中国、インターポールの国際指名手配書の発行要請数最多…台湾「越境弾圧拡大の恐れ」

2022/11/06
更新: 2022/11/08

国際刑事警察機構(インターポールICPO)は先月、インドのニューデリーで年次総会を開いたが、今年も台湾のオブザーバー参加を認めなかった。背景には、国際機関に高まる中国共産党の影響工作がある。台湾のシンクタンクは、ICPO「越境弾圧が拡大する恐れがある」と危惧を示した。

ICPO総会は先月18〜21日まで開かれた。これに先だち催された17日の記者会見でICPOのユルゲン・ストック事務総長は、ICPOは中国を中国の唯一の代表であり、台湾は中国の一部であるとして、ICPOの年次総会へのオブザーバー参加を認めない考えを示した。

これを受け、台湾外交部(外務省)は警察の職責よりも政治的配慮の方を優先させているとし、遺憾の意を表明した。

台湾国防部の傘下のシンクタンク・国防安全研究院は、ICPOに対する中国共産党の浸透により、ICPOの国際手配書「レッドノーティス」を海外にいる反体制者を弾圧する道具にする恐れがあると指摘した。

同院の楊一逵助理研究員が10月27日付の論考で、権威主義国は拠出金を通じてICPO内での影響力を強化することができるとした。

レッドノーティスとは、ICPOが全加盟国の警察機関に対し、引渡し又は同等の法的措置を目的として、被手配者の所在の特定及び身柄の拘束を求めるもの。楊氏は、レッドノーティスについて、「権威主義国家の一種の『ロングアーム管轄』となっている」と指摘している。

2019年1月、バーレーン政府から要請を受けたICPOがレッドノーティスを発行したことで、同国出身の元サッカー選手ハキーム・アライビ氏がタイに渡航した際に現地当局に逮捕、拘束された。同氏は、政治的弾圧のために母国を離れた。

中国、ICPO国際指名手配書 最多発行

楊氏によると、中国はレッドノーティス発行の要請数が最も多い国の一つで、実際の発行数は2000〜20年の間に10倍に増加したという調査結果もあるという。

新華社通信の2017年9月付の記事によると、中国公安部からの情報として、中国政府がICPOを通じて調査する案件は毎年約3000件で、そのうち少なくとも500件に対してレッドノーティスが発行されていると伝えている。楊氏は、毎年2500件以上の案件がレッドノーティス以外の制度から捜査されており、ICPOは中国共産党の国際法執行能力を拡大させていることになると指摘した。

2020年までのICPOへの資金拠出額が多い上位20カ国のうち、米人権団体フリーダムハウス発表の国別自由度調査で「自由」と判定された国は14カ国、「やや自由」が2カ国、「非自由」が4カ国(中ロ、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール)だった。

民主主義および自由を重んじる国がICPOに拠出した資金は、非民主主義・自由国家よりも多い。しかし「一国一票」原則の下、ICPOにおける「自由」な国の投票総数は77票と投票率全体の4割にとどまり、「やや自由」な国が58票、「非自由」な国が54 票と過半数を超える。このため「やや自由」な国と「非自由」な国が投票結果を左右できるとした。

拠出金介して影響力拡大に利用されるICPO

ICPOは、財源として加盟国からの法定分担金に加え、加盟国政府からの任意の寄付金等も活用している。ICPOの年間活動資金は約1億4500万ユーロ(約212億円)で、そのうち5900万ユーロは加盟国が拠出する。米国が最も高く、次いで日本、ドイツ、フランス、英国、中国。

しかし、活動資金の3分の2程度は加盟国などからの寄付提供に依存しており、ICPOは透明性の低い資金調達への依存度を徐々に高めているとされる。権威主義国家がプロジェクトへの協力を理由に資金を拠出することで影響力拡大の機会を得ている。

例えば、アラブ首長国連邦からの献金で設立された「インターポールより安全な世界のための財団(INTERPOL Foundation for a Safer World)」は、ICPOへの主要な寄付提供者の一つだ。

昨年、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルはアラブ首長国連邦政府が恣意的な拘束、被拘束者への非人道的な扱い、表現の自由への抑圧、プライバシーの侵害など、深刻な人権侵害を続けていると指弾。しかし、同年のICPO総裁選で同国の元内務省主席監察官アハメド・ナセル・アルライシ氏が選出された。

また2020年には、ICPOの第86回総会開幕式に出席した中国の習近平国家主席がICPOの国際的な活動への支援を強化すると明言した。その翌年には、イスタンブールで開催された年次総会で中国公安省の胡彬郴(こ・ひんちん)副局長がアジア代表の執行委員に選出された。

これについて、中国政府がICPOの組織運営・意思決定システムに浸透し、権威主義国家が拠出金を介してICPO内での影響力を強めることができると示しているようなものだと楊氏は指摘している。

李薇