専門家等の見解:発表の遅れた中国国勢調査が暗い見通しを示唆

2021/07/10
更新: 2021/07/10

中国が10年に一度実施している国勢調査の結果では中国の人口増加率は低下を続けている。アナリスト等の見解によると、これは今後数年間で中国の人口動態的、経済的、政治的な危機の要因となり得る「急所」であるという。

2021年5月11日に北京で開催された記者会見で中国国家統計局は、2020年の人口は2019年の14億人から増加して14億1000万人に達したが、10年間の年平均増加率としては1950年代以来の低速を記録したと発表した。同局の発表によると、出生率も4年連続で減少しており合計特殊出生率(女性1人当たりの出産率)は1.3人となる。

2020年後半に実施された同国勢調査の結果では、過去60年で初の人口の絶対的減少の危機から辛うじて免れた感があるが、平均年間人口増加率の減速が続いていることは明らかで、今回の調査では2000年から2010年の増加率0.57%よりも低い0.53%となった。

ワシントン・ポスト紙が報じたところでは、同局の寧吉喆(Ning Jizhe)局長は「人口増加率の減速傾向は今後も続く」と述べている。 一組の夫婦につき子供は1人までとする計画生育政策「一人っ子政策」を含め、世界最大人口を擁する自国の人口増加を抑制することを目的として中国共産党が長年にわたり実施してきた政策により、人口増加抑制目標は達成されたものの、中国人夫婦に複数の子供の出産を許可するだけではもはや解決できない問題が発生した。

2015年に一人っ子政策を緩和する人口・計画出産法の改正案が採択された後も総出生数の減少が続いたことから、2021年5月になって中国共産党は1組の夫婦が3人目の子供を出産することを認める方針を示した。

専門家等の見解によると、たとえ中国共産党による社会的抑制の中にあっても女性の雇用機会が増加しているなど、出生率が継続的に低下する要因は無数に存在する。2020年にニューヨーク・タイムズ紙の報道では、中国では若年夫婦の多くが教育費や住宅費の上昇などにより複数の子供を育てる余裕がないといった金銭的課題に直面している。

しかし、専門家等の見解によると人口増加率減少を招いた最大の要因はやはり一人っ子政策にある。ニューヨーク・タイムズ紙の記事には、「生まれる子供が少なくなっただけでなく、文化的嗜好により女児よりも男児が生まれる確率が高まった」および「一人っ子政策が実施されていた時代に生まれた中国人女性の大部分は現在、妊娠・出産に適した性成熟期の後期に達しているか生殖年齢を超えている。国の人口を維持できるだけ十分な数の女性が存在しない」と記されている。

中国が高齢化による危機に直面することは、随分前からすでに人口統計学者と経済学者の間で予測されていた。人口動態危機が「過去40年間に中国が達成した驚異的な経済変革の『急所』となる可能性がある 」と報じたニューヨーク・タイムズ紙は、中国総人口に占める60歳以上の成人の割合は2010年の13.3%から現在18.7%に上昇したと伝えている。

 アナリスト等の見解によると、こうした危機により人口と労働力の減少だけでなく、高齢者支援のために政府の経済的負担が高まる可能性がある。生産年齢人口が減少すれば、消費者支出が低下し経済が失速する可能性もある。 堅調な経済成長と繁栄の発展を政策成功の証と捉える中国共産党にとって、こうした否定的な展望は政治的に慎重な対応が求められる事態である。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで経済史教授を務める鄧钢(Kent Deng)博士はNBCニュースに対して、「少子化が進むと軍隊にも影響がもたらされる」と話している。実際、米国議会調査局(CRS)は2016年という早期に中国人民解放軍(PLA)が現役軍人300万人超という1992年の推定規模から縮小したと報告している。調査会社「スタティスタ(Statista)」の2021年の統計では、その推定規模は219万人となっている。

鄧博士はまた、人口の減少が中国共産党の長期的安定性に影響を与える可能性があると述べている。 中国にとって世界最大の人口と最大規模の常備軍は国家の誇りである。専門家等の見解によると、中国共産党が人口動態変化による負担に対応できなければ、中国はこの2つの誇りを失うことになる。

当初2021年4月に予定されていた国勢調査の発表が遅れたのは、中国共産党が最初の調査統計に不満を抱いたためとも考えられる。フィナンシャル・タイムズ紙の報道では、当初14億人を下回っていた人口総数データが上方修正された模様である。

中国共産党は発表の遅延は詳細を追加するためと表明しているが、一部の報道機関はデータの食い違いを指摘している。2021年6月に中国共産党により事実上廃刊に追い込まれた民主派の香港紙「蘋果日報」の報道では、中国の国勢調査は「穴だらけ」で「統計アナリストが首を傾げなければならない」データが並んでいる。 中国の主要な人口統計学者の1人も、データが現実と一致していないと考えている。米国ウィスコンシン大学マディソン校の上級科学者、易富賢(Yi Fuxian)博士は、中国の実際の人口は公式に発表された集計よりも1億1,500万人少ないと推定している。

易博士はドイツ国営放送ドイチェ・ヴェレ(DW.com)で、「中国の総人口はすでにインドよりも少なくなっている。中国の経済的、社会的、政治的、教育的、外交的政策はすべて、偽の人口統計データに基づいたものだ」と述べている。 データの信憑性はともかくとしても、今後の見通しは決して明るくない。 中国人口は5年以内に減少し始めると予測するカリフォルニア大学アーバイン校・社会学部の王豐(Wang Feng)教授は、「その後際限なく減少すると考えられる」と話している。

(Indo-Pacific Defence Forum)