作り出すために、中国共産党が利用する存在に過ぎない」という。
さらに唐浩氏は、次のように説明した。
「軍事を知らない部外者である張教授の狂言に、習主席が耳を傾けるはずがない。習氏も、そこまで愚かではない。習氏に、本当に影響を与えられるのは王滬寧や軍事委員会の高層幹部の数人だけだ」
「もし張教授が本当に習氏の信頼する国師ならば、なぜ彼は習氏のそばにいないで、毎日のようにテレビ出演して 軽口をたたくのか。そのことからしても、彼の階級や地位および重要性が高くないことを示している。張教授は、ただ大衆を踊らせるための道化に過ぎない」
「本当に人を噛む犬は吠えない。もし中国が本当に実力があるのなら、何も言わずに、さっさと軍隊を(台湾に)派遣しているはずだ。犬を放って、そこらでうるさく吠えさせる必要はない」
ふくらむ「フグ」の虚勢
さらに唐浩氏は「ウソで真実を隠す」のは中国共産党の常套手段だとして、以下のようにいう。
「特に劣勢になればなるほど、中国は宣伝を盛んにし、世論上での威嚇を強める。そうやって虚勢を張ることで保身を図ろうとする。まるで強敵の前でふくらむ河豚(ふぐ)のようなものだ」
「張氏ような人物がこのように大言壮語するのは、なぜか。それは中共が、自軍の実力が足りず自信がないことと、当分は軍隊を派遣できないことを物語っている証拠だ」
「張教授の大口にしろ(台湾を威嚇する)東部戦区の軍事演習の映像にしろ、それらは目くらましや心理的恐怖の演出に過ぎない。ハッタリをかまして敵を怖がらせることで、こちらがまだ準備できておらず、当分は戦えないことを悟られないようにするのが目的だ」
唐氏はこう述べた上で、中国国内メディアはともかく、海外メディアまで張教授を「国師」と祀り上げて「彼の発言を真に受けたり、宣伝したりすれば、それこそ中国共産党の思う壺だ」と注意を促した。
警戒すべき「中共の国師」は誰か?
では、張維為氏がニセ国師ならば、習近平氏に影響を与えられる「本当の国師」はいったい誰か。
唐浩氏は「それは王滬寧だ」と明言する。学者出身で、中国共産党の序列4位の王滬寧氏は、先述したように江沢民・胡錦涛・習近平という三代の中共トップに知恵袋として仕えてきた。
唐浩氏は「(張維為氏とは異なり)王滬寧は、ほとんど表には出てこない。しかし、この男こそ、真に警戒すべき人物だ」と警鐘を鳴らした。
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